第8話 告白

子供ながらにハードな日々を送り、気付けば14歳の誕生日を迎えた。

しかし、この世界に誕生日を祝う習慣は無い。15歳の成人を迎えた際には祝うようだが、それはまだ先の話である。


普段と変わらない朝食の際、両親から食後に大切な話があると言われた。何だろう、修行が激しくなるのだろうか。…嫌な想像しか出来ない自分が情けない。


朝食が終わり、両親の反応を待っていると、父が複雑そうな表情で切り出した。


「ルーク、お前に言っておかなければならない事がある。」

「…何?」


冗談でも言おうと思ったが、とてもそんな雰囲気ではない。珍しく真剣なのだ。ここは大人しくしていよう。


「実はな、お前はオレ達の本当の子供ではない。」

「だろうね。」


あまりの今更感に、普通に返してしまった。すると、両親は驚愕の面持ちで答える。


「気付いてたのか!?どうして…。」

「いや、どうしても何も、自分の顔を見たら『エルフじゃない』って気付くでしょ。それで、何か聞いておいた方がいいの?」

「それは…」


黙ってしまった父に代わり、母が答える。


「本当の両親とか、気になる事は無いの?」

「うーん。特に無いかな。血の繋がりはどうあれ、オレは父さんと母さんが本当の両親だと思ってるから。もちろん姉さんもね。」

「ルーク…」


両親は感激したようで、瞳に薄っすらと光る物を滲ませている。全員が暫く沈黙していたが、母が口を開く。


「話せる事は全て話すわ。しっかりと聞いて欲しいの。いい?」

「うん。」

「まず、貴方の本当の両親はもういないわ。私達がお世話になった方々で、ルークが成人するまでの間、私達が預かったのよ。それから『姉』と言ったけど、貴方には本当の姉がいるの。名前は、カレン=フォレスタニア様。」

「…フォレスタニア?それにカレン様って…」


この世界の名前はフォレスタニア。ファミリーネームもフォレスタニア。一体どういう事だろう?思考に耽る暇も無く、母の言葉は続く。


「色々と思う所はあるでしょうけど、フォレスタニアの名は秘密にしなさい。カレン様と会った時、その名が決め手となるはずだから。他の特徴として、この世界に金色の瞳は貴方とカレン様だけよ。」


「オレと、本当の姉さんだけ?…オレはヒトなんだよね?」

「ごめんなさい。これ以上の事は話せないの。詳しい話はカレン様に聞いてね。」


オレはエルフじゃない。この流れだと、ヒトでもない。神はいなくなったみたいだから…残るは魔族と竜族、それと精霊。精霊は実体が無いらしいから、魔族の線が濃厚か?しかし、オレと姉だけが金眼?ダメだ、判断材料が足りない。この件は姉を見つけるまで保留だな。


「それと、ティナは貴方の従順な従者として教育してきたから、今後は好きに使ってあげてね。」

「使ってあげてって、そんな…姉さんの気持ちはどうなるの?従者とか必要無いし!姉さんの人生は姉さんの物だよ。姉さんの好きなように生きて欲しい。」


オレが本当の下衆なら『夜のお相手に』なんて考えたかもしれないが、流石に誰かの人生を無理矢理自由にしようとは思わない。オレは、自分が嫌な事は他人にはしない。したくない。前世ではそうやって生きてきた。今世もそうするつもりだ。それは変わらない。何よりも、誰よりも自由でありたい。そして、自分の行いはいつか自分に返って来ると思っている。それを踏まえた上で、やられたらやり返してきた。


話が逸れた。とにかく、姉さんの気持ちを無視した考えには従えない。ここはもう一押ししておこう…と思ったら、黙っていた姉さんが口を開いた。


「私は…ルークが迷惑でなければ、ずっと一緒にいたいと思っています。ルークと離れてしまうと、胸が締め付けられる想いがするんです。でも従者は必要無いと言われてしまうと…」


今にも泣きそうな顔で、姉さんは俯いてしまった。いや、まさかそんな顔をされるとは。それ以前に、胸が締め付けられるって…恋ですか?禁断の恋ですか?あ、血の繋がりは無いんだった。じゃあ、いいのか。…いいのか?


脳内パニックのオレを見て、母はクスクスと笑いながら爆弾発言をする。


「ティナがそこまでルークの事を想っていたなんてねぇ。…そうだ!こうしましょう。ルーク、ティナをお嫁さんに貰ってあげなさい。それが一番の解決策よ。」

「は?え?いや…」

「何よ?ティナの事が嫌いなの?」

「いや、姉さんの事は好きだよ。でもいきなりそんな事…」


突然の事に、思わず本音が出てしまった。えぇ、好きですよ。姉さんは性格も外見も素晴らしい。前世では結婚していなかったが、姉さんが相手なら迷う事なく結婚していただろう。姉さん以上の女性はいないと思う。オレ的にはストライク。直球ど真ん中なのだ。断る理由が無い。


オレの混乱など無視して、母は話を進める。


「好きならいいじゃない。はい、決まりね。良かったわ〜、実はティナの将来を心配してたのよね。」

「心配?姉さんなら変な男に引っ掛かっても力で捩伏せちゃうんじゃないの?」

「私が心配してたのは、食事に関してよ。」

「「…あぁ、なるほど。」」


オレと父は納得してしまった。そう、姉さん唯一の欠点。それは、料理の腕が壊滅的な事だ。多くの者が料理の指導を行い、結果惨敗してしまったらしい。料理の得意なオレも教えてみた。しかし、どうやっても殺人的な料理にしかならなかったのだ。姉だけでなく自分の料理の才能まで疑う始末となり、姉には料理を諦めてもらう事となった。


ふと横へ視線を向けると、花が咲いた様な笑顔を浮かべている姉と目が合った。なんか恥ずかしい。視線を逸らそうとしたら、姉がオレの手を取った。


「不束者ですが、宜しくお願い致します。」

「え?あ、はい。こちらこそ、宜しくお願いします。」


拝啓、オレ。まだ誰とも付き合ってないのに、突然婚約者が出来ました。


「まぁ、結婚はルークが15歳になってからの話ね。これで安心して旅立てるわ。」

「え?母さん何処か行くの?」


母の予想外の言葉に、オレは普通の質問をしてしまった。しかし、答えたのは傍観していた父である。


「ルークが成人したら、冒険者に戻る予定だったんだよ。ルークになら、ティナを任せられるからな。オレと母さんの懸念も無くなったし、残りの1年で身体を鍛え直すさ。」

「家を空ける事も多くなるでしょうけど、あまりイチャイチャしないようにね。」

「そんな心配しなくていいから…」

「とにかく、早速数日出掛けて来るから、2人で今後の事を話し合いなさいね。」


そう言って、父と母は自分達の部屋へと歩いて行った。

お母様、今後の事って何ですか?

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