それぞれの決断

第167話 大成、ゴッドマザーの手に持ったコップを射抜く

 そこまで言うとゴッドマザーは再び席に戻って座ったが、「はーーーーーー」と今度はかなり長いため息をついた。

「・・・じゃが、そうも言ってられぬ事態が起きたのじゃよ。簡単に言えば『政界のドン』小幌こぼろ周麿しゅうまろ自身も77歳だから、そろそろ政界引退の時期なのじゃが、青葉あおばさんや華苗穂かなほも知ってるかもしれないが、彼の息子で参議院議員の小幌蘭越らんこしは非常の評判が宜しくなく、まあ、想像出来るとは思うが女癖の悪さは父親譲り、いや父親以上とでも言おうか、とにかく結婚、離婚を繰り返して毎回慰謝料も馬鹿にならないから、一部には『蘭越は政治家そのものをやめるべし』とまで言い出す過激な連中が周麿の周辺にはかなりいて、反蘭越派と蘭越派の連中が水面下で主導権争いをしているのも事実じゃよ。その反蘭越派の連中が担ぎ出そうとしていたのが実は蓬栄ほうえいさんじゃよ」

「・・・どうしてお父さんなんですか?」

「・・・青葉さんも華苗穂も知らないとは思うが、政界では『小幌銀山ぎんざんの二男は小幌周麿の息子だ』というのは公然の秘密になっているから、知っている人は知ってるのじゃよ。だが、どこで情報を仕入れたのかは知らぬが、蓬栄さんは既に亡くなっているから、その子供を周麿の後継者として担ぎ出そうとしている反蘭越派の一派もいて、それらが蓬栄さんのお金の出どころが広内金ひろうちがね家というのに気付いて、広内金家につながる人物で蓬栄さんの子供の可能性がある人物として、青葉さんにまでたどり着いたようじゃよ」

「それって、本当なんですか!?」

 青葉が大声で叫んでしまったし、広内金先輩も「それって本当?」と言って口をあんぐりを開けている。

「ああ、本当だよ。今の政治状況だと、恐らく今年の秋に衆議院は解散されて総選挙が行われる。蘭越は衆議院に鞍替えしたいようじゃけど、周麿自身は長女の婿で公設秘書の西にし聖和まさかずを後継者に指名する気でいる。ただ、反蘭越派も西にし一本化の1枚岩ではなくて、周麿を出したがっている一派と青葉さんを後継者にするつもりで西をピンチヒッターとして出馬させようとする一派、周麿を引退させて西を後継者にしたい一派、さらには周麿の長女を担ぎ出そうとする一派の4派に割れている。蘭越派も蘭越を衆議院に鞍替えさせる気の連中もいれば周麿続投を支持する連中もいるしで一枚岩とは言い切れない状況だから、もはや周麿自身も手に負えなくなっているから、周麿本人から婆やと『北のホテル王』広内金山東雲さんとううんに『もし青葉さんが政治家になる気があるなら、西を指名せず自分が出る。青葉さんを自分の孫として引き取って青葉さんを後継者にしてもいい』と言ってきたという訳じゃよ。。このままだと周麿陣営は真っ二つどころか3つにも4つにも分裂しそうで、そうなると広内金家も政界への窓口を失って色々と面倒な事になるから次の選挙までに決めねばならぬ。青葉さん、今すぐとは言わないけど夏までには決断して欲しい」

 それだけ言うとゴッドマザーは右手で傍らにあったコップに手を伸ばした。長々と喋っていたから喉が渇いたのだろう。


“ガッシャーン”


 いきなり音がしたから青葉と広内金先輩が音のした方を振り向いたが、ゴッドマザーが手に取った筈のコップが床に落ちて割れた音だ。しかも

「た、大成たいせい!一体、何があったの?何をしたの?」

 青葉は事に気付いて、恐る恐るといった表情で俺に話し掛けたが、俺の視線は青葉ではなくゴッドマザーに向けられたままだ。

「青葉!さっきまでこの婆さんが言っていた事の殆どは事実だが、1つだけ嘘を言っている場所がある!!」

「「嘘を言ってる場所?」」

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