第3話

 平穏な日常の中に建つ高層ビルディングの内側は、そんな世界から隔離された地獄そのものだ。僕にとってもそれは変わらない。あまりに快楽が満ち過ぎている。気をやってしまいそうな程の死の臭い。脳みそがその臭いに侵されて、僕の理性に狂気を流し込んでくる。その度に思い出されるあやめの顔が、狂気の中にあって僕から理性を失わせない。なんて惨い、辛い、これがあやめの為に僕が受ける罰なんだ。――ならば受けて立とう。早く終わらせる事など考えず、奴の同胞の一切を悉く殺し尽くし、全ての狂気をこの身に浴びる。あやめの為に。


 まだまだ奴の仲間たちは集まってくる、僕はここだ。逃げはしない。見逃したりしない。見つけた端から殺して行く。先生が僕に教えてくれた剣術で殺して行く。嗚呼、敬愛する先生、ごめんなさい。これだから貴方は僕を見放されたのですね。当然だ。けれど僕は貴方を尊敬しています。だからこそ苦しい、先生の剣で人を殺めることが。だからこそ気持ち好い、先生の剣で人を殺めることが。この葛藤こそが僕の罰だ。


 ――次の昇降口までに、このフロアの人間は全て殺した。あっと言う間だ。快楽と苦痛を感じていると、実に良く剣が踊る。いいや、剣を躍らせているのは僕だ、この事実から逃れてはいけない。……嗚呼、愛しいあやめ。もう少しだ。もう少しで、僕は君の――。

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