第89話 果なる物、フルルーツ

「ねーねー、つなぎちゃん。

私達の活躍がブルーレイになるんだって」


「へー、そうなんですか?

そもそもアニメ化してたんですね」


「細かい事は気にしなくて良いの!

第1巻は8月32日発売予定だよ。私の誕生日と一緒だね!」


「初回限定版には僕のデビューソング “恋のマジカル☆メカニック” も付いてくるみたいですよ」


「それ別のつなぎちゃんのだからね!?」




   *




「・・・」 ズズズーッ


「はっ!?今まで見ていた販促ショートアニメは!?」


カップラーメンを啜るつなぎと何処かで見たようなリアクションをするアノン。

そう、今のは本編とは無関係のちゃばんに過ぎないのだ。


「何言ってるんですか、料理対決を再開したところじゃないですか」


「そうでした!ところで審査員リンさんは何処ですか?」


「手紙を置いて何処かに行ったみたいですね」ペラッ




親愛なる友達へ

ちょっと旅に出てくるから探さないでね!

PS.料理対決の審査員はオイナリちゃんに任せてあるからテーマは「神様へのお供え物」でよろしくね?



「そんな話は聞いてませんよ!?」


寸分の狂いもない明朝体で書かれた手紙(内容はかなり狂っている)を見て驚くオイナリサマ。犠牲者はいつもひとり!


「お返事の手紙書かなきゃですね!

拝啓 立秋を過ぎても暦の上でのことと言わんばかりに居座る暑さですがお障りなくお過ごしでしょうか――……っと」


可愛らしいピンク色の丸文字を書き連ねていくアノン。

いつものことだがオイナリサマのツッコミは全員スルーである。


「そんなことしてて良いんですか?先攻は貰いましたよ」


返事を書いている間に料理を完成させたつなぎ。

後攻の方が有利なんですがそれは……。


オイナリサマの前に差し出されたのは いなり寿司……のように見えるもの。というのも一戦目でアノンが作ったいなり寿司に再度手を加えた反則スレスレの創作料理だからである。


「これは――っ!?食べられなくはないですね。

不味いですが」


一応説明しておくと、この料理は中華風(の手順で作った)いなり寿司である。

まず酢飯をほぐして炒飯風に作り直し油揚げの中に戻す。そしてそれを蒸して完成。

こうすることで元よりおいしくならないし手間も減らないしヘルシーにもならない。

余計なアレンジは程々に、という典型的な失敗である。


つなぎ、惜しくも得点ならず。


「続けてこちらもどうぞ。私もつなぎさんのをアレンジさせて貰いました。真・タピオカミルクティーです!」


「こちらはまともそうですね。しかし何故でしょう、この違和感は一体……?」



こんな話を聞いた事はあるだろうか、“タピオカの原料はタピオカガエルの卵”だと。

そしてそれがあながち嘘でもなかったとしたら――



「……っ!?」


オイナリサマも違和感の正体に気付いたようだ。


(この口の中を動き回る気持ち悪い感覚は……オタマジャクシ!?何故そんなものが!?

オタマジャクシといえば昔、流しそうめんでオタマジャクシを流して怒られた子供が居ましたねぇ……彼は今、元気にしているでしょうか?

あんな悪戯っ子は滅多に――いえ、別の所にもう一人いましたねスーパーボールを流して周囲をざわつかせた子供が……。

ふふっ、懐かしいものです。案外、二人は何処かで出会っているのかもしれませんね……)


立場上吐き出す訳にもいかず飲み込んだオイナリサマ。

途中から思考が走馬灯のようなものに切り替わり、よく分からない内容と化している。


「どうでしたか、オイナリサマ?」


すぐさま感想を求めるアノン。

何故そこまで自信満々で居られるのか謎である。


「うぷっ……。これはとても採点できるような代物ではありません」


「そんなに良かったんですか!?ありがとうございます!」


「「いや、なんでそんなポジティブに捉えられるのよ」」


呆れるように言う二人のアミメキリン。

息が合っているどころか何故か指を絡めるように手を繋いでいる。

喧嘩してすっちゃかめっちゃか(意味深)しても仲良しなのである。


「良いのですよ、日々楽しく過ごして貰えることほど守護けものとして嬉しいことはありません」


あくまでも威厳を保とうとするオイナリサマ。

ヘイそこのお前!オイナリサマ1人に含まれる威厳はオイナリサマ1人分だぜ?


「ということで料理対決は引き分けとします。それで良いですね?

さて、リンが帰って来る前に解散しましょう」


「解散……できると思った?」ガシィ!!


「ヒィッ!?」


「リンさん!?旅に出たはずでは!?」


「今戻ってきたよ!はい、これお土産ね」


リーンゴーンリーンゴーン!

えへへっ、産地直送の果実の味、君にも届いた?

ほら、目を閉じて心を澄ませると伝わってこない?


「美味しそうな林檎ですね!

……そういえば何処に行ってたんですか?」


「最近異世界との境界戦が甘くなってるから見回り、かな?

ついでに近界の ろっじの呼び鈴をすり替えて来たよ!

そのうち つなぎちゃんのところにも替えに行くからね!」


――リンリ~ン♪


「リンさん……ついに本性を現しましたね?

そんなことはさせません!僕の世界の呼び鈴は替えさせませんよ!」


「守る場所がピンポイント過ぎませんか?」


「つなぎちゃん、もし私の計画に協力してくれたら世界の半分をあげるよ?」


「つなぎ!貰っちゃダメよ!

世界の半分なんて流動性の低い貰っても固定資産税が払い切れないわ!」


これでも自称探偵であり税理士ではない。

だが、検察やら弁護士っぽいことをしていた頃と比べると誤差の範囲である。


「あっちが林檎ならこっちは みかんで対抗ですよ!」


「出た!つなぎさんの みかんフォーム!」


みかんフォーム、それがアミ謎におけるつなぎちゃんの最終フォームである。

全ての闇を吸い込み邪神と化したカミメキリンに対し、愛媛の心をぶつけるためつなぎちゃんが農家のおじさんに弟子入りして手に入れた姿。

人とフレンズを全てみかんジュースに変えれるため最強だが、なぜか読者の評判は悪い。


ちなみにだが、なんとこの説明文は完全にコピペである。

ご存知だろうが完全にネタの範疇であり本編には一切登場していない。

そろそろ怒られてもおかしくないがむしろ怒られたいぐらいなので問題ない(?)


林檎VSみかんの対決が今ここで幕を開ける――

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