第156話 大成、ゴッドマザーからの挑戦状を真っ向から受けることにする

 キッズケータイの通話は切れたけど、たしかにオートロックの前には500ミリリットルのスポーツ飲料が2本置いてあり、平野川ひらのがわさんの姿はなくなっていた。恐らく俺が電話をしている間にオートロックを開けて中に入ったのだろうけど、今はそれを詮索する場合ではない・・・

 さっきまでのゴッドマザーとの電話の内容から推測すると、ゴッドマザーはとしか思えない。それも「裏の顔」とでもいうべきか、ジイや親父の素性を知っている。そして、だという事も知っているとしか思えない・・・

 だが、をここで使ってもいいのか?

 迷っていても仕方ない。俺は一度マンションの外に出るとコートのポケットからスマホを取り出して電話を始めた。連絡先は母さんだ。

『・・・もしもし』

「母さん、俺だ」

『あらー、大成たいせい、どうしたのー?母さんも追加で招待してくれるのー?』

「そうじゃあない」

『へ?・・・それじゃあ、どうして電話してきたの?』

「・・・この場で『あれ』の力を使ってもいいか?」

『いいわよー』

「おいおいー、アッサリOKしたけど、本当にいいのか?」

『だってさあ、あの秘書さんが言っていた『奥様』っていう人はジイの昔からの知り合いだよー』

「マジかよ!?」

『そうだよー。どうせ『自分の力でこの場所までやって来い』とか言われたんでしょ?』

「ああ、その通りだ。恐らくあの婆さん、あ、恐らくではなく120%の確率でジイや親父の『裏の顔』を知ってるとしか思えない」

『そうだよー』

「アッサリ言うなよー」

『まあ、母さんも最初は忘れてたのは認めるけど、あの秘書さんが帰ってから思い出したわよ。何しろ糸魚沢いといざわ理事長に父さんを引き合わせたのは、あの『奥様』だよー』

「ホントかよ!?」

『そうだよー。でもねえ、『あれ』を使ってもいいけど、手荒な真似だけはしないでね。母さんも警察沙汰になるのだけは御免こうむるから』

「分かったよ」

『ま、せいぜい頑張ってねー。母さんはお寿司の出前を取る事にしたからー』

「はいはい、そりゃどーも」

 俺は母さんとの通話を切り上げて建物の上を見た。

「38階か・・・」

 平野川さんが俺に手渡したキッズケータイに入っている連絡先は『おばあちゃん』『かなほ』しか入ってない。しかもキッズケータイだから番号を押して通話するのではなく、その場所にしか連絡できない。

 『おばあちゃん』つまりゴッドマザーに連絡するという事は、俺がゴッドマザーに屈服する事を意味する・・・

 もう1つ、『かなほ』という言う連絡先が意味するのは・・・

「恐らく、穏便に入るには、これしかないだろうな・・・」

 そう呟くと俺はもう一度スマホで電話を始めた。相手は・・・広内金ひろうちがね先輩だ。

『・・・もしもし』

「先輩、俺です、駒里こまさとです」

『おー、どうした?会長もボクも君が来るのをずっと待ってるんだけど、何かあったのか?』

「先輩、一つ教えて欲しいんだけど、先輩の部屋はどこですか?」

『はあ?』

「あー、すみません、ちょっと言葉足らずでした。先輩の部屋の位置は、この建物のどこになりますか?最上階だというのは知ってますけど」

『なーんか言ってる意味がイマイチ理解できないけど、ボクの部屋は駅に面した側の一番西側の部屋だ』

「一番西・・・」

 俺は電話をしながら上を見上げたけど、駅に面した側、という事は南側の一番西が広内金先輩の部屋という事か・・・

「先輩、一つお願いがあるんですけど」

『ん?どうした?』

「俺が連絡したらベランダの窓を開けてもらえませんか?」

『はあ?』

「だーかーら、俺が次に連絡したらベランダの窓を開けて欲しいんです」

『言ってる意味がマジで分からないけど、とにかく電話があったら窓を開ければいいんだな?』

「そうです。多分1時間以内に連絡すると思いますよ」

『分かった。それまでは会長とジャケモンバトルしてるから』

「りょーかい」

 それを最後に俺は広内金先輩との通話を切り上げた。

「・・・さて、やるとするかな」

 俺は軽くストレッチをした後、行動を始めた。


 恐らく、あそこにある防犯カメラでゴッドマザーは今も俺を見ている筈だ・・・


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