第151話 大成、嫌な予感がする
「お婆様?・・・もしかして『
「その通りだ・・・でも、どうして会長の店に来てるんだ?」
「さすがに俺も分かりませんよ。たい焼きが食べたくなったって事じゃあないですか?」
「・・・さすがのお婆様も「たい焼きが食べたい」などと言って広内金家の運転手を連れ出すなどという非常識な事はしない。それに、お爺様か総帥が一緒ならお爺様か総帥の車を使うはずだ・・・」
「じゃあ、なぜゴッドマザーが自分の車で青葉の家に来てるんですか?」
「わからん。広内金
「なんか嫌な予感がします」
「ボクもだ」
「俺たちが一緒にいた事がバレて抗議にきたとか・・・」
「それなら
「あ、たしかに・・・」
「お婆様が他人の家に車を止めて乗り込むなどという非常識な事をするとは考えられないから、100%の確率で会長の家の誰かに会う目的で『めでたい焼き』の店の前に車を止めている!」
「一体、誰に、何の目的で・・・」
「それが分かればボクも苦労しない。お婆様自身が会長の家へ直接出向く程の事態が発生していることだけは間違いない・・・」
そう、一人だけ緊張した面持ちで歩いているのは広内金先輩だ。そして、
俺たちは『めでたい焼き』の駐車スペースに止まっている黒塗りの車をさりげなく見たけど、エンジンを止めた車内では運転手が一人、運転席でスマホをいじりながら待機していたけどゴッドマザーの姿はなかった。
先頭の青葉が店の横開きのドアを開けた。風除室になっている外側のドアを開けた途端、たい焼きのいい匂いが辺りに漂っていた。青葉はもう一つのドアを静かに開けた。
「いらっしゃーい、って青葉ちゃんじゃあないのー」
そう言って俺たちを出迎えたのは
「あれー、外にいる車のお客さんはー?」
青葉は黒松内さんに至極当然の質問をしたけど、黒松内さんニコッとして青葉の方を見た。
「
「お母さんは?」
「あー、ゴメーン。
「黒松内さーん、学校の生徒会の人なんだけど、何かサービスしてもいいかなあ」
「うーん、わたしとしては構わないから、青葉ちゃんが自分でやっていいわよー」
「うん、それじゃあ玄関からそっちへ回るねー」
そう言うと青葉は一人だけ一度店から出た格好になったが、俺を除く4人はそれぞれたい焼きを注文した。前回来た時と同じく
「すみませーん、遅くなりましたあ」
そう言って青葉はカウンターから紙袋を4つ差し出しながらニコッとした。
「4つずつ入ってるけど餡の中身は選べないからゴメンねー」
「いえいえ、貰えるだけでうれしいです」
「そうですよ、こっちが申し訳ないくらいです」
「有難うございます」
「サンクス!」
広内金先輩たちは青葉から冷凍たい焼き(青葉作の焦げすぎ品?)を受け取って「それじゃあ、また明日」と言って手を振ってお店から出て行ったが、俺だけは店の中に残った形になった。
「・・・黒松内さーん、あのお客さんはいつ頃来たのー?」
青葉は広内金先輩たちが店を出て外側の風除室の扉を完全に閉めたのを見計らって黒松内さんに話しかけた。黒松内さんは少し首をかしげながら壁に掛かっている時計を見て、ちょっとだけ考え込んだ。
「・・・うーん、2時間近く前かなあ」
「ふーん、それじゃあ、結構長い間4人で話してるんだねー」
「あー、ゴメン、もう1つ言い忘れてたけど、そのお客さんの秘書さんも一緒よ」
「秘書!?」
「うん。わたしもあのお客さんは何度か三笠さんたちと会った事があるのは知ってるけど、秘書さんは初めて見たわよ。でも三笠さんたちは知ってたみたいで一緒に事務所の会議室で話してるわよ」
「じゃあ、私も挨拶してきた方がいいかなあ」
「あー、ゴメン、もう1つ言い忘れたけど『絶対に誰も入るな』って天幕さんが言ってたから、多分内側から鍵をかけて話し込んでるわよ」
「それってマジなの?」
「さすがに本当に鍵を掛けたかまでは分からないけど、天幕さんが客間でもリビングでもなく、わざわざ事務所の会議室に案内した位だから、わたしや青葉ちゃんには聞かれたくない話じゃあないかしら?」
「なーんだ、つまらないなあ」
青葉はそう言うと両手を頭の後ろで組んで本当につまらなそうな顔をした。
俺はというと、黙ってこの二人の会話を聞いていた。いや、正しくは黒松内さんをずうっと凝視していたという表現が正しい。何故ゴッドマザーが青葉のお母さんたちと話し込んでいるのか、その理由が知りたかった事と黒松内さんが嘘を言ってないか目の動きや唇の動きに神経を集中していたのだが、黒松内さんの動きに違和感を感じなかったから、恐らく黒松内さんは事実を淡々と述べているのだろう。
だが、俺も青葉の家の事情に口出しする訳にもいかないから「じゃあ、また明日」と言って青葉に手を振って自分の家へ戻った。
「ただいまー」
「おかえりー」
俺はリビングに行ったけど、当たり前だが
「あれー?爺ちゃんたちは?」
「二人とも出掛けたわよー。1時間くらい前かなあ、車で新千歳空港へ」
「あー、そう言えば東京から10年ぶりに知り合いが来るって言ってたなあ」
「そうよー。そのまま一緒に夕飯を外で食べるっていう話になったから、帰ってくるのは夜の10時くらいよ」
「という事は俺と母さんだけの夕飯かよ!?」
「あらー、残念そうな顔ね」
「そういう訳じゃあなくて、どうみてもレトルトあたりで済ませようと考えてるだろ」
「あー、バレたあ?」
「あったり前だあ!この時間にここに来たのに『何かを調理した』っていう匂いが全然漂ってないんだからさあ。しかも日曜日にコメヤに行ったんだから、ぜーったいに今日の夕飯を『外で食べよう』などと母さんが言い出すとは思えないからな」
「まあまあ、たまには主婦業を休んでもいいでしょ?」
「たしかにね」
「フリーザーに冷凍食品が幾つか入ってるし、棚の中にはカレーとか親子丼とかのレトルトも色々あるから好きなのを食べていいわよー。ご飯は昼の残り物だけど勘弁してね」
「はいはい。取りあえず着替えるよ」
「そうしてねー」
やれやれ、母さんは呑気だなあ。まあ、母さんのセリフではないけど主婦業と美容師の『二足の草鞋を履く』を文句一つ言わずこなしてる母さんに息抜きをさせてあげないとなあ。
そのまま俺は自分の部屋に行って制服を脱いでラフな服に着替えてからリビングに戻ったけど、母さんはテーブルの上に置いたお皿に乗っているビスケットを口にしながらテレビを見ていた。コーヒーカップが置いてあるという事は母さんは今は夕飯を食べる気がないというのが分かったから、俺もまだ食べなくてもいいかなあ、と思ってキッチンに行って自分のコーヒーカップを取り出してコーヒーを作った。
そのコーヒーカップにお湯を注いで牛乳を入れた後、俺はテーブルの方に向かって歩き始めた。
♪ピンポーン♪
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます