第11話 成人
両親はあの爆弾発言以降、家を空ける事が多かった。たまに帰って来ると、とても満足そうな表情を浮かべていた。きっと何処かで大暴れしていたんだろう。朝食作りに集中して、忘れてしまおう。
そして今日、オレは15歳になった。
家族全員で囲む、久々の食卓。これが終われば、オレ達と両親は、別々に家を出る。残ったこの家は、村の人達が管理してくれるそうだ。自作した調理用魔道具や器具は、自由に使ってもらう事にした。
いつもと変わらない、賑やかな食事も終わり、後片付けを終えて席に戻ると母が切り出した。
「さて、ルークの美味しい朝ご飯も堪能した事だし、そろそろ行くわね。確か2人も世界を回る予定だったかしら?…お互いに、噂を耳にしたらちゃんと私達を探すのよ?約束ね。」
「わかったよ、母さん。…近ければね。」
態々目的地を変更してまで、両親を探すつもりはない。今生の別れではないのだ、いつか出会うだろう。
「まぁそれでいいわ。無理に会おうとする必要も無いもの。お互いに長い人生なんだもの、100年位はあっという間よ。」
「え?…オレも長命種なの?」
「そうよ。本当は秘密だったけど、ティナとの将来に関する懸念は払拭してあげないとね。」
はい、ヒトでは無い事が確定しました。オレの種族、益々謎です。
「そうか。ティナを遺して先に逝く心配は無いのか…。」
「やっぱり心配してたのね。ふふふっ。」
悪戯っぽく笑う母と目を合わせるのが照れ臭くて、そっと視線を外した。
「心配で思い出したけど…いい?カレン様らしき噂を耳にしたら、全力で逃げなさい。」
「…は?オレの出自を聞かなきゃいけないんじゃないの?」
「それは…。」
「ルーク、ティナの為にも、カレン様には会わないようにして欲しい。」
返答に窮した母に代わり、父が告げた。
「当然、理由を聞いてもいいんだよね?」
「あぁ。簡単にしか説明出来ないんだけど…カレン様は、自分より強い相手を求めてるんだ。」
「強敵を求めてる?…武道家なのか。」
「違う。伴侶として求めてるんだ。」
「はん…え?兄弟だよ?近親相姦でしょ。」
「確かに通常、近い血縁での交配は禁忌とされる。だがな、ルークの場合は違うんだ。詳しくは話せないが、問題無い事だけは断言出来る。」
問題無いと言われて簡単に納得出来る程、オレの脳は柔軟ではないらしい。
しかし、それと強さに何の関係があるのだろうか?
「良くわからないから話を変えるけど、それと強さはどういう関係があるの?」
「カレン様が産まれたばかりのルークを見て『きっと自分よりも強くなるから、ルークの子を産む』って言ったらしいんだよ。貴族なんかは一夫多妻が普通の世の中だから、カレン様と結婚しても問題ないだろうだけど、念の為ってヤツだ。いや、問題はあるかもしれないが、カレン様には誰も文句は言えないからな。」
「あぁ…そういう事か…。」
引き攣った父の顔を見てわかった。わかっちゃったよ。オレの姉さん、ある意味残念な人なんだ。
「つまりは血の繋がった姉と、そういう関係にならない為にも『逃げろ』って事だ。」
「いや、そうじゃない。さっきも言ったが、ルークの場合は問題無い。」
「だったらどうして…」
「ティナが『カレン様の障害となる』と判断された場合、最悪殺されるかもしれない。ルークがカレン様より強くなって、ティナを守れるなら心配は無い。だが、そう言い切れないから親としては『逃げろ』って言うしかないんだよ。」
「殺すって…知り合いなんでしょ?」
「敵だと判断したら、一切の躊躇は無いさ。冒険者なら誰でもそうする。そうしなければ自分や周囲の者を守れないって理解してるからな。ルークもそうだろ?良く似てるよ。」
「確かにそうだけどさ…。」
前世からそうだった。身内には甘い。だが、敵対したら厳しい。とことん戦う。黙ってやられる性格ではない。倍返しが基本だった。そんなオレと性格が似てるのは、正直やり辛い。しかし、カレン様より強くなって?姉はそんなに強いのか?
「姉さんはティナやオレよりも強いの?」
「そりゃそうだ。高ランクの冒険者や各国の重鎮にとっては常識に当たるんだけどよ…カレン様は世界最強なんだ。」
「…んん?今何て?」
聞き間違いか?世界最強とか言わなかった?
「カレン様は紛れもなく世界最強なんだよ。あまりの美しさに、力づくで自分のモノにしようとした国王や貴族もいたんだけどな…国ごと滅ぼされてる。」
本物の『傾国の美女』いました!あ、傾国どころの話じゃないか。
「それって罪人なんじゃ…」
「下手に裁こうとすると危険だからな。不干渉って事になってる。」
そんなのアリかよ。つまり、ティナを守る為にも、噂にならないようひっそりと生きるしかないのか。
「理解したよ。無名の冒険者を目指せばいいんだね?」
「理解が早くて助かるよ。一応オレ達がカレン様に報告するから、ルークは必死に逃げてくれ。」
「何もしてないのに逃亡者か。まぁ、地位や名誉に興味無いから構わないけどね。」
「2人とも。あまり長話をしていてもあれだし、そろそろお開きにしましょう?再会したら、ゆっくり話せばいいんだし。」
もっと詳しく聞きたかったが、母にそう言われては諦めるしかないか。これ以上、出立が遅くなると大変だろうし。
「そうだね。それじゃあ、体には気を付けて。」
「ありがと、ルーク。ティナも、しっかりとルークを支えるのよ?」
「はい、お母様。」
母とティナが抱き合って別れを告げるのを暫く見守ると、両親は揃って玄関へと向かう。オレとティナが後から付いて行き、玄関に辿り着くと最後の挨拶を交わす
「ルーク、ティナ、それじゃあ行ってくるぞ。って2人も気を付けて行って来いよな。」
「2人とも、ちゃんと幸せな家庭を築くのよ。あ、子供は最低2人欲しいわね。産まれたら冒険者ギルドに伝言を頼みなさい。すぐ逢いに行くから。」
「はい、お母様。私、頑張ります。」
「2人も仲良く元気でね。」
そんな会話を交わした後、両親は旅立って行ったのであった。
その後荷物を整理し、家を村の人達に任せて、いよいよオレ達も旅立つのであった。
目指すはカイル王国王都ファーニス。
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