第77話 最後の激突

遥か遠い空の彼方から迫り来る凶星――

巨大な隕石は燃え尽きることなく、壊滅的被害をもたらさんとしていた。


落下予測地点:島中心部よりやや南西

地表到達まであと10時間



   *



「これは問題ですね、博士」

「えぇ、なかなか由々しき事態なのですよ、助手」


「お二人にも解決は難しいみたいですね。

正直、ぼくもどうすれば良いか分かりません……

一か八か野生解放で直接隕石を壊すしか……」


「それではダメなのです。

仮に上手くいったとしても被害を軽くする程度なのです。

ラッキービーストの機能が停止した時、直せる者が居なければ我々は全滅なのですよ」


かばんの提案を即座に否定する博士。

隕石の破壊が可能な武器を出せるかもしれないが、それでも直撃よりマシという程度。

降り注いだ破片でLBシステムに障害が発生すればジャパリまんの供給すら行われずにパークは滅ぶだろう。


「ねぇ、ボス。何とかならないかな」


「検索中……検索中……」


サーバルの言葉に反応し、検索中であることを告げるラッキービースト。

既に緊急事態であることを認めているようだ。



隕石衝突まであと8時間



   *



じゃんぐるちほーにて


「あれは何だ?

わからん……全然わからん」


今までに隕石など見たこともないが、何故か嫌な予感が拭えないジャガー。


「わーい!でっかい隕石が終端速度400km/hで落ちて来るよー!たーのしー!!」


理 詰 めリヅメ カ ワ ウ ソ 。

シリアスの破壊成功を確認!

予告通りなので問題なし!!



隕石、衝突するとしたらあと7時間後



   *



「検索完了ダヨ、オマタセ」


答えの出ない議論の中、一縷の希望がもたらされる。


「チョウド 図書館ノ地下ニ、LB-G型ガ廃棄サレテイルヨ。

ソレナラ、ナントカデキル可能性ガ アルヨ」


「やれるだけやってみましょう!

ラッキーさん、わざわざありがとうございます」


「コレモ、ボクノ仕事ダカラネ」


地下室へ向かう かばん達。

ラッキービーストはLB-G型を起動させるべくアクセスを開始している。


「LB-Gシステム起動、再構築中。

権限認証――緊急時ニツキ パス。

アンローダー トノ 接続 クリアー 。

損傷軽微 エネルギー残量28% 出力低下……

コンディション イエロー」


地下室では緑色のラッキービーストが活動を開始していた。

かつて建築物の解体用に開発された超大型クレーンが今もなお残されているという。

それを制御できる権限を与えられたラッキービーストが、このLB-G型である。


「解体対象確認。

質量差カラ解体作業ハ困難ト判断。

ドウニカシテ半分ニ砕ケレバ、アームデ叩キツケテ細カク壊セル可能性ガ高イネ」


「やっぱり難しいですか。

こうなったら、ぼくが行くしか……」


「不確実な方法であることに変わりはないのです」

「とにかく今は落下地点へ向かいつつ策を練るのです」


具体的な手段も決まらないまま落下予測地点へと向かう。

到着した頃には隕石が少し大きく見えた。



落下まで残り 3時間――



「もう時間がありません。ぼくが行って破壊します。

もしダメだった場合、後のことは任せますね」


「意思は固いようですね……仕方ないのです。

助手、これは我々の力不足なのです。

他に有効な方法を用意できなかった以上、止める資格はないのですよ」


「そうですね……

かばん、我々はお前の無事を祈っているのです。

もしもの時は、例え命に代えても――「その必要はないよ。私が来たからにはね!」


予告通り良いタイミングで現れたリン。

後ろではオイナリサマがカセットテープで勝利用BGMを流している。律儀すぎる。


「リンちゃん!?生きてたんですか!?

なんで今まで会いに来てくれなかったんですか。

会いたかったんですよ……?」


涙目で抱きつく かばん。

このシーン単体ならシリアスだったかもしれない。


「かばんちゃん!嬉しいのは分かるけど今は隕石が落ちて――落ちて……?あれ?」


サーバルが重要なことに気づいた。

のだ。


「あ、今は私のターンだからね。

私の行動が終わるまでは止まったままだよ」


ここでまさかのターン制バトルシステム導入。

隕石、地表到達まで残り 20 ターン――


「ということでサクッと壊して来るから、かばんちゃんは下がって待っててね?」


「また一人で行くんですか?」


前科があるだけに不満げな様子。

ジト目かばんは良いぞ!


「大丈夫。今回は一人じゃないよ。

応援してくれる皆が居るから」


遠くの広場を指さす。

その広場には多くのフレンズが集まっており、アノンが提供する料理を、ブルーシートの上で味わっていた。


最も豪快に食べているのはつなぎを着た少女。

美味しそうに頬張る姿は、見ているだけで癒される。


次に良い食べっぷりなのが、犬耳がついた少年。

日持ちのしそうな特製ジャパリまんをマントに忍ばせて持ち帰るつもりなのも高ポイントである。


逆に遠慮がちなのが茶色い毛並みをしたアルパカのフレンズ。

空になったコップに飲み物を注ぐ役を担ってくれている。優しい。


腕に機械を装着している少年も、あまり食事には手をつけていない。

先程からずっと超大型クレーンを観察している。ロマン枠だからね、仕方ないね。


遠目からは分かりづらいが、ニホンオオカミのフレンズと同様の姿をしたセルリアンも来ている。

セルリアンといえど優しくて良い子なのは一目瞭然なので何の問題もない。


最後に、花の形をしたセルリアン。

そもそも食事を必要とするのかすら怪しい。

明らかに何か企んでいる見た目だが、今のところ無害なのでセーフということにしておこう。



「みんなー!いつも応援ありがとう!

今回も張り切って行くから、しっかり見ててねー!」


広場のフレンズ達に向かって大きく手を振る。


「応援席に招待できなかった読み専のみんなもありがとねー!」


……メタい。

メタくない表現が思いつかなかったのが非常に残念なところである。



「リンちゃん、今回はちゃんと帰って来てくださいね?」


「もちろんだよ。

もうハッピーエンド確定って言っちゃってるし、最強装備で固めて来たから何も心配いらないよ」


久しぶりに武器の展開を行う。

本来、素手でも隕石程度なら粉々にできそうだが、最終決戦装備という要素を捨てる理由にしては些細過ぎた。


「何でも貫く矛と、どんな攻撃も防ぐ盾――どう?強そうでしょ?」


強い(確信)


「えっ?それって、その矛でそっちの盾を突いたら――「そぉい!!」


隕石に向かって矛を投げる。

そのまま軽く貫通し、隕石はくだけ散った。


「すっごーい!

でも、そうやって投げるだけで良いなら盾は要らなかったんじゃないの?」


「・・・。第二波、いっくよぉぉぉー!!」


盾は投げ捨てるもの。

守りにしか使えないと誰が決めたか。

使えるものはとことん有効活用する精神は大事。

砕けた隕石は更に細かくなり、大気との摩擦で燃え尽きてゆく。


キラキラと舞い降りる光。


その時の空は、まるで世界が祝福をくれたと思える美しさだった。


そんな光景を目の当たりにし、興味を抱いてはすぐに飽きる者、何が起こったか全然わからん と首を傾げる者、わーい 光の乱反射で起こる現象だー と楽しむ者、特に気にせず普段通りに振る舞う者――

色々なフレンズが居て、みんな自由に生きている。

だからきっと、笑いも騒ぎも絶えないことでしょう。

今もまたどこかでトラブルが起きているかもしれません。



それでも、一つだけ言えるのは



――今日も、ジャパリパークは平和です。




      ~完~

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