第142話 大成、再び罰ゲーム(?)でデートする⑱~2番目でいいから~

 小倉トーストをひとまずバケットに戻した俺たちが手を付けた物、それはコメヤ珈琲の代名詞ともなっている『シノロワール』だ。

 そのシノロワールをテーブルの中央に置いた俺たちだが、石狩いしかりさんはシノロワールをマジマジと眺めながら

「・・・ひときわサクサクふんわり焼いたデニッシュパンの上にたっぷりのソフトクリーム、これがコメヤの一番人気とでも言うべき商品なんだよねー」

「石狩さんは詳しいですねー」

「当たり前です。あたしはコメヤに行った時には毎回毎回シノロワールを食べてますから」

「うわっ、そこまで好きだったのかよ!?」

「まあね。あたしはシロップは半分だけ最初にかけて、残った物を最後の一口でぜーんぶ使うのが好きなんだけど、駒里こまさと君は?」

「俺はシノロワールそのものが初めてだから、石狩さんの好きにしていいですよ」

「そ、そういう事なら・・・」

 石狩さんはニコッとしながら右手でシロップが入ったカップを取るとシノロワールに掛けた。たしかにアバウトだけど半分くらい掛けるとカップを置いて、デニッシュの上に乗っていたサクランボを取ると

「サクランボ、食べてもいいかなあ」

「別に構いませんよ」

「それなら、遠慮なく」

「どうせなら俺が食べさせてあげましょうか?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!さすがにそれは勘弁して欲しいぞ」

「遠慮しなくてもいいですよー、はい、『あーん』して」

「遠慮も何もないぞ。ホントに恥ずかしいから勘弁してくれ!」

「ま、正直に言えば、やる方も相当恥ずかしいですよ」

「心臓に良くないよお」

「まあまあ」

 石狩さんは照れ笑いしながらサクランボを取ると自分で自分の口の中に入れたけど、種を取り出した後はシノロワールをフォークで少しだけ切り取ったので、俺もシノロワールを少しだけフォークで切り取って口の中に入れた。

 いや、ホントに美味しいというか何というか、とにかく上手く表現できない自分が悔しいけど、石狩さんやクラスの女子が自慢するだけの事はあると認めざるを得ない美味しさだ。少し溶けたソフトクリームが絶妙に聞いてるしシロップの甘さも上手くマッチしている。まさに絶品スイーツとしか言いようがない!

「・・・どう?美味しい?」

「いやー、絶品としか言いようが無いよ」

「だろ?食べて正解だったでしょ!」

「うん」

 そう言いつつ俺も石狩さんも手が止まらなくなり、とうとう最後の一切れになってしまったけど、さっき石狩さんが言った言葉を俺は思い出し「最後は譲りますよ」と言って石狩さんに譲った。石狩さんは『お約束』と言わんばかりに残ったシロップをダバダバーと掛けた、見るからに甘々のシノロワールをフォークで刺すと満面の笑みで口の中に放り込んだ。まるで『幸せー』というのを体現しているかのように。

 あとはお互いに半分くらい残った『小倉トースト』とコーヒー半分くらい。互いにコーヒーを口にするとトーストに手を伸ばした。

 石狩さんはニコッとしたまま

「正直、名残り惜しいよね」

「うん。俺も正直に言うけど半分なのは勿体ないというか損したというか、そんな気がしますよ」

「そうか・・・駒里君・・・ちょっといいかなあ」

「ん?」

 俺は何気なく石狩さんを見たけど、さっきまでのニコッとした石狩さんではなく、どちらかと言えば引き攣ったというか緊張したような面持ちの石狩さんがそこにいた。

「・・・あ、あたしは駒里君の2番目でいいから・・・」

「へ?・・・な、なんの事?」

 俺は石狩さんが言いたい意味が全然分からなかったから思わず聞き返してしまったけど、石狩さんは真剣な眼差しで俺を真っ直ぐ見たままだ。

「あ、あたしは駒里君の本命が誰なのか分かってるつもりだ・・・」

「・・・・・ (・_・;) 」

「・・・駒里君がその子を選ぶなら、あたしは止める事は出来ない・・・でも、もしその子が駒里君を選ばない、あるいは、駒里君がその子を選ぶのをやめるなら、その時にはあたしを選んで欲しい」

「・・・・・ (・_・;) 」

「あたしが今言ったことは頭の片隅に置いといてくれるだけでいいから・・・」

「・・・・・ (・_・;) 」

「でも・・・その子が誰なのか、あたしの想像通りの子なのか、全然別の子なのか、それだけ教えて欲しい・・・もちろん、あたしは駒里君の2番目で構わない・・・」

 石狩さんは相変わらず俺を真っ直ぐ見たままだ。むしろ俺の方が気合負けしているくらいで正直両手がブルブル震えているのが自分でも分かっている。こ、これって・・・

「・・・ここで答えないと駄目?」

「・・・できれば・・・それだけ分かれば罰ゲームをした意味が出てくる」

 そうか、そういう事だったのか。石狩さんは自分の気持ちを整理する為に、自分の気持ちを俺に伝える為に、ある意味罰ゲームをという事か・・・それに答えてあげるのが本来は筋道なんだろうけど・・・

 俺は1回だけ咳払いしたあと、石狩さんを真っ直ぐ見た。それも真面目な顔をして・・・

「・・・俺はでは答えられないぞ」

「はあ!?  ( ゚Д゚) 」

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