第60話 Silent sympathy

ジィ――ッ。


平原に着いてからずっと感じている視線。

死線をくぐり抜けた者でなくとも分かる、突き刺さるような、視線。


ジィ――――ッ。


途絶える事の無い、穴の空きそうな、視線。

視線を返せば直ぐ様交錯し、膠着した。


ジィ――――――ッ。


時が止まったかのような静寂の世界の中、鳥の少女達アノンとハシビロコウは何を思うか――


(うゅぅ……ずっと見られてるよぉ……。

しかもずっと隙を窺ってるような……?

もしかして、下手に動いたら――狩られる!?)


2人の間を吹き抜ける心地好い風すら感じる余裕もないほどに全力で警戒する少女アノンと、


(かわいい。何ていう鳥の子かな?

聞きたいけど急に話し掛けたら変、だよね……。

見つめ返してくれてるし、大丈夫なのかな?)


フレンドリーに話し掛けたいのに間を置いてしまう少女ハシビロコウの、すれ違いは終わりそうもない。




「おお!もしやスカウトに成功したか!?」


どうやったらそんな風に見えるのか、無言かつ不動の2人の前に現れたヘラジカが声をかけてきた。

何やらサッカーでライオンチームに連敗中で、戦力を増やしたいらしい。

ヘディング以外にも頭を使えばなんとかなりそうなものだが、そうならないのがヘラジカクオリティ。

強引に試合への参加が決定した。

話が通じないところもあるとはいえ、全体的に話が早いヘラジカのおかげで、見つめ合うだけで1話を使い切る事態を避けることが出来たのは幸運という他ないだろう。



「勝算はあるか?」


「はい。私の読みどおりに戦局が動いてくれれば、九割ほどで」


包囲して殲滅するような陣形は取らない。……念の為。



試合が始まると、数々の奇策でライオンチームを翻弄していった。

まず、アノンとハシビロコウによる空中パスワークからのシュート(反則)。

次に、ヘラジカにボールを持たせてタッチダウンを狙う「手ではない、前足だ!」戦法(反則)。

更に、人数差を生かして大量のボールで同時にシュートを放つ“ボール増量作戦”――勿論、反則であるがライオン側もノッてきたのでそのまま続行。

バスケの試合並に得点が入る大味なゲームになったが、これぐらいの方がフレンズ的には肌に合うのかもしれない。


結果は99対99。カンストしたので引き分けとなった。


「いやー、良い試合だったよ。

いつもとは違う面白い戦法が新鮮でさー」


誰も思いつかない、思いついても実行しない策略を巡らせるアノンを妙に気に入ったライオン。

ありがたいことに、今晩泊まる場所がなければ城に来ないかと申し出てくれた。

ハシビロコウの「もっと一緒に居たいな」と言いたげな事視線が気になったが、ライオン達とも交流を図るべく、申し出を受け入れた。

城の方が安全そうとか、そんなよこしまな考えがあるとしたら、そこが彼女の伸び代……ですね。



結局、鳥の少女達のすれ違いは、解消される事なく有耶無耶になっていた。

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