第152話 大成、ゴッドマザーの使者に会って冷や汗をかく

 いきなり玄関の呼び鈴が鳴った。

「あれ?お客さんかしら?」

「お店の呼び鈴じゃあないから、我が家に御用のお客さんだろ?」

「たいせー、立ってるなら返事してー」

「はいはい、人使いが荒いなー」

「文句を言わないの!」

「はいはい」

 そう言って俺は持ち掛けたコーヒーカップを一度戻して、インターホンのところへ行ってボタンを押した。

「はーい」

駒里こまさと様のお宅でしょうか?』

「そうですけど」

 ボタンを押した事でモニターに人の姿が写ったけど、どうやら御婦人のようだ。でも、明らかにスーツ姿をしている。生命保険の人かあ?それとも・・・

『わたしは広内金ひろうちがね商事の者ですけど、駒里大成たいせい様にお会いしたくて参りました。御在宅でしょうか?』

「!!!!!」

 おいおい、俺に会いたくて呼び鈴を押した・・・しかもスーツ姿の女性で広内金商事の者とか言ってる・・・広内金商事といえば広内金先輩のお爺さんの兄にあたる『北のホテル王』広内金山東雲さんとううんさんが社長をしている会社、つまり広内金グループの中核企業だ・・・ここから導き出される答えは1つしかない!そう、この人は青葉の店に来ているゴッドマザーの秘書さん以外には考えられない!!

「・・・おーい、母さーん、俺あてに誰か来てるけど玄関を開けてもいいかなあ」

 俺はひたすら冷静を装って母さんに聞いたけど、内心はドキドキものだった。あのゴッドマザーが何ゆえに秘書を俺の家に向かわせたのか全然想像できなかったからだ。

 母さんは俺のドキドキ感を知ってか知らずかは分からないけど「あらー、お客さんかしらー」などと呑気そうに言って立ち上がった。

「それじゃあ母さんが出るわよー」

「そうしてくれ。俺はここで待ってるから」

「いいわよー」

 母さんは食べかけのビスケットを皿に戻して玄関へ向かったから、俺は「今、鍵を開けますのでちょっと待っていて下さい」と言ってボタンを押したからモニターは消えた。

 母さんはリビングを出て行ったけど、俺は自分でも手が震えている事に気付いた。いや、こんな事ではいかーん!とばかりに自分を叱りつけ、コーヒーカップを手に持って自分の椅子に座った。

 母さんがゴッドマザーの秘書さんを連れてリビングに戻ってきたのは俺が椅子に座ってから間もなくだった。

「たいせー、あんたに直接会ってお話をしたいそうよー」

 そう母さんが言って連れてきたスーツ姿のゴッドマザーの秘書さんは、年齢の話をすると失礼かもしれないが母さんと同じくらいで40歳前後という印象だ。どんなに甘く見ても20代はあり得ないけど少し大きめの黒縁眼鏡を掛けて左手には黒鞄を持っていた。

「・・・こんな時間にお邪魔して大変失礼いたしました。あなたが駒里大成さんですか?」

「あー、はい、そうですけど」

 そう言って俺は立ち上がったけど、その秘書さんは「広内金商事の役員秘書室の平野川ひらのがわと言います」と言って深々と頭を下げた。母さんは「立ち話も何ですから椅子にお座り下さい」と言って声を掛けて俺の向かいの席の椅子を引いたからゴッドマザーの秘書、あー、失礼、平野川さんは座った。母さんは慌ててコーヒーを1つ作ると平野川さんの前に置き、母さん自身は俺の隣の席に座った。

 母さんが席に座ると同時に平野川さんは「失礼します」と言って出されたコーヒーを半分くらい飲んだが、それをテーブルに戻すと持っていた鞄から名刺を差し出した。


『株式会社広内金商事 役員秘書室 次長 平野川ひらのがわ 達美たつみ


 差し出された名刺にはこう書かれていた・・・。

次長じちょうさんですか・・・」

 俺は名刺を見ながらつぶやいた。平野川さんはニコッとしたけど、すぐに真面目な顔になった。

「わたしの肩書は広内金商事の役員秘書室次長じちょうですけど、実際には奥様の私設秘書で御座います」

「「奥様?」」

 平野川さんの言葉に俺と母さんは思わずハモッてしまったけど、平野川さんは顔色一つ変えなかった。

「あー、すみません、わたしとした事が失礼いたしました。奥様とは大蝦夷銀行頭取の広内金山大樹さんたいき様の奥様である広内金はな様の事で、わたしは華様の私設秘書と言った方が正しいです」

「「私設秘書?」」

「はい。もう15年くらい、奥様の私設秘書をしておりますが、わたしの母、島松しままつ昭栄あきえも奥様の私設秘書を長いことしておりますので母娘2代で奥様の私設秘書をしている訳であります。華苗穂かなほお嬢様は、わたしの母を『大おばさま』と呼んでおられますし、わたしの事は『おばさま』と呼んでおられますよ」

「広内金先輩がですか?」

「ええ、そうです。お疑いなら、この場で大成様自身が華苗穂お嬢様に電話なりメールなりで確認しても構いませんよ」

「い、いえ、そこまでする気はないですよ」

 おいおい、広内金先輩が「おばさま」などと『様』をつけて呼ぶくらいの人かよ!?ゴッドマザーの私設秘書を「おばさま」などと呼ぶ広内金家は一体、どういう頭をしてるんだあ?でも、逆にいえば、それだけ広内金家の人がゴッドマザーを恐れているという事だし、その私設秘書だからこそ無下に扱えないというのは俺でも想像できる・・・

「・・・広内金家で『奥様』と呼ばれた人は、かつて『北の炭鉱王』と呼ばれた故・広内金山遠矢さんとおや様の奥様、広内金山東雲様の奥様、それと広内金山大樹様の奥様の三人だけですが、お二人は既に亡くなられていますので、今は華様だけが『奥様』と呼ばれています。因みに華苗穂お嬢様のお母様は『若奥様』と呼ばれています」

「「・・・・・」」

「本来なら私設秘書なので広内金商事の次長などという役職にはなれないのですが、奥様がお出掛けになられたり奥様の御来客の対応をしたりする時に色々と不都合なので、母もわたしも『広内金商事 役員秘書室 次長』という肩書を頂いております。広内金商事には部長と課長は何人もおりますが、次長という肩書は過去にも現在にも母とわたしだけで御座います」

 そう言って平野川さんは深々と頭を下げたので、俺も母さんも思わず一緒に深々と頭を下げてしまったくらいだ。そのくらいのオーラというか迫力が平野川さんにはある。たしかに『北のホテル王』広内金山東雲をも動かす、まさに広内金家の影の支配者ゴッドマザーの私設秘書だけの事はある。それに『15年くらい、奥様の私設秘書をしております』『母も奥様の私設秘書を長いことしております』『次長という肩書は過去にも現在にも母とわたしだけ』という言葉は、以前、広内金先輩が俺との罰ゲーム(?)の時に言っていた『総帥の奥様はお婆様の双子の妹だ。しかもボクが生まれた直後に亡くなっているけど、それ以前からお婆様は『ゴッドマザー』だったんだからな』という言葉の裏付けだとも言える。

「・・・あのー、その奥様の私設秘書である次長さんが、俺に何か御用でしょうか?」

 俺は額に冷や汗をかきながら平野川さんに尋ねたのだが、平野川さんは顔色一つ変えることなく

「あー、すみません、本題を脱線してしまいましたね。では、奥様からの言伝ことづてをお伝えいたします」

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