第129話 大成、再び罰ゲーム(?)でデートする⑤~さっきまでより近くなっている気がする

 俺たちはバスに乗る事なく、そのまま札幌駅を出て大通りに向けて歩き出した。まあ、バスに乗ってもいいのだが、サッポロファクトリーまでなら歩いていける距離だ。それに乗り物に乗っていると色々と周囲の目が俺たちに集中するのが分かるから、それなら歩いた方が気が楽だ。天気もよくて歩くにも丁度良いくらいの気候だから、互いに暗黙の了解で歩き出した感じだ。

 ただなあ、やっぱりすれ違う人たちの視線が俺たちに、正しくは石狩いしかりさんに集中しているのが丸分かりだ。背も高いしスタイルも抜群、ため息が出るくらいの美貌で、それでいて着ている服のコーディネートも問題なし。となれば男も女も『思わず振り向いてしまった』という表現がピッタリの状況に陥るのも無理ないなあ。

 俺は北2条で曲がると思っていたのだが、石狩さんはまだ真っ直ぐ大通りへ向かって進んだから「あれっ?」と思ったけど、北1条、つまり国道12号線を左に曲がった。そこを東に向かって進めば、やがて見えてくるもの・・・それは札幌のシンボルでありながら『日本一のガッカリ名所』などという不名誉な称号を与えられている場所としても知られる、札幌時計台だ。

 俺たちは立ち止まって時計台を外から眺めたけど、休日だから時計台周辺には大勢の観光客でごった返しているのがよーく分かる。しかも、唯一と言ってもいい撮影ポイントには撮影待ちの長蛇の列が出来ている。

 俺たちは立ち止まって時計台を眺めていたけど

「・・・相変わらずここは物凄い人気ですねー」

「そうだな、しかも時計台は2階建ての屋根の部分に時計塔がついていて3階建てのような物だけど、周囲の建物は遥かに高いから、まるで大人だらけの満員電車の中に子供が一人ポツンと乗っているような感じだよね」

「周りの建物に見下ろされている格好だからなあ」

「あの撮影ポイント以外で撮影すると時計台が脇役になっちゃう・・・」

「だから観光雑誌に載っている写真も殆どがあのポイントから撮ってるよね」

「ああ」

「石狩さんは時計台に行った事があるんですか?」

「1回だけ、たしか幼稚園の時に」

「俺も1回だけ、たしか小学校1、2年の頃に」

「会長と一緒にか?」

「いんや、青葉あおばはいなかった。かえでみどりはいたけどね」

「・・・それじゃあ、帰りに寄って行かないか?」

「へ?・・・」

 俺は思わず石狩さんをマジマジと見てしまったけど、石狩さんは顔を真っ赤にして時計台とは全然違う方を向いてしまった。

 やれやれ、相当意識過剰だよなあ、もっと力を抜いた方がいいと思うけどね。だから俺はちょっとだけ苦笑したけど。

「・・・それじゃあ、目的の物を先に終わらせてから行きましょう」

 そう言ってニコッとしたから、石狩さんが俺の方を振り向いて

「い、いいのか?」

「構いませんよ、デートでしょ?」

「そ、それはそうだけど、ホントにいいの?」

「いいですよ。俺も久しぶりに行きたくなりましたから」

「じゃ、じゃあ帰りに行こう」

「りょーかい」

 それだけ言うと再び俺たちはサッポロファクトリーに向けて歩き出した。でも、なんとなくだけど石狩さんと俺の距離はさっきまでより近くなっている気がする。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「あれー、時計台に入らないのー」

「おっかしいなあ、『北一通り』を選んだからには絶対に寄っていくと思ってたのに」

「へへーんだ、今度もあたしの一人勝ちだあ」


「あらあらー、さっきよりも大胆になっていませんかあ」

「そう思うぞ」

駒里こまさと君はいつでも手を握れるように構えてると思うんだけどー」

「だけど太美ふとみクンが躊躇している感じだなあ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る