人工魔法少女の3月×3日
愛色まりん
第零章
side:???
とある研究員の日記
「……《TOP SECRET》、ね。」
貼り紙を一瞥して少女は迷いなく扉を開ける。サビや鍵など無かったように自然に開く扉に冷たい視線を投げかけ、入る。
今までの生暖かい外気から一変、ひんやりとしている部屋に少女は微かに身を震わせた。
魔法少女保護委員会機密図書館には少女が1人といつの時代のものか古びたノートが1冊。
古びた、と言うよりは何らかの外的要因のせいで古びて見える……と言ったところか。
何があったのか誰も知る由もない。
「これ、1冊を守るためだけに、部屋を作るなんて……馬鹿なのかしら……。お金が、随分と余っているのね……。」
皮肉めいた笑みを浮かべ誰に言うでもなく言葉を発した。
そう、機密図書館という割には書物は皆無。おそらく人が入らない状況になれば何でも良かったのだろう。その割にはあっさりと扉が開いたわけだが。
普通の家のリビングくらいの部屋のど真ん中。ただ一冊、機密書があった。
機密情報であるはずなのに保管の仕方は乱雑で、ただそこに置かれているだけ。透明なケースだとか強固なセキュリティなどの影も見えない。
「……。部屋には誰も入らないから別に……、ってこと……?」
保護委員会は何を考えてるのかしら、と少女は考える素振りを見せたが本来の目的を思い出し、すぐ止めると。
目前のすぐ破けそうな紙に手を伸ばして、数分。
覚悟を決めたかのように一旦、深呼吸をし。
……ページをめくる乾いた音だけが部屋に響いた。
『○月○日:今日は試作品第1号が完成した。これが完成すれば会社は成長できる、期待しているぞと上司に言われた。きっと俺の給料も上がるに違いない、頑張ろう。』
……次のページへと手を伸ばす。
『◇月△日:試作品第1号が動いた!自分で思考し、会話もできるが精度がまだまだと言ったところか……。』
『◇月○日:試作品第1号が完全に自我を持った。ちょっと口数の少ない女の子、と言ったところか。まるでわが子の成長を見ているようで嬉しい。そういえば、自我を持ったことだし俺が名前をつけた。彼女の名前は魔法少女――――と決めた。――――も喜んでくれた。』
『◇月◇日:――――の研究は順調だ。給料も上がった。やった!』
「……なんで、黒塗りされてるの……名前、だけ……。」
また次へ。
『△月☆日:魔法少女――――の魔法を実装した。思った以上の能力を持ったので喜ばれた。』
『△月☆日:彼女は楽しそうに実験に応じてくれている。魔法の威力も上がってきた。』
『△月○日:成果を上げすぎて怖くなってきた。――――を制御出来なくなったらどうするつもりなのだろうか。上司に魔法機能破棄を提案したが却下されてしまった。』
『△月◇日:ついに恐れていたことが起こった。魔法少女――――の力が暴走した。彼女も故意に行った訳ではない。すごく申し訳なさそうにしていた。』
『これ以上の開発は危険だ。俺だけでない。会社だけでない。国すら危ういかもしれない。』
突如現れ始めた不穏な文字列。
少女はただ眉をひそめ、次へ。
『☆月○日:――――が自分を壊してくれ、と泣きながら研究室に来た。親として子の希望は叶えてやりたい、と思ったが上司に彼女の自殺願望思考を排除するよう命令された。上司の前で下手なことをすれば俺も死ぬ。俺が死んだら彼女はどうなってしまうのか』
『☆月△日:――――の感情がないように見える。いくら口数の少ない子とは言っても少なすぎだ。返事しかしてくれない。こないだ削除した思考回路の影響だろうか。今度、大好物のチーズケーキを買ってあげようと思う。』
『メモ:チーズケーキは確かレアチーズケーキで駅前のお店のが気に入っていた。』
『☆月◇日:彼女はもはやただの機械になってしまった。俺が彼女を殺してしまったのだ。チーズケーキはゴミになった。』
『もう、ダメだ。彼女を取り戻す術は無いし、かと言って壊すことも出来ない。』
『上司は両手を上げて喜んでいるが、俺は……。』
『この間の暴走は序章に過ぎなかったと知った。』
『これを読んで――貴方へ。誰か魔法少女――――の暴走を止めてくれないか、―れのせいだ。―――――なんだ。彼女の―を、感―を壊し――――からな―だ。――は―だ―の機械だ。――完―に――に彼女―居ない。俺が悪いんだ。――にこやか―笑顔をもう――。――、一回だけでいいから見―て―――――。――――に笑顔を。――を取り戻してやってくれないか』
最後のページは大部分が滲んでしまっている。
だが、少女には伝わった。
彼が誰で彼女が誰なのか。
愛おしそうに何度も何度も指を動かしそのページの内容を覚えた頃に。
少女の頬に一筋の光が見えて。
「……やっぱり、ね。」
「……そうじゃないか……と、思ってたの。」
ノートをきつく抱きしめて。
もう、離すまいとそう心に誓って。
「私も……。私も、最後に、会いたかったよ。」
「……お父さん」
その後、部屋には少女の声の残響だけが残っていた――。
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