第7話

 繰り返される剣戟は、僕と鬼童が持つ剣がぶつかり合う音。鬼童は足を使い僕をかく乱し、隙に致命の一撃を叩きこもうとする。僕はそうならない様に彼に付いて動き、放たれた一撃を払い落とし、放った一撃を払い落とされ、それを繰り返した。だが拮抗したのも束の間で、まともに打ち合いを演じればまだ鬼童の方に軍配が上がった。彼はその速度もそうだが、踏んだ場数が僕とは違うのだろう。僕よりも常に一手二手多く、まだ速い。直撃だけは許さない様に細心の注意を払うが、体中至る所から血が滲んでいるのが分かる。このままではいずれ……。


「どうした小僧、このままではいずれ儂の剣がそちの首に届くぞ? いっそ楽に――む?」


 僕の視界から色が消える、続いて音が、そして徐々に鬼童以外の何もかもが認識から除外されて行く。一挙手一投足のその全てが先程よりも更に遅く、はっきりと分かるようになる。僕はまだ、この老人を屠るまで終われない。偽りの一撃に秘匿された本命の一筋も、今なら分かる。鬼童は敢えて僕にその太刀筋を見せて、その裏でもう一太刀を常に潜ませていたのだ。命の危機に本能が水際でそれを凌ぎはしていたが、漸く鬼童に追い付いた今ならそれにも対所出来る。


 鬼童という存在を必要最低限認識し、それ以外の要素を全て除外する。彩も匂いも音さえも廃し、脳を彼の動きを捉える事だけに全力稼働させる。そして肉体、これも僕を上回る鬼童の速度に追い付くために全ての制限を取り払う。骨が軋み、筋繊維が次々千切れて行き体が悲鳴を上げるものの、僕はそれも構わずに動き続ける。


 自らの全速に対応された鬼童の顔には確かな動揺の色が浮かぶ。今しかない、情けない話だが、この鬼童という化け物相手に僕が勝てる可能性は、この一瞬にしかない。鬼童と共にこの部屋を所狭しと動き回り、刃と刃をぶつけ合わせる。僕も、そして彼も、その身に傷を増やして行く。鋼の煌めきを紙一重で躱し、弧を描く軌道で鬼童の喉元に刃を走らせる。だがそれを鬼童は剣を割り込ませ防ぎ、そしてその剣で僕の剣を絡め取るとまるで蛇が伝うようにして彼の剣の切っ先が僕に迫った。眼前にそれが迫りながら僕はそれでも腕を突き出す。切っ先は伝う僕の剣が元の位置から移動したことにより顔面を僅かに逸れて僕の首を掠めて行った。そして鬼童、彼は……。


「むう……やるじゃあないか、貴様」


 僕が突き出した剣は彼の肩口を深々と抉っていた。鬼童は確実に僕を殺すべく、僕の剣を己の懐深くまで潜り込ませたうえで捕え、止めを放った。だが今の僕にはそれも見えている、であれば、僕の剣はまだ彼の懐にあってそれを少し前に出してやれば。その考えは間違いでは無かった。

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