第2話

 嗚呼、あやめ。あやめ、愛しいあやめ。何故このような男の元にやって来てしまったのか。こうなる事は目に見えていたのに、どうして僕は彼女を受け入れてしまったのか。


 全ては贖罪の為。これで最後の人斬りにするんだ。彼女の為、彼女の未来の為。全部彼女の為に、僕の全てを掛けて終わりにするんだ。僕の罪で、彼女を、あやめをこの呪いから解き放つ。


 だから、だから今だけはこの悦楽に身を委ねるんだ。きっとこの罪が僕を奴の場所まで導いてくれる。


 怯えた目が見える。僕よりもずっと大きな男が、僕に怯えてその奥歯を鳴らしている。なんて、なんて愛らしい姿だろう。

 振るい下ろされた鉄鎚の速度は緩慢だ、少なくとも僕にとっては。避けるまでもない、僕の方が速いのだから。飛び込んで、握り締めた剣を突き出すだけで良い。切っ先が男の中に沈んで行く光景は、何よりも美しい。男の苦痛と絶望の表情も堪らなく愛らしい。死を前にした人間は、本当に愛らしい。僕はそれが、だから人間が大好きなんだ。


 剣を男の胸から抜き取る前に、僕は男との立ち位置を入れ替える。拳銃の発砲音がすぐに響いて、僕が盾にした男の背中に何発もの弾丸が突き刺さった。その事は、彼の体に突き刺した剣から伝わる衝撃で理解できた。


 銃は嫌いだ。あれでは人を殺した実感を得られない。だが、その絶対的な武器を手にした人が、立場を逆転された時に見せる表情は別格だ。見てみたい、その表情が見てみたい。

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