第一章

side:ましかのの

【第一話】ましかののはキラキラしたい

 ――ずっと、ずっとキラキラした物が好きだった。物心ついた時にはもう既に夢中になってた。

 でもキラキラっていうのは、ダイヤとかラインストーンとかそういう実際に眩しいようなキラキラじゃなくて。なんて言うか……こう……。


 そう、端的に言うと輝く人々が大好きだった。さっきのキラキラって言うのはステージとかでアイドルとかがキラキラしてるってイメージ。

 これがのの的一番しっくりくる言い方で賞かな。うん。


 そんな普通のどこにでもいる高校2年生代表、ましかのの。 ののは只今人生の絶頂にいます!


 何故なら……何故ならー?


 チャカチャカチャカチャカ、チャン!


 魔法少女になれるお知らせ。つまり、『魔法の卵試験』合格通知書がお家に来たのです!!

 高級感のある臙脂えんじ色の封筒に印刷された特徴的な魔法少女保護委員会のロゴを見るやいなや本物だと分かった。何回もこのロゴを、色を見てきたからね!


「ふわぁ……本当に夢みたい……ののが、魔法少女デビューする日が来るだなんてーっ!!」


 通知書が目に入る度、いや目に入らなくても頬が自然と上がっているのが分かる。


「これは夢!? 夢なの? 夢ならば醒めないでぇー!!」


 持てる力で頬を引っ張っても全然夢が終わる気配がない。ということはこれは確かに現実であるということ。

 どうせ受からないよね、魔法少女も人気だしーって思いながら受けたんだけど……。

 実に嬉しい誤算だ。


 というのも今回の魔法少女保護委員会が行う『魔法の卵試験』は約十年(もう少し長かったかな? )ぶりの募集だったので、ただでさえ人気なのに倍率が物凄かった。

 初めて見たよあんな数字。過去最高の倍率だったと聞いた。ま、そりゃそうか。ネットに上がっている噂では外国から遥々このオーディションを受けに来た人も結構居たとか……居ないとか……。言われてみれば外国人っぽい透明感のある金髪の人が居たような……?


 私、日本人で良かったと思う。飛行機に乗ってまで試験受けに行くとか絶対両親が納得してくれる気がしないからねー。あはは……。

 でも、そこまでして魔法少女になりたい気持ちは痛いほど分かる。


 ののも、キラキラしたい。

 あの子達と活動してみたい。

 それから……長年応援してる魔法少女にも会ってみたい。

 七星あきらさんとかそうみぃ〜♡ちゃんとか忘れちゃいけない茜様とか!


 今まで憧れてきたキラキラに少しでも近づきたいよね。模擬戦とか凄くすごーーーくカッコイイし!可愛い!!

 ふっ、とそこに置いてある封筒を見た。


 あれ、そういえばまだ封筒の封も切っていないような……。馬鹿なの私? なぜ開けなかった……。

 全神経を集中して慎重すぎるくらい時間をかけ封を開けた。中の紙が切れたりしたら怖いから……考えるだけで恐ろしい。

失敗した訳でもないけど、ののは想像するだけで身震いしてしまった。


 封筒には金で装飾された合格通知書――まるで賞状みたい――と大きく『魔法少女になるにあたって』と書かれた高そうなしっかりした紙が2枚入っていただけだった。

 沢山契約書とか読んで、書かないといけないのでは……と思っていたので少し安心だ。

 ……書類に目を通したら委員会本部で結局契約書は書くらしいことが分かったので、この時ののが安心したのは全くの無駄だった。


 プリントに書いてあることを要約すると『魔法少女になるための契約を行うので、魔法少女保護委員会本部まで来てください。』とのことだった。

 日時も指定されておりカレンダーによると丁度1ヶ月後のお昼過ぎ。平日だから学校があるけど……。まっ、休むよね! だって魔法少女だもん!


「すっぽかしたりしたら大変! 忘れないようにしなくちゃねっ……と。」


 グリグリっと赤ペンで7月の31日に目立つように印をつけた。


「よし! これで準備はおっけー!

 後は……。」


 ハッと気づいた。

 魔法少女は皆皆、スタイルが良い。

 のスタイルはというと……お察しの通り。

 鏡は残酷にも正しい私の姿を映している。鏡は悪くないけど、ちょっとは夢を見せて欲しいものだ。


「そうじゃん! 魔法少女になった時のために痩せなきゃね!!」


 思い立ったら即、行動がのポリシー!

 すぐさま自室のドアを勢いよく開けて飛び出し。

 軽やかに家の階段を下り。

 ちょっと曲がっていて長い廊下を走り。


「おかぁさーん! のの、ちょっと行ってくるからねー!」


 リビングで洗濯物を畳むお母さんに元気よく声をかけ。

 お母さんのちょっと、のの!どこいくの!なんていう驚いた声を後ろに聞きながら。


「ごめんね! ののもう待ってられないんだ!!」


 お母さんにスニーカーを履きながら大きな声でそう返事して。


「いても立ってもいられないの!」


 玄関のドアを開けて見えた青空と澄んだ空気に心を弾ませて。


「今日もいい天気!」


 ましかののは勢いよく魔法少女への1歩を踏み出した。


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