第144話 大成、既に外堀も内堀も埋まった状況を嘆く

 俺たちは店員さんに頼んで席を変えてもらい、半円状のテーブルを囲む形になった。俺が中央に座り、俺の左にみどり、その隣に青葉あおば石狩いしかりさん。俺の右にかえで、その隣に広内金ひろうちがね先輩、先輩だ。青葉たちの服はそのままだけど、かつらと眼鏡は全員が外して楓が持っていた鞄に入れたから髪型だけは普段通りになっている。

「いやー、まさか大成たいせいにアッサリ見抜かれていたとは夢にも思わなかったなー」

 そう青葉があっけらかんとした表情で言いだしたけど、俺は少し意地悪そうな顔をしながら

「だいたいさあ、どう見たってBOUQUETブーケに展示してある鬘とか眼鏡を勝手に持ち出して変装したんだろ?しかも5人ともリバーシブルの上着まで使って途中で裏返して俺たちを誤魔化そうとしたんだろうけど、視線はずうっと俺たちの方を見たままだからバレバレだぞ」

「いやー、大成の御指摘の通りで、鬘と眼鏡は全員が店にある展示品を使ってるけど、服だけは自前だよー」

「ま、美留和クンはパットを5枚も重ねてたんだろ?途中で1回ズレそうになって大慌てで直したんだよなー」

「こんな場所でバラさないで下さい!わたくしだって相当恥ずかしかったですよ。だいたい『本当に男のフリをしていれば誰もボクだとは思わないだろうな』とか豪語していたのはどこの誰ですかあ?」

「悪かったな、フン!」

「全ての元凶ともいうべき張本人が何を言ってるんですかあ?」

 へ?・・・い、今、美留和先輩が爆弾発言をしたような・・・聞き間違いじゃあないよな・・・となると、俺と石狩さんの罰ゲーム(?)を尾行するなどと言い出したのは広内金先輩!?

 だとすると、広内金先輩はどうして俺と石狩さんが罰ゲーム(?)をする事を知ってたんだ・・・想像したくないけど・・・あの場所に・・・

「あ、あのー、話に割り込むようで申し訳ないけど、ちょっといいですかあ?」

 俺は広内金先輩と美留和先輩はキャンキャンとやり合っているところに割り込む形で右手を上げながら話し掛けた。

「ん?駒里こまさとクン、何か言いたい事があるのか?」

「まさかとは思いますけど、俺と石狩さんが二人で会っていたところに広内金先輩がいたとか・・・」

 俺は恐る恐るといった感じで広内金先輩を覗き込むように話したけど、広内金先輩はニヤリとしたかと思うと

「ああ、いたぞ」

「「マジですかあ!?」」

「正しくは、月形つきがた鶴沼つるぬまの二人だけでいる前から、ずっとボクは店内にいたんだぞ。その後に駒里クンがきて、さらに太美ふとみクンが来て、月形と鶴沼が帰って二人だけになった後もボクはいて、君たちが帰った後もまだボクは店内にいたんだぞー」

「「・・・・・ (・_・;) 」」

「君たちが座っていたテーブル席の斜め後ろのテーブル席にボクが座っていたけど、ボクがいた席の方が奥だったから気付かなかったのかなあ」

「「・・・・・ (・_・;) 」」

 た、たしかに俺はあの時、正しくは鶴沼先輩と向かい合う形で石狩先輩が座っていた事で冷静さを失っていて、周囲の状況がどうなっているのか全然気付いてなかった。い、いや、正しくは俺が座っていた場所のテーブル以外でどのような事があったのか全く気にしていなかった。そのくらいに俺が動揺していたのは紛れもない事実だ・・・。

「あー、そうそう、あの時にあの場所にいたのはボクだけではなかったけどねー」

 そう言うと広内金先輩は再びニヤリとしたから、俺は思わず

「マジかよ!?一体、誰が広内金先輩と一緒にいたんですかあ!?」

「ん?ボクと一緒にいたのは美留和クンさ」

「へ?・・・あのー、こう言うと失礼かもしれませんけど、美留和先輩と広内金先輩は不仲では・・・」

 そう言って俺は広内金先輩と美留和先輩を交互に見たけど、二人ともニコッとしたかと思ったら

「あー、その事ですけど、わたくしに相当誤解があったのも事実ですし、あのエキシビジョンマッチがあった翌日、わたくしの方から広内金さんを訪ねて、結構長い時間お話して和解というか何というか、とにかく、これからはお互いに頑張りましょうという話になっていますよ」

「そういう事だ。ボクもその場で美留和クンとメルアドを交換したし、LINEもやってるぞ」

「マジかよ!?俺、全然知りませんでしたよ」

「それはそれとして、ボクと美留和クンが先にWcDに来て、楓ちゃんと緑ちゃんが後から合流して、君たち二人が帰った後に会長も合流している」

「「・・・・・ (・_・;) 」」

「ま、ここから先は駒里クンにも関係する話だから、この場で全部話す事にするよ」

 そう言うと広内金先輩は急に真面目な顔になって

「・・・実は、剣道部に女子が一人も入部してないのは事実なのだが、『助っ人』という形で会長、楓ちゃん、緑ちゃんが出場してくれる事で鬼鹿おにしか先生とも話が既についてるんだ」

「そうだったんですか・・・俺は知りませんでした」

「でも、団体戦に出るには1人足りなかったけど、その目途がついたから最後の助っ人と顔合わせをしていたんだ。ボクが美留和クンを紹介する形で、楓ちゃんと緑ちゃんがその子を紹介する形で駒里クンがくる前まで5人で話してたのさ」

「そ、そう言えば広内金先輩はあの日、『ボクは用事があるから先に帰るよ』とか言って俺たちより1時間以上も早く帰りましたけど、この為だったんですかあ?」

「ま、そういう事だ」

「そうだよー。因みにお兄ちゃんはー、上士幌かみしほろさんを覚えてるー?」

「上士幌さん?はて、どこかで聞いた事があるような無いような・・・」

「小学校・中学校は別だけどー、ウチたちと同い年でー、小学校までは駒里道場に通ってたけど中学ではソフトボール部に入ったから駒里道場をやめた子なんだけどー、さすがにお兄ちゃんは覚えてないかなあ」

「あー、たしかにいたような気がするけど、あんまり印象に残ってないなあ」

「まー、その事は別にいいけどー、その上士幌さんがうちの学校の1年8組にいるからー、その子と女子ソフトボール部顧問の北浜きたはま先生がOKしてくれたからー、ソフトボール部に所属したまま剣道部の大会に出る事になったんだよー」

 そうか、昨日、青葉が美利河ぴりかさんと美流渡みると君のキラキラ姉弟の喧嘩(?)を自信満々に説得したのは、剣道部の事を青葉も知ってたから伝家の宝刀「私がルールブックです」を使ったんだ。北浜先生はクイズ研究会の名ばかりとはいえ顧問だから、ソフトボール部でOKした物をクイズ研究会でダメとは言えないというのを青葉も分かっていたんだ。だから自信満々に・・・。

 おい、ちょっと待て・・・まさかとは思うけど・・・

「・・・あー、駒里クンにも言っておくけど、既に鬼鹿先生と鬼峠おにとうげ先生、それに君のお爺様との間で話がついていて、駒里クンも会長も今年は剣道部と柔道部の両方に助っ人として参加してもらう事が決まっている。ただし、今年は何の因果かインターハイの男子の剣道と柔道の予選が同じ日にあるから、インターハイの駒里クンは柔道部優先だからな。でも、他の大会には剣道部と柔道部の一員として出てもらうぞ」

「・・・・・ (・_・;) 」

「たいせー、そういう事だからヨロシクね」

「お兄ちゃーん、頑張ろうねー」

「兄貴、根性だせ!」

「はーーー・・・既に外堀も内堀も埋まってるという事かよ、とほほ」

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