第153話 大成、ゴッドマザーからディナーに招待される
そう言って平野川さんは背筋をピンと伸ばしたかと思うと一度だけ「コホン」と小さく咳払いした。
そのまま息を大きく吸ったかと思ったら、大真面目な顔をして、ゆっくりと喋り始めた。
「奥様は
「俺を夕食に招待したい?」
「はい、左様でございます。
「青葉も招待!?」
「はい、左様でございます。既に青葉様には先ほどお話しをして、奥様と青葉様は御一緒にお車で帰られました」
「帰られた?という事はまさかとは思うけど、
「はい、その通りで御座います」
「マジかよー!」
俺は思わず大声を出してしまったし、それに母さんも口をあんぐりと開けて絶句している。まさかこういう展開が待っているとは俺も想像してなかったからだ。考えようによっては母さんが何も夕飯の支度をしてないんだから、これはまさに『渡りに船』だ。超がつく程のラッキーな出来事だぞ!
だが、冷静に考えてみれば疑問もある。なぜゴッドマザーは俺と青葉を一緒に夕食に招待するんだ?それに広内金先輩の家に行くという事は広内金先輩も一緒に夕食を食べるという事か?それに、広内金先輩の両親やお兄さん、お姉さんはどうなるんだ?
「・・・あのー、1つ聞いてもいいですかあ?」
「あー、はい、どうぞ」
「広内金先輩や先輩の御両親と一緒に夕食を食べるという事ですか?」
「いいえ、本日は
「四人で・・・」
「はい、その通りで御座います。大成様のお母様には大変申し訳ありませんが、奥様が言うには今日のところは大成様だけを御招待したいとの事で、代わりにと言っては何ですが、これを夕食代としてお受け取り下さい」
そう言って平野川さんは鞄の中から1通の封筒を取り出して母さんの前に置いた。母さんは「失礼します」と言って封筒を手に取ってから中を見たが、そこには2万円分のクオカードが入っていたから母さんが目を丸くしていた。
おいおい、たかだか夕食代というだけで2万円ものクオカードとは気前が良すぎるぞ。でも、その手際の良さといい、青葉を連れ出した事といい、広内金先輩以外の人は誰もいない事といい、明らかにゴッドマザーは何らかの意思を持って俺に会いたがっているというのは容易に想像がつく・・・
俺はゴクリと唾を飲み込むと母さんに向かって
「母さーん、俺、まだ夕飯食べてないから行ってもいいかなあ」
「母さんは別に構わないわよー」
「じゃあ、折角だから御馳走になってきまーす」
俺は努めて明るく振舞って、母さんや平野川さんに動揺しているのを見せないようにしたが、平野川さんは「ありがとうございます」と言ってニコッとしながら頭を軽く下げた
「・・・あのー、こんな服装だと失礼だから着替えますよ」
「あー、その必要は御座いません。奥様は普段通りの服装で全然構わないと仰っております」
「普段通り?」
「ええ。奥様が仰るには『普段通りの恰好でないと逆に動き難い』との事で御座います。正直、わたしには意味がさっぱり分からないのですが、とにかく奥様は服装は全然気にしなくても結構と仰っておられたのは事実で御座います」
おいおい、俺にはゴッドマザーが何を考えてるのか全然分からないぞ。でも、恐らくこの人はゴッドマザーが言っていた言葉をソックリそのまま俺に伝えているだけだから、この人にゴッドマザーが何の目的で、何をしたくて俺を夕食に招待したのかを聞いても無駄だろう・・・ある意味、平野川さんはゴッドマザーの忠実なる
「それじゃあ、俺は着替えませんよ」
「分かりました。今、タクシーを呼びますので少しだけお待ちください」
それだけ言うと平野川さんはスーツのポケットから自分のスマホを取り出して電話を始め、その電話が終わるとテーブルの上に置いてあったコーヒーカップの残りのコーヒーを飲み干した。俺も自分のコーヒーを全部飲んだけど、予想に反して俺がコーヒーを飲み終えた直後くらいに玄関の呼び鈴が鳴ったから、タクシーが早くも来たというのは想像がついた。案の定、母さんがインターホンのボタンを押したらタクシーの運転手だったので、俺と平野川さんはタクシーに乗り込んだ。
「いってらっしゃーい」
母さんはニコニコ顔で俺を見送ったが、俺はさっきまでの服の上にコートを着ただけだ。ポケット内には財布とスマホを入れてあるけど、この展開なら財布は使わないだろう。まあ、いつもの癖でスマホと財布を持っているだけだが・・・
一体、ゴッドマザーは何の為に俺と青葉の二人に会うのだろうか・・・何を言うつもりだろうか・・・
分かっているのは、今の俺には今後の展開が全然読めないという事だけだ・・・
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