第148話 大成、今日は生徒会メンバー6人と助っ人1人の7人で追加の仕事をやる

 一昨日、札幌でも例年よりも早い桜の開花宣言が出され、ゴールデンウィークには満開を迎えるだろう。それに今日は快晴で清々しいくらいの陽気だ。

 俺と青葉あおばはいつも通り並んで家を出たけど、いつも通りかえでみどりが待っていたから、そこからはいつも通り楓が右、緑が左に並んで、今日の青葉は俺たちの後ろを歩いている。

 今週の木曜日は祝日で金曜日は4月最後の日。世間はゴールデンウィーク直前で浮かれてるけど俺たちには浮かれてるとか、そんな事を言ってる余裕はない。清風せいふうさいに向けて忙しいのだ。それに今年は体験入部期間が特例的に今月末、つまり今週の金曜日まで延長されてるから生徒会の仕事も少し変則的になっていて結構忙しい。


 今日は普段と違うところが2つある。1つ目は楓と緑の服装だ。二人とも今日は私服で背中にはリュックを背負い、少し大きめの鞄を持っている上にパンツルクスで靴もスニーカーだ。今日と明日の1年生は一泊二日の宿泊研修だから、今の二人は100人に聞いても100人が「小学生が歩いている」と答える自信がある。だから俺は錯覚を覚えるけど、これでも(?)れっきとした高校1年生だ。

 たしかにこれでは映画館で小学生以下限定のカードを貰えたのも無理ないなあ。でも、俺と青葉も学生鞄以外に登校だ。

 楓たち1年生は登校して教室に行った後は出席確認だけしてバスで早速研修に行ったが、俺たち2年生と3年生は普段通りの授業だ。

 でも、今日の放課後に俺たち生徒会執行部のメンバー6人は追加で仕事が入ってる。


 実は、俺と青葉が持っていた鞄には、夏服が入っているのだ。

 昨日の昼休みが始まると同時に、職員室前の廊下には先週の生徒総会終了後に発表された通り女子用スラックスの見本が展示された。

 腰から下だけのマネキン1体と、ブレザーを着て水色リボンの3年生を模したマネキン人形1体の2体が女子用スラックスを履いて展示されていたが、この2体のマネキンの前には女子だけでなく男子も学年を問わず集まってスマホで写真に撮ったり実際に手で触れたりして、それこそ満員電車の中のような混雑ぶりだった。生徒からの評判はすこぶる上々で早くも「試着したい」などと言い出す子が続出したのだが、この『えある清風山せいふうざん高校冬服の女子用スラックスを履く第1号』になれたのは広内金ひろうちがね先輩なのだ。

 実は、女子の冬服にスラックスが追加された形になったので、来年の入学案内に使う筈だった学校紹介パンフレットの写真を撮り直す必要が出てきたのだ。

 本来なら既に昨年の3月に生徒会メンバー6人が食堂のビッグ・ベンの前で撮った写真が使われるはずだったが、今日の放課後、正門近くのヤマザクラの前で撮る写真に差し替えるのだ。ソメイヨシノはまだほとんど開花してないから、ほぼ満開のヤマザクラの下で撮る。

 前回の写真では、冬服は虎杖浜こじょうはま先輩と広内金先輩、夏服は俺と青葉、美利河ぴりかさん、恵比島えびしま先輩で撮った流れで俺と青葉は今回も再び夏服で撮る。でも、女子の冬服はスカートとスラックスの2パターンになったから、女子は生徒会メンバー以外の1人が助っ人みたいな形で撮影に加わる。

 その助っ人なのだが・・・広内金先輩と恵比島先輩が今日の昼休みにため息まじりで教えてくれたのだが『お嬢様同盟』の一人、錦岡にしきおか先輩だ。

 恵比島先輩は理由を教えてくれなかったけど広内金先輩は俺にだけコッソリ教えてくれたが、簡単に言えば、錦岡先輩の二人のお爺さんが理事長と校長に「ぜひ孫を写真撮影に加えてくれ」と猛烈な売り込み(圧力?)を掛けた事で、理事長が折れて『天の声』を出した形になったのだ。まあ、さすがに現職の国会議員(しかも道内選出国会議員の重鎮と言われる人)と道議会議長が揃って理事長と校長に売り込みしたのでは、理事長も折れざるを得ないのは俺でも分かるけどね。

 俺は夏服担当だから恵比島先輩と共に更衣室で着替えてから更衣室を出たけど、俺たちが更衣室を出たとほぼ同時に女子更衣室からも青葉と美利河さんが出てきた。

 男子の夏服は上は冬服と同じ学校指定のスクールシャツだが、スラックスは青を基調としたチェック柄だ。さすがにこの時期に半袖は寒いから長袖を着てるけど恵比島先輩はスクールシャツの上にサマーセーターを着ているが俺は着ていない。これは前回の撮影の時と同じだ。もちろん、夏服でもネクタイ着用は変わらないから俺は赤色、恵比島先輩は水色のネクタイを着用している。

 当然女子もリボンは夏でも冬でも変わらないし、ブラウスは冬服と同じく学校指定の物だが、スカートは男子と同じで青を基調としたチェック柄だ。冬服は男女でカラーが違うけど夏は同じなのだ。青葉は俺と同じくサマーセーターを着てないが美利河さんはサマーセーターを着ている。

 でも・・・明らかに美利河さんはサマーセーターがキツそうだ。

 俺は思わず笑いそうになったけど、さすがにそれは失礼だから笑わなかった。けど、やっぱり言わないと失礼かと思って「コホン」と軽く咳払いしてから

「・・・美利河さーん、そのサマーセーター、買い替えた方がいいような気がするけどー」

「おれもそう思うぞー。まるで『洗ったら生地きじが縮みました』と言わんばかりだぞ」

「うーん・・・恵比島先輩も大成たいせい君もそう思う?」

「「うん」」

「はーーー・・・やっぱり買い換えないとダメかなあ」

 美利河さんは大きなため息をついたかと思うとへこんでしまった。まあ、広内金先輩が聞いたら激怒しそうだけど、さすがにこればかりは仕方あるまい。たしか美利河さん自身が言ってたけどは、中学を卒業する時はDだったけど生徒会執行部に入った時には既にFで、2年生になってからはGを使っているのだから、やはり1年で3つもカップサイズを上げたのは伊達ではないといったところだ。

「キラキラちゃーん、私もサマーセーターを持ってきてるから、私がサマーセーターを着ましょうか?」

「かいちょー、キラキラちゃんは勘弁して欲しいけど、わたし、やっぱりセーターはやめるよ」

「それじゃあ、もう1回更衣室に行くから大成たいせいと恵比島先輩は先に行っててー」

「あいよー」

「りょーかい」


 俺と恵比島先輩が正門近くのヤマザクラのところへ行った時には30人以上の2年生、3年生がこの様子を見ている形だったけど、虎杖浜先輩はまだ来てなった。既に広内金先輩は女子用スラックスを履いて上機嫌で錦岡先輩と談笑している形で、その広内金先輩と錦岡先輩が並んでる姿をスマホで撮影している女子も結構多かった。当然だが錦岡先輩はスカートだけど広内金先輩は女子用スラックスだ。

 注目の女子用スラックスなのだが・・・色はスカートと同じ紺と赤を基調としたチェック柄だけど、たしかに男子用とは明らかに形が違う。男子用はいわゆるストレートなのだが、女子用スラックスは裾が朝顔のように広がっている、いわゆるフレアパンツなのだ。広内金先輩は体の線が細くて石狩さんほどではないけど腰の位置が高いからスラックスでも似合う、というよりスカートよりも似合うかも。それくらいに今の広内金先輩にマッチしている女子用スラックスだと俺自身は思っている。

 俺と恵比島先輩が広内金先輩、錦岡先輩と合流して2分も経たないうちに青葉と美利河さん、それと虎杖浜先輩の三人が並んでこっちに向かっているのが見えたから、これで全員が揃った訳だ。

「それじゃあ撮影を始めまーす」

 写真を撮影する業者2人と生徒会顧問のらん先生、それ以外にも数人の先生が来ている中で行われた撮影は思ったより時間が掛かった。俺は前回のように横一列に並んだ1シーンだけだと思ってたけど、今回は並び順を変えたり、女子が前で男子が後ろ、男子だけ、女子だけ、夏服だけ、冬服だけの写真も撮ったし、カメラを遠くに構えてヤマザクラの木全体を写すアングルの物も撮ったりしたから、結構時間が掛かった。その間にも2年生、3年生が入れ替わり立ち代わりやってきて、中には部活の途中に抜け出して様子を見に来る女子もいて結構な人数が来たのは間違いない。

「それじゃあ、これで終わりでーす、お疲れ様でしたー」

 業者の撮影終了の声が掛かった事で俺たちの周辺にいた2年生、3年生の輪は解散となった。錦岡先輩は「じゃあねー」と手を振って俺たちと別れたけど、俺たちは生徒会室で今日の生徒会活動をすることになる。でも、虎杖浜先輩以外は普段通りの冬服に着替える必要があるから更衣室経由で生徒会室へ向かった。

 えっ?

 何で数パターンもの写真を撮ったのか分からない?

 それはですねえ・・・欲しがっている人がという事ですよ。『木は森に隠せ、写真は写真に隠せ』だよ。


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