第155話 大成、ゴッドマザーと電話越しに話をする
もう既に太陽は見えなくなり西の空がわずかにオレンジ色になっているだけの時間になった頃、俺と
さすが180万都市札幌の駅北口にある超一等地のマンションだ。この建物より高いマンションもここ3、4年の間に次々と作られてるけど、これだけの一等地ともなると相当な値段だというのは俺でも分かる。しかも建物の地下には住人専用の駐車場もあるのだから、俺の家の財産で買えるようなマンションではないというのは容易に想像がつく。その最上階である38階フロアと屋上の一部を全て自分たちの家にしているのだから、広内金先輩のお嬢様ぶりが目に浮かぶぞ。
へえー、さすが建物の中は洒落ているねー。しかもピカピカに磨き上げられているし、あちこちに監視カメラまでついてる。うわーっ!あれはたしか
「・・・少々お待ちください」
平野川さんはオートロックの前に着くと鞄からピンク色の何かを取り出した。
俺はそれを見た瞬間「ライターなのかな?」と思ったけど車内で平野川さんからタバコ臭がしなかったからすぐに否定した。けど、改めて観察したら子供が持つ防犯ブザーのようにも見えなくない。その証拠に、そのブザーのような物には長いストラップがついていて首に回すことが出来るようになっている。
でも、平野川さんがそのブザーのような物を手に取って蓋を開けたから分かったが、あれは幼稚園児や小学生が持つキッズケータイだ。しかもそれを操作してどこかに電話を始めた。
はて?たしか平野川さんはタクシーを呼ぶ時にはスマホを使っていたはず。一体、どこへ、何のためにキッズケータイで電話を始めたんだ?
「もしもし・・・はい、着きました・・・分かりました、今、
平野川さんは耳元からキッズケータイを離して俺に手渡したから、俺はキッズケータイを受け取った。一体、平野川さんは誰と話していたんだ?
俺はあまり深く考えないでキッズケータイを耳元にあてた。
「・・・もしもし」
『久しぶりだね、大成君』
俺はキッズケータイから聞こえた声の主が女性、それも高齢の女性だという事に気付いた。おいおい、もしかして、い、いや、もしかしなくても『あの人』だとしか思えない・・・
「・・・あのー、失礼ですけど、どなた様でしょうか?」
『あー、さすがに10年以上も話してないから忘れてしまったかな?
「!!!!!」
や、やっぱり、この電話の相手は広内金先輩のお婆さん・・・広内金家のゴッドマザーこと広内金
俺はキッズケータイを持つ手に汗が滲んでくるのが分かった。一体、何のためにマンション1階のホールで、しかもキッズケータイを使って俺と電話をしてるんだ!?
「・・・あのー、今日は御招待いただき、大変ありがとうございます」
『あー、いや、別にその点については気にしなくもいい。もっとも、君が自分の力で我が部屋へ来れたらの話じゃがのお』
「はあ!?」
『婆やは君を夕食に招待したが、君を玄関ホールから招き入れるとは言っておらぬ。それは秘書の
「ちょ、ちょっと待ってください!言ってる意味が全然分かりませんよ」
『ま、君のお父さんなら我が家に来るのは容易だろうし、君のおじいさんも10年前ならやれただろうのお。もっとも、今は年齢的に無理じゃろうが』
「・・・どういう意味ですか?」
『言った通りだ。まさかとは思うが
「・・・・・」
『言っておくが、君はその扉のオートロックを開ける資格が無いのは理解しているはずだ。こちらから開けることは可能じゃが、婆やがそのキーの前にいるから華苗穂に電話して頼んでも無駄じゃぞ。仮に誰かが建物から出てきたところを無理矢理入ったとしてもエレベーターの前にはもう1つオートロックがあるから無駄じゃ。それに監視カメラで君を見ているから、そんな事をしたら婆やは君を夕食に招待するのを断らせてもらう』
「・・・・・」
『大成君、達美が君にプレゼントとしてオートッロックの前にペットボトルを2本置いて行ったから、それで喉の渇きを潤してくれ。婆やは今から1時間は君が来るのを待ってるけど、それを過ぎたら勝手にディナータイムとさせてもらう』
「・・・・・」
『それと、君と話してるケータイには婆やと華苗穂の連絡先しか入っておらぬが、もし降参するなら、いつでも婆やに電話するが良い。まあ、婆やは君がそんな事をするとは思っておらぬ』
「・・・・・」
『では、頑張りたまえ。建物を壊されたら君の伯父に修理費用を請求するけど、婆やはそれをして欲しくないし、君もそれはやりたくないじゃろ?・・・(ツーツーツーツー)・・・』
「・・・・・」
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