第70話 寒い雪山、暖かい羽毛、熱いバトル

~目撃証言~


「熱々のおでんを用意してあります。

食べさせてあげるのでそのまま正座しててくださいね?」


「待つのです!

我々はダチョウではないのでs……ぬわーっ!?」




「これがラストだよ! ちゃんと避けてねっ」


「自慢のジャンプ力はどうしたのですか!?

そもそも対空砲は狩りに使うような道具ではn……ひでぶっ!!」





   *




一歩一歩、温泉宿を目指して進んでゆく。

途中で通り抜ける冷たい風も、辺りを埋め尽くす雪が太陽の光を反射しているからか、あるいは二種の猛禽類の羽毛をふんだんに使った上着のお陰か、耐えられない程ではなかった。

快く素材を提供してくれた二人には何かお土産を持ち帰るべきだろう。

決してアイアンクローをされたくなければ……などと脅すような真似はしていないのだが、念の為に。

「かばんちゃんは裏表の無い優しい子です」はい、復唱。




歩き続けること約一時間。

ようやく目的地の宿が見えて来た。

飛んで行けば一時間もかける必要はなかったかもしれないが、そういう訳にはいかなかった。

別の表現をするなら「月まで歩いて行くのは火星まで泳ぐのに比べれば容易い」ということである。

もっとも、この格言っぽい何かは今思い付いたことを適当に言ってみただけで深い意味はないのだが。

とりあえず「寒い中飛ぶとなると厚着は出来ないし、色々辛いのでは?」ぐらいに捉えて欲しい。




宿に上がってみると、そこでは二人が激戦を繰り広げていた。


「これで決まりね。

さぁ、お風呂に入るわよ」


「まだ……まだ、負けてない」


19路の盤面で激突するナイトと桂馬。

勢い良く飛び交う1000点リーチ棒

堅実に四隅を抑えるギンギツネの猛攻をライフで受けるキタキツネ。

何のゲームだ、これは。


よく分からない対戦をしている二人を尻目に温泉に向かうアノン。

過剰なダンスレッスンに加え、ここに来るまでの疲れを一刻も早く癒したかったのだ。

ついでに、お風呂から出た頃には二人の勝負も終わっていることだろう。

この時はまだ、そう思っていた――

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