第137話 大成、再び罰ゲーム(?)でデートする⑬~心臓が止まるかと思ったぞ~

 俺たちが次に向かった場所、それはファクトリーに行く前に少しだけ立ち見した札幌さっぽろ時計台とけいだいだ。 


 札幌市のカントリーサインにも描かれている、時計台・・・


 正式名称は「きゅう札幌さっぽろ農学校のうがっこう演武場えんぶじょう」である。現在の通称は「札幌時計台」、もしくは単に「時計台」と呼ばれ、たくさんの観光客が訪れる名所であり、同時に昭和45年(1970年)には国の重要文化財にも指定された由緒ある建物である。

 明治11年(1878年)10月に現在の位置よりおよそ130m北東の札幌農学校の敷地内に演武場(武芸練習場・屋内体育館)として建設されたけど、建設当初は大時計を設置せず、鐘楼に工部省東京工場製の鐘が吊るされていた。綱を引いて鐘を鳴らす仕組みだったが、時報の正確性に欠くことや振動により実験に支障をきたすことから明治14年(1881年)6月に塔部分を新築し、時打重錘振子式四面時計が設置された。

 同年8月に正式に鐘を鳴らし始めたこの時計は重りの力を利用した振り子式で、4日に一度は運用針と打鐘用の2つの重りを吊るしたワイヤーをハンドルを使い人力で巻き上げねばならないが、豊平川とよひらがわの小石を詰めた木箱の重りの重さはそれぞれ50kgと150kgにもなる上、機械に負担が掛からないよう2時間ほど掛けてゆっくりと巻き上げる必要があり、かなりの労力を要する。

 明治36年(1903年)に札幌農学校が現在の北海道大学所在地に移転し、1906年(明治39年)に札幌区(現在の札幌市)により買取されて現在の場所に移設され、昭和41年(1966年)までは図書館として利用(戦時中は陸軍が一時利用している)されていた。現在は1階の展示室では北海道大学附属図書館に所蔵されている資料が多く展示されている他、北海道大学のイベント会場としても使用されることが多く、市民公開セミナーなどが開催されている。また、1階売店では北海道大学関連グッズも販売されている。2階は貸ホールとしての機能も有しており、コンサートなどのイベントが頻繁に開催されている。

 時計台の外壁面は白く塗られているが、平成7年(1995年)から実施された保存修理時の調査で、創建当初は壁が灰色、柱や窓枠が茶色に塗られていたことが判明した。壁は緑色に塗られていた時期もあり、白の塗装となったのは昭和28年(1953年)からだが、保存修理に際して壁の色は創建時の灰色に戻すことはせず、長年親しまれた白色としている。

 当たり前の事だけど、俺が知識として知っていた訳ではない。今日、ここに来て初めて資料を読んだりガイドが説明している話を横からコッソリ聞いたりして知ったくらいだ。前回ここに来たのは小学生1、2年生の時だから、時計台に関する資料を読んでいたのではなくかえでみどりの三人で館内をあちこち走り回っていたから、この資料をこうやって読むのはある意味新鮮だ。

 この時計台は周囲をビルに囲まれており、その景観などの理由から『日本一のガッカリ名所』とか『日本三大がっかりスポット』と称されることもあり、過去には中島公園なかじまこうえん円山公園まるやまこうえんへの移転案が具体化されたことがあったが、結局札幌市議会の可決により、昭和41年(1966年)に永久保存が決定されている。昭和38年(1963年)に制定された札幌市民憲章には、前文に当たる前章で「わたしたちは、時計台の鐘がなる札幌の市民です」と詠われているほど、札幌市民にとって重要な建物でもある。

 因みに・・・我が清風山せいふうざん高校の最初の本校舎が建てられた時にはまだトキコー、つまり札幌時計台高校が無かったから、本校舎の上に作られた時計塔、それと食堂のド真ん中に作られた縮小版ともいうべき大時計は『時計台』と呼ばれていた。当たり前だが、この2つの外見は時計台の大時計にソックリだったからだ。これはジイや鵜苫うとま伯父さんが持っている昔のアルバム写真や、藻琴もことおばさんや親父の卒業アルバムにも写真が残っているから俺も知ってる。が、トキコーが出来てからは理事長の出身国であるイギリスのロンドンにあるにウェストミンスター宮殿(イギリスの国会議事堂)の大時計のように『ビッグ・ベン』と呼ばれるようになった。形は時計台なのに名前はビッグ・ベンと呼ばれていたから、今でも『清風山高校七不思議』の1つに上げられているけど、15年くらい前に2代目の本校舎が建てられた時には、本校舎の上の時計塔も食堂の大時計も『ビッグ・ベン』ソックリになったのは我が校のトリビア的ネタでもある。まあ、その気持ちが分からない訳ではないけどね。


 そんな時計台の2階に俺と石狩いしかりさんは並んで立っているが、目の前にあるのが時計台の命ともいうべき重りだ。たしかに手の拳よりも小さい石が大量に入れられた箱がワイヤーで吊るされているが、こうやって100年以上にも渡って正確に時を刻んできたのかと思うと感慨深いものがある。

「・・・こんな物で時間を正確に測れるんだねー」

「だよなー。でも、100年以上も前に作られた物を今でも維持してるのは大変だろうね」

「それにさあ、テレビ塔の時計と時計台の時計がズレている時はテレビ塔に苦情がくるって話を知ってる?」

「あー、それ、俺も知ってる。民放のAMラジオ局が時計台の鐘の音を生放送で全道に流してるからねー」

「普通に考えればデジタル表示のテレビ塔の方が正しいと思うんだろうけど・・・」

「道民にとっては時計台の鐘の方が正しいのだから、それくらい、時計台は道民に愛されて、同時に信用されてるんだね」

「この鐘の音は百年以上に渡って時を刻んできた、時計台の生きてる証なのかもしれない」

「そうだね」

「あたしも、この時計台と同じくらいに愛されてみたいなー」

 おいおい、今の石狩さんの発言には正直俺は心臓が止まるかと思ったぞ!俺は思わず左にいた石狩さんを見てしまったけど、石狩さん本人は自分の行った言葉の意味を知ってか知らずかは知らないけど重りの石を見たままだけど、マジで今の発言にはビビった。もし石狩さんがストレートに言葉をぶつけてきたら俺は本当に返事に困っただろうな。


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「へえー、結構勉強になるわねー」

「あのー、本来の目的を忘れてないですかあ?」

「人が多いから見失いそうだ」


「ここに来るのは初めてだけどー」

「あれ?札幌市民なのに初めてなのかあ?」

「札幌市民だから初めてなんだけどー」

「あまりにもベタ過ぎて来る機会が逆にないからなあ」


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