第40話 終戦

帝国領は広く、道中をほぼ全速力で進んだが、王都までは2週間を要した。道中で寄り道した影響だろう。結局全ての街や村を回った。だが、そうしなければ後悔していたはずだ。ヤルニの街と同じように被害にあっている街や村があった。被害にあっていない所もあったのだが、壊滅している村もあったのだ。全てを1人では救えないのは理解しているが、納得は出来なかった。改めて、帝国兵の殲滅を心に決めた。


夜は転移魔法でスフィア達の元へ帰る事も考えたが、残忍で冷酷な今の自分を見せたくなかった為、野営をして過ごした。怒りを保ったまま、道中にある街や村で帝国軍を殲滅しながら辿り着いた王都前。


帝国兵は開戦時の4分の1程だろうか。道中で計30万程は相手したと思うから、50万人以上いた事になる。その全てが男性だったのだ。帝国恐るべし。


ちなみに、禁呪はあれから使っていない。街もついでに破壊してしまうので、被害を抑える為にも自重した。属性魔法を連発した方が建物や自然への被害は少なくなる。


ゆっくりと帝国軍の前に辿り着くと、将軍らしき人物が近寄って来た。


「わ、我々帝国軍は降伏する。」

「降伏は認めない。この戦争は、貴様らが帝国兵が全員死ぬまで終わらない。わかったら行け!」

「た、頼む!命だけは助けてくれ!!」

「貴様ら帝国兵は、決まり事すら守らず攻め込み、無関係の人々に対して非人道的行為を行った。助けてくれと叫ぶ彼らを、貴様らは凌辱してから殺しただろう!?」

「そ、それは・・・」

「さっさと戻れ!さもなくば、この場で殺す!!」

「ひ、ひぃぃぃ!!」


恐怖に震えながら、将軍と思しき者は自軍内へと帰って行った。さて、最後くらいは派手にいこうか。


「我が名はルーク=フォレスタニア。誰1人として逃すつもりも、許すつもりもない!せいぜい派手に散るといい!!・・・死ね!!!」


怒号と共に、帝国軍が全軍を挙げて向かって来る。今回は魔法も控えての戦いとなる。王都への被害を考えての事ではない。遠くからの視線を感じる為である。他国の密偵といった所だろう。


数十分間戦場を駆け回り、愛刀となった美桜を振りながら後悔する。死体と血で、足場が酷い状況となったのだ。結局は後始末の為に火を使うのだから、今使った所で大差は無いだろう。と、ルークは言い訳をしてみる。


火属性魔法を乱発し、地面の上にあるあらゆるものを燃やして行く。さながら地獄絵図だろう。魔法を使い出してからは、あっという間だった。10分程で、残る全ての帝国兵を跡形も無く焼き尽くした。残るは王城の皇帝とその臣下のみ。逃がさないように出入り口を氷壁で塞ぎ、城内の気配を探って行く。気配全てが城の1室に集まっているので、気配を殺して進むと、何やら話し声が聞こえる。


「兵達の声が聞こえぬが、戦闘は終わったのか!?誰か、確認して参れ!」

「かしこまりました、陛下。外務大臣!確認して来なさい!!」

「なっ!?宰相閣下、文官の私などより、武官である軍務大臣の方が適任でしょう!?」

「ん、何を言う!ここは1番役職が下の「静かにしろ!」誰だ!?」


不毛な会話に聞き耳をたてるのが馬鹿らしくなり、口論の途中で口を挟んだ。


「誰だと?・・・今回の戦争の相手だよ。」

「「「「「「「「「「なっ!?」」」」」」」」」」


全員が驚愕の表情で、ガタガタと震えている者もいる。いや、正確には1人だけ正気を保った人物がいる。おそらくコイツが皇帝だろう。


「そうか・・・我が国がたった1人の手によって滅ぼされるとは。まるで『女神』の御伽噺ではないか・・・。」

「何を言っている?御伽噺なんかじゃないと思うぞ?」

「な、なんじゃと!?何を言っておるのじゃ!?」

「あぁ、さっき名乗りを上げたから、てっきり城内にも知れ渡っていると思ってたよ。」

「名乗り、じゃと?お主は確か、ランクS冒険者のルークとか申したはず。今更名乗りなど・・・か、家名は何じゃ!?」

「冥途の土産だ、最後に1度だけ名乗ろう。オレの名はルーク=フォレスタニア。『女神』の弟だよ。」

「「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」」


やはり、フォレスタニアの名を名乗る事が出来る事は、どの国でも驚かれる。他人に名乗ってもらいたいが、可哀想なので諦めよう。


「まさか、『女神』に弟がおったとは・・・。確かに髪と瞳の色も同じ、美しい顔立ちも良く似ておる。我が国は、神の怒りに触れたという事か・・・。」

「神?・・・まぁいい。最後に1つだけ問う。何故、兵士の非人道的行為を許している?」

「我が国が最強である為じゃ!兵の士気を高める為には必要な事じゃからな!!勝てば正義!敗者には何の権利も無い!!負ける方が悪い!勝ちさえすれば、何をしても許されるのじゃ!!」


トップの頭が腐ってるから、その下も腐ったんだな。こんな奴らと同じ空気を吸うにも嫌気がさしてきたし、そろそろ終わりにしよう。


「良くわかった。それじゃあ、全員死ね!」


抵抗する間も与えず、全員の首を刎ねる。一応、皇帝の死体は持って行こう。大きめの袋に入れ、アイテムボックスへと収納する。残った臣下の死体は魔法で燃やす。後始末を終えると同時に、近付いて来る数人の気配に気付く。


美桜を抜き入り口を警戒していると、ゆっくりと部屋に入って来る者達と目が合う。


「いやいや、世界最強の帝国軍をあっさりと殲滅ですか。ワタクシ、関心しておりますよ。」

「何もかもが出鱈目な強さ。世界最強でいいと思う。」

「・・・・・吃驚。」


男が1人と女が2人か。顔を隠しているが・・・口ぶりからして、帝国の者では無さそうだ。一応、確認しておくか。


「あんたら、誰だ?ここで何してる?・・・返答次第では斬るぞ?」

「おっと!怪しいでしょうけど、怪しい者ではありません!!」

「我々は、世界政府の情報収集部隊」

「・・・・・覗き趣味?」


最後の小さい女の子、それじゃあただの変態ですよ。世界政府の情報収集部隊?そんなのもあるんだな。


「そうか。で・・・目的は?」

「今回、帝国に戦争を吹っ掛けた人物の情報収集と、戦争の一部始終を見届ける事、ですかね?」

「世界会議で報告する必要がある。」

「・・・・・観覧プレイ?」


何のプレイだよ!?危うくツッコむ所だったが、こういう手合いは無視に限る。それよりも・・・。

「あんたら4人共、同じ部隊なのか?」

「4人?ワタクシ達は3人部隊ですよ?」

「何?なら残る1人は・・・っ!?」


オレが最大限の警戒をしたせいで、隠れていた1人から殺気が放たれる。


「あんたらは今すぐ逃げろ!」

「「「っ!?」」」


完全に委縮してしまったようで、3人は動けずにいる。仕方ないので3人の前へ移動し、4人目が現れるのを待つ。

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