第68話 忍び寄る闇
歌い、踊る――
たったこれだけの単純な行為で人々の心を動かすというのは、どれだけ奥深いのだろうか。
彼女の歌声は、聴く者の心に甘く酸っぱく暖かで切ない何かを残す美声とも呼べるものだった。
それは、良い。何も問題ない。
問題があるのは踊りの方だ。
リズムに合わせて体を動かす――が、止めるべきところで止まれない。
小さな体を大きく動かす懸命な姿は、どこか幼げで、それなりに感動を誘うものの、完成度はさほど高くない。
重力に逆らい、慣性を抑え、姿勢を保つ事が、難しい課題であった。
「来たようですね」
一曲終えたところで博士が助手の方を見ながら呟いた。準備が整ったようだ。
「そのようですね。
良いですか、アノン。
お前にはある事を試して貰うのです。
この方法なら身体能力を数倍にすることも可能なのです。
ヒトが残した文献が正しければ、ですが」
身体能力を数倍にするという夢のような話。
その代価が悪夢となり得ることを、彼女達はまだ知らない。
「お待たせしました!」
普段より元気な声のかばんが図書館に入って来た。
手には一着の服を持っている。
どうやら今回の件と何か関係があるのだろう。
一緒に付いて来ていたサーバルもヘッドホンを装着しているが、今回の件とは何ら関係ない。
45話の名残だろうか。
「ずいぶん早かったのですね。
まだ一時間も経っていないのです」
博士がラッキービーストの通信を介して何かを頼んでいたようだ。
「いえ、アイドルの衣装を作るのは慣れているので……
これでも昔、9人分のデザインと作成をしたことがありますから」
用意していたのはアイドルの衣装であった。
それをどうするのかというと――
「これを着てもう一度踊ってみるのです。
同じフレンズでも服装によってイベント特効が発動することがある、と本に書かれているのです」
・・・。
大丈夫? ファミ通の攻略本だよ?
衣装に袖を通し、踊ってみるアノン。
数倍とまではいかないが、いくらか動きが良くなっている。
この衣装で更に練習を積めばPPPにさえ追い付けそうな感覚すら湧いてくる。
イベント特効持ちはこのぐらい手軽に手に入っても良いもののはずだ。
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