第159話 大成、裏の顔をゴッドマザーの口から青葉たちに明かされる

 ゴッドマザーは表情を変える事なくそう言ったけど、広内金ひろうちがね先輩も青葉あおばもほぼ同時に大声を上げた。

「も、百地ももち三太夫さんだゆうといえば戦国時代の忍者だよね!」

「そ、そう、『〇長の野望』とかのゲームにも出てくる忍者だ」

「たしか伊賀忍者の三人衆の一人だったけど、織田おだ信長のぶなが自ら大軍を率いて討伐に出向いた時に死んだよね」

「あー、でも生き延びたという説もあるよ」

「マジ!?」

「今でも百地氏の子孫はいたよね」

「えーと、百地三太夫はゲームとかで知られてるけど実在したかどうかは定かではないし、百地丹波たんばは実在して子孫は現在も残ってるのは私も知ってるわよ。でも、たしか今は『ももち』ではなく『ももじ』と名乗ってるわよ」

「ボクも少しは知ってるけど、百地三太夫は架空の人物という説と、百地丹波と百地三太夫は同一人物という説がある。けど、駒里こまさと姓を名乗っているという事は・・・正当な百地の血筋ではない、もしくは何らかの理由で子孫が駒里姓を名乗る事になった・・・」

「そうなると、大成たいせいが38階まで外壁やベランダを伝って登ってきたとか、今のナイフ技も納得できる!」

「あのバケモノじみたスタミナとか信じられないくらいの身体能力も、こういう事なら納得がいく!」

 青葉も広内金先輩も興奮気味に話してたけど、ゴッドマザーがノホホンとしながら「下手に彼の素性を話すと自分の命の灯が瞬時に消えると思いたまえ」と言ったから、途端に二人とも黙ってしまった。当然だが、平野川ひらのがわさん・島松しままつさん母娘も脂汗をかいたまま沈黙している。

「・・・この婆やが幾寅いくとらさんから知り得た情報では、百地丹波の息子の娘、つまり孫娘の血筋であるから百地姓を名乗ってない。もっとも、華苗穂かなほたちにとっては百地三太夫という名の方が分かりやすいだろうのお。そうじゃろ、駒里大成君」

 ゴッドマザーはそう言いながら自分の手でナイフを抜こうとしたけど全然抜けなかったから苦笑いして立ち上がり、後ろに控えていた島松さんに椅子を取り換えるように言った。島松さんは時間が止まったかのようにずうっと硬直していたけど、このゴッドマザーの一言で「ハッ」という表情をした。恐らく今のゴッドマザーの一言で現実に戻ったようで、軽く頭を下げた後、椅子を下げて壁際にあった別の椅子を持って来たので、ゴッドマザーは「ありがとう」と言ってから座りなおした。

 平野川さんもようやく落ち着いたようで、「どうぞ」と言ってゴッドマザーの対面の椅子を下げたので、俺を中央に、俺の右に広内金先輩、俺の左に青葉が座った。俺がゴッドマザーに投げつけた事でナイフが足りなくなってしまったから平野川さんがナイフを改めてテーブルの上に乗せたけど、その手は明らかに震えていた。


 そう、ゴッドマザーが指摘した通り、俺は百地丹波の子孫、伊賀流忍術の使い手だ。

 もちろん、俺がさっきゴッドマザーに見せつけたナイフ投げ、マンションの38階まで登ってきたのは伊賀流忍術の一端に他ならない。

 でも、それだけで生き残れるほど甘くない。親父が「一人で一個いっこ大隊だいたいに匹敵する」とまで言われるのは、それに加えてを使っているからだ。もちろん、百地丹波の子孫なら誰でも使える訳ではない。こればかりは「天性の才能」がないと無理だ。ジイが鵜苫うとまおじさんや余市よいちおじさんに伊賀流忍術を伝えなかったのは、この「天性の才能」に欠けていたからだ。でも、「天性の才能」がなかったとしても百地丹波の血の力は相当すさまじく、鵜苫おじさんや息子の常豊つねとよさんはオリンピック代表候補にも選ばれる程(二人共、自分から代表候補を辞退するところは親父ソックリだけどね)だし、余市おじさんも同門の剣道四段の鬼鹿おにしか先生相手にヘラヘラ笑いながらも圧倒するほどだ。親父の姉も中学・高校時代は「モーグル界のアイドル」とまで言われた程の無類の強さを誇ってたけど、冬季オリンピック代表の座を2度も自分から蹴った挙句、大学在学中にいきなり現役引退宣言して学生結婚を選んだ人だ。ジイの孫たちもみーんな一芸に秀でた連中ばかりなのは、百地丹波の血のなせる物なのかもしれない。

 だが、ジイが「天性の才能」があると認めたのは、親父と俺しかいない。常豊さんやかえでみどりを始めとした誰もがジイに言わせれば『持ってない』らしい。

 その「天性の才能」が必要なとは・・・

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