第2話 押しかけ女房

__真実___



「?なんで?」

「え、だってあの時もそうしたでしょ。そしたら大丈夫だったじゃない。」

「なんの話だ?」


「あの大学の時にお弁当屋さんでアルバイトしてた時だよ。」

待ってくれ。その時まみとは出会ってない。

「発注ミスしちゃったでしょ。大事なお得意様のイベントだったのに。すごい慌てたよね、りゅう君。」

何で知ってるんだ。

「なんで知ってるのって顔してるね。」

「だってあの時私その場所にいたもの。」

「は?」

確かに会場にいたとしても裏の事情まで知ることはできないだろ。

「私ねその時のくまの着ぐるみに入ってたの。」

嘘だろ。

いや、待ってくれ。ほかにもおかしいところがある。そもそもどうやって俺の家を知ったんだ。だってあの時は10年以上会ってなかったんだぞ。年賀状だって交換しなくなったし。実家の電話番号も変わってるし。知る手立てなんてないはずだ。

「他にも知ってるよ。高校生の時ブラックコーヒーと幕の内弁当ばかり買ってることも。その時にあ、りゅう君だって思って、それから」

俺は目の前の女が怖い。とても怖い。というのに俺は聞いてしまうんだ。

「思って?」

「ついて行ったの。家まで。」

背筋が凍った。

「それからずっと見てたの。わざわざ高校は転校したんだよ。気づかなかった?」

「ま、りゅう君は転校生とか興味ないもんね。」

うそだろ、おいおい。待ってくれよ。そんな前から俺のそばにいたのかよ。ずっと俺のことを見てたのかよ。

「だって、約束したでしょ。結婚するって。」

「え、でも幼稚園の頃の話だろ。」

「あの時言ったでしょ。嘘ついたら針千本のますって。」

「だから忘れずにずっと探し続けたんだよ。」

「でも、私以外に彼女を作った時は妬けちゃったな。」

息が詰まる。もう、この料理の味さえ分からない。

「私、りゅう君のことが好きだったからこんなことしたんだよ。りゅう君も同じ気持ちだよね。」

「もちろんだ。」

最悪だ。聞くんじゃなかった。そうしたら俺は幸せだったのに。でも、もう別れることはできない、いやさせてもらえるわけないもんな。

「そっか。」

「そうだよ。さ、早く食べちゃって。お皿片付かないでしょ。」

「あ、ああ。」

いそいでカレーを胃に流し込む。

「ごちそうさま。」

「はーい。」



ああ、この家は居心地が悪いな。あと、この女と何年いればいいんだ。

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