第138話 大成、再び罰ゲーム(?)でデートする⑭~自分に正直になるべきか、それとも嘘をつくべきか~
俺は結構ノンビリ館内を見ていたつもりだったが、今日は土曜日なので観光客や一般の市民、それも小さい子供と一緒の家族連れも多くて、その流れに巻き込まれる形で俺が考えていたもより早く館内から出てきてしまった。これには正直
でも、外に来たならやる事が一つある。それは例の唯一と言ってもいい撮影スポットで写真を撮ることだ。当然だけど、このスポットは撮影待ちの列が出来ているから俺も石狩さんも列の最後尾に並んだ。
もちろん、この場所しか撮影できない訳ではない。でも、一番ベタで一番時計台らしい写真が撮れる場所でもあるから、ここに並ぶ人は多いけど自分の好きなポイントで、自分の好きなアングルで撮るのも全然構わない。後は個人の好みという訳だ。
さすがに一人で何枚も撮るようなKYな人はいないけど、それでも個人と仲間の両方で撮る人が多いから、それなりに時間が掛かる。自撮り棒を使う人もそれなりにいるが、大半は「すみませーん、撮ってくださーい」と言って周囲の人に頼んでいる。俺たちの前に並んでいたのが幼稚園児の姉妹と思われる女の子、まだオムツをつけている男の子の三人を連れたお母さんだ。男の子はお母さんと一緒に待っているけど女の子二人は大きな声で何か楽しげに話してたり、列を離れてあっちこっちへ出ては走り回っているから、お母さんが「静かに待っていなさい!」と何度も窘めているほどだ。ある意味微笑ましいけど、俺が前回ここに来た時は三人で勝手に走り回っていたから、さぞかし母さんも大変だっただろうなと思えて仕方なかった。
俺と石狩さんは肩と肩が触れ合うくらいの距離で並んでまっているけど、隣にいた石狩さんがポツリと
「・・・子供って、羨ましいね」
「へ?」
「ある意味純真というか無邪気というか、自分の思っている事、やりたい事、言いたい事をストレートに表現する事が出来る。勿論、それがいいか悪いかは別として自分に対して正直だと思う」
「・・・たしかに」
「これくらいの年齢になると、これを正直に言うべきか、あるいは言わない方がいいのか、これをやった方がいいのか、あるいはやらない方がいいのか、どっちが正しいのだろうと考えてしまって、それが間違った選択になってしまう事が多々ある」
「・・・・・」
「あたしも自分に正直になるべきか、それとも嘘をつくべきか、どっちが正しいのか分からない・・・」
「・・・・・」
俺には石狩さんが言いたい事、やりたい事が何なのかは薄々想像がついていた。だけど、それをやらない、言わない理由も想像ついていた。当たり前だが、俺はその時にどういう態度、どういう言葉を発すればいいのかも分かっていたが、本当にそれをこの場で言った方がいいのか、やった方がいいのか、それは分からない。言わない方が相手の利益になる事もあるから・・・。
俺たちが撮影待ちの列で並んでいたのは10分にも満たなかったけど、俺たちの前にいたお母さんが石狩さんに「お願いしていいですか?」と頼んだから、石狩さんがニコッとしながら「いいですよ」と言ってお母さんのスマホを受け取り、親子四人のスナップ写真を撮ってあげた。そのお母さんは「有難うございます」と言って石狩さんからスマホを受け取ると列から離れたが、そのまま石狩さんは撮影スポットに立ち、俺が石狩さんのスマホで石狩さんを撮った。それを撮り終えると石狩さんにスマホを返したが、今度は立場を変えて俺が撮影スポットに立って石狩さんが俺のスマホで撮った。
でも、俺はここから離れなかった。そう、石狩さんがニコニコしながら後ろに並んでいた道外からの観光客と思われる初老の夫婦の御婦人に自分のスマホを渡し、駆け足で俺の左に立ったからだ。
「それじゃあ、撮りますよー」
御婦人がそう言いながら石狩さんのスマホを構えたから俺も石狩さんもニコッとしたけど、その瞬間、石狩さんが俺の左腕に自分の腕を絡めて石狩さんが俺に半分もたれかかるような恰好になった。俺は「もしかしたら・・・」と思っていたから驚くような事はしないで意識して御婦人の方を向いていたけど、御婦人がスマホを持った手を降ろしたから撮り終わったというのだけは分かった。
石狩さんは御婦人に「有難うございました」と言ってからスマホを受け取ったけど、そのまま多分スマホのデータを調べていたと思うけど石狩さんの表情は「してやったり!」と言わんばかりのニコニコ顔だった。
俺は石狩のところへ小走りに駆け寄ってから
「石狩さーん、さっきの写真、俺にも見せて下さいよお」
「だーめ!」
「えーっ!だってさあ、どう考えたってやり過ぎでしょー」
「そーんな事はないぞー。これでも手加減したつもりだぞ」
「手加減したなら見せて下さいよお」
「仕方ないなあ、それじゃあ、時間的にオヤツ時だから、どこかの店に入ってからにしないか?」
「あー、俺は別に構いませんけどー」
「それじゃあ、行ってみようか」
そう言うと石狩さんは「こっちだよー」と言って歩き始めたから、今度は俺が石狩さんに追いつく感じで石狩さんの左に並んだ。俺たちの距離はさっとは違い、完全に肩と肩が触れ合っている距離だ。もちろん、俺が意識して距離を詰めた訳ではない。当たり前だが石狩さんが俺との距離を詰めてきたのだ。
「・・・どこへ行くんですかあ?」
「
「狸小路!?」
「そう、狸小路」
「狸小路のどこへ行くんですか?」
「お昼のお喋りの流れで分からないかなあ」
「へ?」
「さっきの店で名古屋名物の話を幾つかしたのを覚えてるよね」
「ええ、してましてね」
「だから、名古屋で結構有名な店の支店が狸小路にあるから、そこに行くのさ」
「有名な店の支店?」
「そう、支店」
「もしかして、『世界の山田君』の手羽先ですかあ?」
「あのなあ、このシチュエーションで手羽先を食べると思ってるのかあ?」
「あれ?違うんですかあ!?でも、俺が知ってる名古屋の有名店で札幌市内に支店があるといえば、昔、父さんが名古屋に行った時に『名古屋の土産だ』とか言って持ち帰った『世界の山田君』の手羽先くらいですよ」
「ノンノン!たしかに『世界の山田君』の支店は札幌にあるけど、あれは狸小路ではなくてススキノだよ」
「それじゃあ、どこに行くつもりなんですか?」
「まあ、ついてくれば分かるよ」
「イマイチよく分からないけど、狸小路のどこ?」
「二丁目だよ」
「はいはい、それじゃあ、ついていきますから道案内は任せますよ」
「りょーかい」
俺は石狩さんについていく感じで歩き続けているけど、狸小路に向かう間の俺たちは終始和やかムードで他愛ない話をずうっとしていた。そう、まるで時間が経つのを忘れるくらいに話し続けていた。
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「ちょ、ちょっとー。マジやり過ぎー」
「そうそう!あれはやり過ぎー!」
「そうだそうだ!兄貴の分際で生意気だあ!」
「「シー!声がデカイ!」」
「うっ・・・スマン」
「わおー、とうとうやったわね」
「あの程度で騒ぐなよー」
「あらー、それ以上の事を期待してたの?」
「い、いや、そう意味で言ったつもりではなかったけど・・・」
「でもさあ、あの距離は・・・」
「あれなら誰が見てもいい雰囲気だよなあ」
「羨ましいのかなあ?」
「その言葉、そっくりそのまま返してもいいかなあ」
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