【第二話】約束の1日前

 きたる人生の転機、普通の女子高校生という枠組みから外れる1日前。つまり今は7月30日の朝。

 爽やかで可愛らしい小鳥の鳴き声の目覚まし時計で起床。時刻は6時ちょい過ぎ。

 ゆらゆらと風を受けるレースカーテンから眩しい太陽が見え隠れ……。


「……。ふつう……何もかも変わらないなんて、普通過ぎるっ!!」


 そう、私ましかののは魔法少女になるまで合格通知書が来てから1ヶ月待たされている。

 日常を望むののには1ヶ月は長すぎ! ようやく、明日魔法少女になれるとは言ってもそろそろ我慢の限界――いや、本当は1週間経ったあたりで限界は来ていたんだけど――なのだ。


「そうだよ……せめて今日は、非日常を堪能したい……。1日くらい早くてもいいんじゃないかなぁ……。」


 起きたばかりの頭でぼんやりとしながらそんなことを考える朝(これでおそらく20回目)。とにかく私は日常から脱したい。少しでもいい。


「……流石に本部に行くのはマズいと思うから……どうしよ。」


 只でさえ知識や知恵がないのに寝ぼけまなこで出したアイデアは大抵、まともじゃないよね? ……今回も例に漏れずののはこんなことを思いつきました。


 そうじゃん! クラスのみんなに魔法少女になることを報告しよう! どうせ後でバレるんだし!!と。


 魔法少女になることを報告すれば多少はチヤホヤされて非現実・非日常感を楽しめるのでは? という我ながら浅はかな考え。

 しかし、我慢の限界をとっくのとうに迎えたののには非常に魅力的に写ったのです……。人間、我慢は良くないね。身を持って学びました。


 行動力命! なののはすぐさま実行に移すことにしたのでした……。大丈夫かなぁ、私……。こうして書いてると自分で不安になるよ……。


「よーし! 今日こそは脱・日常!! えいえい、おー!」


明るさと元気だけが取り柄。今日も元気に頑張りました。



 その後、今までにない超スピードで身支度と朝ごはんを終え妹に不審がられながら、ののは早く家を出発することに成功。勿論、早く家を出ればいつもより早く到着する。


 なんて事無い古びた普通の校門をくぐり、ありきたりな教室の自席に着席。

 窓際の一番後ろの席なので今の席は大好き! 窓から体育が見えるのが私的授業中の暇を潰せるで賞。(この間先生にバレて怒られてしまったのは秘密。)

 すると、前の席にいた女の子がこちらを振り向いて微笑んだ。

 クゥ、悔しいけど今日も笑顔が素敵だよこころん!


「ののちゃん、おはよー。今日早いね。どうしたの?」

「こころんおっはーっ! 実はのの、大ニュースがあるんだよー! 何でしょーか! 当ててみてー。」


 こころんは小学生の頃から仲がいいお友達。黒くて長くて、サラサラな髪の毛はいつも触りたくなっちゃう。の髪色は結構明るくてミルクティーみたいな色をしている……先輩に絡まれたりして不便だからこころんが羨ましいといつも思う。


「えー。そんなの分からないよー」

「それじゃつまんないじゃん。テキトーでいいから言ってみてー。」


 きっとびっくりしてくれるだろうな。わくわく。


「うーん……。魔法少女模擬戦のチケット当たったとか?」

「ブー! 確かにそれは嬉しいけどもっと嬉しいことでーす。」


 えー何それー、と言ってこころんは悩んでいた。そのまま2、3分経過し。


「分かんないや。降参。答え教えてよ、ののちゃん。」


 そう言って手を挙げて降参ポーズをし、ふんわりとはにかむ。ののはそれを見て一瞬の間も置かず身を乗り出して答えた。


「ののね、魔法少女になるの!」


 きょと、と親友が目を丸くする様子にこれが非現実! と満足感を覚えていたら……。


「え? お前それマジで言ってる?」


 近くにいた男子を筆頭にえーなになに?と人がだんだんと集まってきて……。


「ののたん、魔法少女になるのー!?」

「すごー!こないだの試験受けたん??」

「有名人になるってこと? 今のうちにサイン頂戴〜」


 登校してきていたクラスメイトが皆集まってきてあっという間に囲まれてしまった。


 魔法少女ってこんなに人気があったんだなぁ、なんてののは呑気に考えながら質問に答えて待ちわびていた非日常を一足先に楽しみました。



「ののちゃん、一緒に帰ろう?」

「いいよー。帰ろ帰ろ。」


 休み時間は大勢の人から質問攻めにあったし、今日の学校は一瞬で終わったように感じたなー。いつもは何倍も遅く感じるのに。これが非日常!!素敵な日だったなぁー。


 いつものように帰路につこうと思ったその時。


「……ののちゃんはさ、本気で魔法少女になりたいの?」

「……え??」


 思いもよらないこころんからの質問。意図は汲み取れなかったけど、表情は心なしか固いような気がする。

 私が怪訝そうにしたからなのか、親友は慌ててわたわたと訂正した。


「あ、ごめんね? 意地悪したい訳じゃないの……ただ、その……。」


モジモジとこころんらしくなく下を向きバツが悪そうにしながら。


「……魔法少女になったらきっと、忙しくなるでしょう? だからちょっと寂しいなって。」


 親友のその言葉に最後まで聞き終わる前に思わず堪えきれなくて笑みがこぼれた。


「もうっ! なんで笑ったりするの!」

「ごめん、だってとても嬉しくて」


 頬を膨らましてご機嫌斜めのこころんの目を真っ直ぐ見つめた。瞳も綺麗な黒色。まつげも長くて程よいカーブがいいなー。


「だいじょーぶだよ! こころん。のの、こころんのこと大好きだから! 安心しての活躍見てて?」


 大好きなこころん。大切なお友達。

 口角を上げて手を握りながらブンブン振っていると親友もつられて笑い出した。


 そのまま2人で狂ったように笑いながら家まで競走して帰った。

 勿論、私が勝ったんだけどね!


 これから来る非現実・非日常に胸を期待でいっぱいにしながら。


 日常も悪くないな、なんて思いました。


 追伸:やっぱり魔法少女になるのは待ちきれないみたいで、うまく寝付けませんでした。遠足前の子供みたい……。


 7月30日 ましかのの


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