第4話

 幾つ昇降口を通っただろうか。戦いに次ぐ戦い、その度に築き上げて行く死。疲れは感じない。肉体の限界など、最早僕には関係無い。この体はいつだって僕の注文に応える、その為に作り上げて来た。それに、わくわくしていると疲れなんて忘れてしまうだろう。次から次へと、人がその命を懸けて僕に挑みかかって来る。これ程嬉しくて、楽しいことは無い。駄目だ、やはり僕は駄目な奴だ。なのにあの子は、あやめは僕に笑いかけてくれる。

 辛いな、苦しい。あやめの為に僕はこの罰を受けるんだ。僕を人殺しに駆り立てようとする快楽に溺れながら、あやめの為に理性を保ち、その葛藤故の苦しみを味わい続ける.


 どの階も構造は同じ、ホテルの客はほぼ全てが敵。そしてその全てを殺した。血の臭いが鼻から離れない。怒号と悲鳴が鼓膜から離れない。嗚呼、幸せだ。僕の人生に於いて、最後となる殺しの快楽。死の晩餐とは、とても良い。いけないな、こんな時に僕はつい笑ってしまう。気を引き締めよう、これから相対する相手はこれまでの雑魚とは違う。


 顔を上げるとそこには一人の男が立っていた。良いスーツだ。体格にも恵まれている。姿勢も良い。きちんと鍛錬が出来ているんだろう。獲物は拳銃のようだけれど、ナイフか何かも隠し持っている筈だ。近付いて僕の間合いに……急ごう。


 男は問答無くきちんとした構えで拳銃を撃ち放った。狙いは正確、僕の動きを読んで次に僕が移動する場所へと先んじて弾丸を飛ばしてくる。男に嘘を読ませ、首を傾け間一髪で眉間を狙った弾丸を避ける。避け切れないものは、仕方がないので、弾丸に刀身を叩き付けて払い飛ばして行く。ここまでしても、男は冷静さを乱さずに後退しながら射撃を続ける。実に良い。強敵だ、気を抜けば殺されてしまう。楽しい、愉しい――!


 弾倉を使い切った男が装填に入る、近付くには絶好の機会。徐々に詰めていた男との距離を駆け抜けて一気に埋めて行く。彼の装填は間に合わない。僕の勝ちだ。剣を構え、尽き出す。より遠い間合いから、いち早く手を出すんだ。


 けれど、僕の手には男の体を貫いた感触がいつまで経とうともやって来なかった。と言うのも、彼は咄嗟に装填を止めて手にした拳銃で僕の剣の切っ先を受け止めていたからだ。良い。良い! 僕が剣を引くよりも速く、男は腰に下げたもう一つの拳銃をホルスターごと僕に向けて放った。

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