第163話 大成、昔の話を思い出し、罰ゲームの最後の出来事の真意を知る

「・・・まあ、幼稚園に入るか入らないかの子供たちには大人たちの記念パーティなど退屈以外の何物でもないから、どういう経緯でかは知らぬが華苗穂かなほ大成たいせい君の二人が食堂から抜け出して講堂で『かくれんぼ』を始めたのじゃ。後で華苗穂が白状したのだが、華苗穂が持っていたキッズケータイ、そう、さっき君に渡したキッズケータイを大成君の首にかけさせて『降参するのなら電話をかけなさい』などと言って持たせたらしいのじゃが、本当はGPS機能を悪用して大成君の隠れ場所を探し出すのに渡したのじゃよ。でも、何度かやっているうちに大成君が華苗穂がイカサマをしている事に気付いて、君が講堂のホールのとんでもなく高いところにキッズケータイを隠したから、華苗穂がキッズケータイを見付けたまではいいけど、降りるに降りれなくなって大泣きして、大成君も助けられなくなって、慌てて食堂にいた君のお爺さんの幾寅いくとらさんに助けを求めたから関係者一同が知るところとなって大騒ぎになってのお。結局、レスキュー隊を呼ぶ訳でもなく君のお父さんの比羅夫ひらおさんがアッサリ華苗穂を助けたのじゃが、当然だが後で君も華苗穂も大目玉を食らってシュンとなっておったけど。この話を君は覚えてないかもしれないが、君のお爺さんや伯父さん、それに君のお父さんやお母さんなら覚えてる筈だぞ」

 そ、そうだ、思い出した・・・あの、あの子と俺はたしかに二人で『かくれんぼ』をして、俺がキッズケータイを講堂のステージ上のとんでもない場所に隠した事で、あの後、親父や母さんから大目玉を食らったんだ・・・あの時の女の子が広内金先輩だったとは・・・

「・・・まあ、事の始まりは華苗穂がイカサマをしたのが原因なのだから華苗穂が君に謝ったのじゃが、華苗穂は君がイカサマを見抜いた事と、あんな場所にキッズケータイを隠した事に怒るどころか関心して君を気に入ったらしく、『わたし、あの子と結婚する』などと言い出して、二人で食堂で長々と話していたのじゃが、大成君も華苗穂の事を気に入ったのか『僕、この子をお嫁さんにする』などと言ってたのじゃが、さすがに小さい頃の話だから忘れてしまったのかな?しかもその時に二人で並んで撮った写真をのをどう説明すればいいのかな?」

 ちょ、ちょっと待て。たしかに俺はあの時、講堂で『かくれんぼ』をしたのは思い出したけど、その後に広内金先輩と一緒に話し込んでいたところまでは思い出せないぞ。でもゴッドマザーは半ば揶揄うかのように俺の方を向いて話してるし、広内金先輩はというと顔を真っ赤にしてアタフタしているから、どうやらこの話は本当にあった事のようだ・・・

 はあ!?おい、マジかよー!あの日、罰ゲームなどと称して俺とデートした挙句、最後の最後に、あーんな大勢の人の前でをしでかしたけど、この話が事実で、さっきゴッドマザーが言っていた事と照らし合わせてたら、どう見たって確信犯じゃあないですかあ!予行演習じゃあなくて、本気の本気だったって事ですかあ!?

「・・・その1年くらい後かのお、糸魚沢いといざわ理事長親子に内々に承諾を得て、君のお父さんの比羅夫さんとお母さんの奈井江ないえさんを招待して、その席上、華苗穂を大成君の許嫁いいなづけにしたいという申し出をしたのだが、君のお父さんが返事の代わりにした事が、君がさっき婆やにした通りのことじゃよ」

「へ?・・・親父が?」

「そう。その時に言われたよ。『誰と誰がくっつくかどうかを大人が勝手に決めるな、面白くない』とね。ただ、糸魚沢理事長への義理もあるからその程度にしておくけど、本当なら片目を射抜きたいくらいだとも言われたよ。まさに君がさっきした事、言った事を君のお父さんがした訳じゃよ」

「「「・・・・・」」」

「ただ、君のお父さんも広内金家や糸魚沢家の事情を知ってるから無下むげに断れないというのも分かってた。だから『お宅のお嬢さんをうちの息子の許嫁にしたいのなら勝手にしろ、適当な時に許嫁だと言って息子に引き合わせればいい。もしその時にあいつがお宅のお嬢さんを気に入ったのなら止める気はないけど、そうでなければあいつの好きにさせろ』と言ったよ。だから広内金家から言わせて貰えれば華苗穂は君の許嫁という立場であるが、駒里家と春立はるたち家から見たら華苗穂は君の許嫁ではないという事だ」

「そういう事だったんですか・・・」

「婆やは華苗穂が許嫁だと分かってた上で大成君とデートしたと思っていたから歓喜しておったのだが、どうやら婆やの思い過ごしのようだったな」

「「へ!?」」

 俺も広内金先輩も思わず顔を見わせてしまったけど、一体、どうして俺と広内金先輩が罰ゲームと称したデートをしたのを知ってるんだあ!?

「あ、あのー・・・どうしてお婆様がその話を知ってるんですか?」

 広内金先輩が恐る恐ると言った表情でゴッドマザーに言ったけど、相変わらずゴッドマザーは澄ました表情でいる。

「お前が大成君と手をつないで歩いているのを達美たつみが見ておる。その話を聞かされた時に婆やは別に驚かなかったぞ。それにお前たちが『おりんぴあ』に行ったのもな。ホントに偶然ではあるが役員秘書室の者がお店にいて、お前たちがというのも聞いておるぞ。婆やが店でマスターに聞いたら素直に認めたけど、別にお前が自分の立場をわきまえての行動なら、婆やは一々あーだこーだ言うつもりはないからのお」

「「・・・・・ (・_・;) 」」

「じゃが、本当なら大成君に少々注意したいと思っているのじゃが、ここまで言えば理由が分かるであろう」

「へ?・・・」

 俺はゴッドマザーが何を言いたいのか、さっぱり分からない。でも、青葉あおばが俺の左袖を『ツンツン』と引っ張ったからそちらを向いた。

「・・・たいせいー、この前の土曜日の事を言ってるのよ」

「この前の土曜日?」

「忘れた?太美ふとみさんの件よ」

「あーーーー!!!!!」

 そうだ、すっかり忘れてた・・・俺は土曜日に石狩いしかりさんと罰ゲームと称したデートで映画館や時計台に行ってた・・・恐らくどこかでゴッドマザーの関係者が見ていたんだ・・・

「・・・大成君が華苗穂とは別の女の子と肩を寄せ合うようにして街中を歩いてたのを婆や自身と達美が車から見ておる。たまたま信号待ちをしていた車内から横断歩道を渡る大成君を確認しておるから見間違いなどと言い逃れは出来んぞ」

「「「・・・・・ (・_・;) 」」」

「・・・本来なら広内金家を代表して『華苗穂という許嫁がありながら他の子とデートするなど言語道断である!』と断固抗議したいのだが・・・それをやると君のお爺さんかお父さんに本当に片目を射抜かれるかもしれないから、あくまで今日はやんわりと『他の女の子と遊ぶのは今後は控えて欲しい』とだけ伝えておく事にする。君がけど、駒里家や春立家から見たら、今までの婆やの言葉は越権行為とも内政干渉とも捉えられるから、ここまでの話は聞かなかった事にしておいてくれ」

 そう言ってゴッドマザーはケラケラと笑ったけど、俺の方こそ、まさに『青天の霹靂』『寝耳に水』だから、思わず「どうもすみません」と言ってしまったほどだ。


 あれ?


 ちょっと待てよ、こんな大事な話なのに、なぜ俺と広内金先輩以外にもう1人、青葉がいるんだ?青葉は無関係ではないのか?

 い、いや、もしかして・・・ゴッドマザーは、つまり、青葉は俺の妹だと考えたら筋が通る。兄の許嫁を紹介する席に妹が同席しても何ら不思議ではない・・・となると・・・


 ゴッドマザーは青葉の父親が誰なのか知っている!!

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