第41話 カレン

「まさか、気付かれるとは思いませんでした。流石は私の、愛しい愛しいルークですね?」

「・・・誰だ?」


透き通るような声とは、この人の声を言うのだろう。まだ距離はあるはずなのだが、叫んでもいないのにハッキリと耳に届く。同時に体中から汗が噴き出す。この感覚は、前世で剣術の師匠を死合いをした時以来だ。後ろの3人を無事に逃がす為に、頭脳をフル回転させる。しかし、答えを出せないまま、声の主は部屋の入り口を通り抜ける。その姿に、思わず心を奪われそうになる。絶世の美女なんてレベルじゃない。まさに女神だ。


「やっと見付けましたよ?お久しぶりですね、ルーク。と言っても、ルークは覚えていないでしょうけど。」

「まさか・・・か、カレン・・・姉さ、ん?」

「正解です!良く出来ました~!!いい子いい子。」

「っ!?」


目を離さず、全力で警戒していたにも関わらず、目の前の女性はオレの目の前に移動し、笑顔でオレの頭を撫でている。おまけに、両手で構えていた美桜も奪われていた。オレが予想していたよりも遥か格上。いつか届くかもしれないが、今ではない。


近付くのを待たずに、後ろの3人を連れて転移すべきだった。自分自身の致命的なミス。相手の実力を読み違えた。いや、全く読めなかったのだ。その時点で気付くべきだったのだが、今となっては後の祭りである。こうなっては、相手の機嫌を損ねないよう注意を払い、チャンスを伺うしかない。


「ど、どうしてここへ?」

「ルークという名の冒険者が、帝国に1人で宣戦布告したという情報が入って来たのですよ?確かめに来るのは当然です。」


頬を膨らませている姉に、思わず見惚れてしまう。


「目的は・・・それだけ?っ!?」


オレの質問に、それまでの微笑みが消え真剣な顔つきとなる。同時に殺気も放たれ、後ろの3人が倒れる音がする。耐えきれずに気絶したのだろう。


「ルークにおかしな虫が付いていないか確認する為に来ました。エレナから聞きましたよ?ティナと・・・ナディアという娘と婚約したと。ですが・・・他の女の匂いもしますね?」

「え?あ、あはははは。・・・はい。スフィアという女性とも婚約しました。あと、部下の2人とも婚約しようと思ったのですが、スフィアの立場上愛人という事に・・・。」


笑って誤魔化そうとしたら視線が強められたが、その後の説明を聞き緩められた。


「嘘はついていないようですね。まぁ、いいでしょう。ルークは沢山の妻を娶らなければなりませんから。」

「それってどういう・・・?他にも姉さんに聞きたい事が沢山ある!」

「カレンです。」

「え?」

「私の事は、カレンと呼んで下さい。」

「わかったよ、カレン。」

「いい子いい子~。それで、聞きたい事とは何ですか?」


恥ずかしいので、頭を撫でるのはやめて欲しい。言えないけど。


「全部聞きたい。オレの知らない事は全部。」

「そうですね。いいでしょう。それでは、ルークの生い立ちからにしましょうか。」

「あ、その前に・・・1つだけ。」

「何ですか?」

「オレの婚約者に危害を加えたりは・・・?」

「私がそのような事をするはずが無いでしょう?ルークに嫌われるような事はしませんよ。」


良かったぁ!これでオレの懸案事項は全て片付いた。それなら・・・。


「それなら、婚約者全員にも聞かせて欲しい。カレンに時間があれば、だけど。」

「そうですか・・・わかりました。私は特に用もありませんし、いつでも時間はありますよ。基本的に暇ですから。普段は適当な国を放浪するだけの生活ですし。」


姉さん、それって山下なんとかより酷いよね?あ、おにぎり作りましょうか?


「2週間後にはティナとナディアがシリウス学園前に来る約束になってるから、その時でもいい?それまでは・・・スフィアの所か、この城に滞在だとダメかな?」

「ティナでしたら、今頃はもう学園都市に到着していますよ?」

「え?何で知ってるの?」

「ここに来る途中で見掛けましたから。そうですね、私が迎えに行って来ますから・・・3日後にこの城でお話しましょう。ルークには後処理があるでしょうから。」

「あ、そうだった。わかったよ、じゃあ、3日後にここで!」


そう言うとカレンは転移魔法を使い、オレの前から消え去った。あの人も転移魔法使えるのかよ。どのみち逃げ切れなかったって事だろうな。


オレも転移魔法でスフィアの元へと移動する。オレが転移して来た事に気付いたスフィアは、オレの元へ駆け寄り抱き着いて来た。


「おかえりなさい、ルーク!」

「ただいま、スフィア。」


感動の再開も束の間、スフィアに事情を説明し、世界政府を通して全世界にアルカイル帝国の壊滅が発表される。新国家の樹立については、色々と決めなければならない事があるので、当面はミリス公国が暫定的に代行統治する事になった。


その後も各方面へ奔走し、現在はミリス公国の機能と人材を旧帝国王城へと移動している最中である。転移魔法は国家機密となっているので、通常ルートでの移動である。


そして約束した日の早朝、オレ達は帝国の王城で再会を果たした。

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