第145話 大成、周りが勝手に騒いでいる事に呆れる

「・・・とにかく、その子は塾があるから先に席を立ったんだけど、それと入れ替わる形で駒里こまさとクンが入ってきて、しかも駒里クンには拒否権が無いと言わんばかりに月形つきがた鶴沼つるぬまが言ってて、それに太美ふとみクンが『デートする義務がある』などと訳の分からん事を言い出すからさあ、ボクも気になって『この際だから尾行しよう』とかボソッと言ったら何故か三人とも妙に乗り気になったから話の流れで会長も呼び出そうって話になって、駒里クンと太美クンが帰った後にみどりちゃんが会長に電話をしてWcDに来てもらったんだよなー」

「そうだよー。私も大成たいせいが太美さんと罰ゲームという名目でデートするなどと聞いたら無性に腹が立って来たからねー」

 おいおい、青葉あおばの奴、昨日は朝から妙に棘のある言い方だったけど俺と石狩さんがデートするという事を知ってたからじゃあないかよ!?しかも美留和びるわ先輩も知ってたという事は、美留和先輩も「ランチしましょう」などと言って俺を揶揄っていたという事かよ。たしかに二人とも意地悪そうな顔をして笑ってたからなあ。今だから「あー、そういえば」と言えるけど、昨日は相当テンション低かったから全然想像できなかったのも事実だけどなあ。

「・・・という訳で、WcDでどうやって尾行すべきか、どうやったらバレずに尾行できるか、あーだこーだ言いながら1時間以上も話をした結果が今日の行動という訳だ」

「そういう事ですよ。わたくしを差し置いて石狩さんとデートするなど百年早いです!石狩さんとデートするくらいなら右手の治療費だけでなく時間を無駄に遣わされた慰謝料として、このわたくしと罰ゲームという名目でデートして欲しいくらいですよ!」

 そう言ったかと思うと美留和先輩は『ぷんぷーん』という表情をしたけど、それを見た広内金先輩はニヤニヤしながら

「おやおやー、美留和クン、思わず本音が出たねー」

「うっ・・・ちょ、ちょっと言い方を間違えただけです!と・に・か・く、2週間も練習出来なかった代償を駒里君に何らかの形で補填する事を求めているというだけです!」

「補填という名目で駒里クンとデートする気かあ?」

「勝手な想像をしないで下さい!わたくしは純粋に補填を求めているだけですから」

「ま、美留和クンがそう言うならそういう事にしておくけど、太美クンに駒里クンの2番目では荷が重すぎるのは見え見えだから、ボクが2番目で太美クンは3番目が丁度いいだろうね」

「はあ?どうして広内金ひろうちがねさんが駒里君の2番目なのですか?あなたのようなガサツな子が駒里君の2番目では駒里君が不幸です!」

「そんな事はないぞー、ボクの将来はバラ色だからな」

「そんなデタラメは誰も信用していません!駒里君、広内金さんを2番目にするくらいなら、このわたくしを2番目にすべきです!」

「おうおう、やっぱり本音が出たなー」

「ち、違います!先ほども言いましたが、広内金さんのようなペッタンコの人を2番目にするくらいなら、わたくしの方がマシだと言ってるのです!」

「美留和クンが2番目だと駒里君の気苦労が絶えないぞー」

「駒里君、広内金さんの方が気苦労が絶えませんわよ。ぜーったいに広内金さんを選ぶと不幸になります!」

「駒里クン、美留和クンだけはやめた方がいいぞー」

「駒里君、広内金さんだけはやめた方がいいです」

 おいおい、広内金先輩も美留和先輩も何を言ってるんだあ!?あー、でもこの2人、口では喧嘩腰だけど顔は笑ってる。しかも俺に向かってニヤニヤしながら言い合っているという事は完全に2人で俺を揶揄っているというじゃあないかあ!マジで勘弁して欲しいぞ、ったくー。しかも石狩さんはというと「勘弁してくれよなあ」と言わんばかりに顔を真っ赤にして俯いてるし。だいたい、青葉あおばはというと広内金先輩と美留和先輩、それに石狩さんの反応を見てゲラゲラ笑ってるし、かえでみどりも一緒になって笑ってるぞ。お前らー、一体、何を考えてるんだあ!?

 でも、緑が笑いながらだけど右手を上げながら

「・・・あー、先輩たち、ちょーっといいですかあ?」

 いきなり緑が喋り出したから全員が緑に注目したけど、緑は「エヘン」と言わんばかりに腰に手を当てて胸を反らしながら、しかも超がつくほど真面目な顔になって

「だいたいさあ、先輩たちは兄貴が誰を1番に選ぶかも知らないのに2番目だ、2番目だと騒いでますけど、兄貴の1番は既にあたしだって決まってるという事を忘れた訳じゃあないですよね」

「「「「「「はあ!?」」」」」

「だーかーら、兄貴の1番はこの駒里緑だという事をお忘れなきよう、お願いします。あたしは別に2番目は誰でも構いませんけど、兄貴があたし以外の子に手を出す事は120%有り得ませんから期待しないでくださいねー」

「ちょ、ちょっとみどりーん、お兄ちゃんの1番のお気に入りはウチだってお兄ちゃんが断言してるわよー」

「はあ?そんな話を兄貴は一度もしてないぞ!それは姉貴の思い込みだあ!」

「そんな事はありません!妹の分際で姉に反抗するなど百年早いです!」

「双子に姉も妹もなーい!そんな身勝手な言い分は認めーん!」

「冗談は休み休み言いなさい!緑は引っ込んでなさい!」

「姉貴こそ引っ込んでろ!」

「緑こそ2番目で十分です!」

「あたしが1番だ!」

「ウチに決まってるわよ!」

 おいおい、かえでも緑も何を言い争ってるんだあ?しかも楓は普段のノホホンぶりが全然表に出てこなくて、まるでもう1つの人格が表に出てきたかのように緑と本気で言い争ってるし、緑は緑で完全に本気モードに入ってるし、俺の方こそ『何を考えてるんだあ!』って叫びたい気分だぞ!!

 結局、楓を広内金先輩が、緑を青葉が宥めて2人の口論(?)は終わったけど、緑は緑で最後に「兄貴、明日はあたしとチョコレートキングダムでスイーツバイキングだあ!」などと絶叫してるし、楓も楓で「当然、ウチを残して行くなどと言わないでしょうね」などと念押ししてるし、何だかんだ言いつつも2人掛かりで俺を連れ出す気満々じゃあないかよ!?俺は正直、呆れてものが言えないぞ!

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