第74話 嵐の前の静けさ
店を開いて2日目、まだ宣伝もしてないにも関わらず何故か事情を把握している
今更この程度では誰も驚かないだろうが普通に考えるとおかしな話である。
「日替り1つと持ち帰り用のいなり寿司1人前、それからスマイル1つ、よろしくね」
「はい、すぐにお持ちします!」
ニッコリと満面の笑顔で応じるアノン。
頭についた褐色の羽が小さく羽ばたいているところを見るに心からの笑顔であることがわかるだろう。
「あ、やっぱりスマイルも持ち帰りにできないかな?」
「ぅぇっ!?それは……その、ごめんなさい!」
「冗談だって、冗談」
平然と誘拐していきそうなので冗談には聞こえない。
だいたいは日頃の行いのせいである。
肩書きに誘拐犯が追加されたところで何の問題もないという事情も真実味に拍車をかけている。
「お待たせしました。日替りの デルタカレー・アンチシチュー です」
わりと悪質な冗談に困惑しながらも完成した料理をテーブルに運ぶ。
普通のカレーにスープカレーとドライカレーが一緒に味わえるお得なセットだ。
シチューに何か恨みでもあるのかと言いたくなるが気にしてはならない。語感の問題である。
「おっ、いいね!
カレーといえば、かばんちゃんが良く作ってくれてたのを思い出すよ」
「そういえば会いには行かないんですか?
生きてるって分かったら喜ぶと思いますが……」
「うーん……。多分、近いうちに窮地に陥るから、その時に格好良く登場したいんだよね。
だからその時までは我慢、かな」
「なるほど、その時が来たら私は役立てそうにないですし、邪魔にならないように安全なところに避難してますね」
こんなのが主人公で良かったのだろうか。
こんなのが主人公で良かったのだろうか。
「安全なところからでも十分、役に立てるよ。
私からすれば応援して貰えたらそれだけでもやる気出るからね。
……ふぅ、ごちそうさま!美味しかったよ」
3種のカレーを全て食べ終えると持ち帰り用のいなり寿司を持って店を出る。
「また来てくださいね!」という声に対し、後ろ手に手を振って応えた。
次に向かう場所は何処か、今回の様にただ平穏な日常なのか、未来は既に確定していた――
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