第127話 大成、再び罰ゲーム(?)でデートする③~苦労してるんですね~

 俺と石狩いしかりさんは小樽行きの普通列車に乗り込んだ。正しくはホームに来た電車に乗り込んだだけだが、この時間の快速はいつも満員で押し込むようにして乗り込む時があるけど普通列車はそれほど混んでない。でも、電車のシートは全て埋まっていたから俺たちは車両の真ん中付近で進行方向右側の窓を向く形で並んで吊り革を掴んでいる。

 周囲には他にも大勢の人が乗ってるけど、さすがに普通列車に大きなスーツケースや鞄を持って乗っている観光客はいない。俺たちの目の前には幼稚園児か幼稚園入学前と思われる男の子、そのお姉ちゃんと思われる小学生を連れたお婆ちゃんが座っているし、俺たちのすぐ後ろには同じく新札幌駅から乗り込んだ、高校生と思われるチャラ男君とその彼女と思われる子も同じく吊り革を掴んでる。他にも老若男女問わず乗ってるけど、みーんな普通の市民だ。

 そんな中に俺と石狩さんは乗り込んでる形だけど、ずっと無言でいた訳ではない。普通に会話しているけど、その話題は特に偏った物ではない。互いに自然体だ。

「・・・ところで石狩さーん、お兄さんは今日は朝から病院ですかあ?」

「そうだよ。兄様はあたしが家を出る1時間以上も前にお母さんが運転する車で病院へ行ったよ」

「これで松葉杖が無くても歩けるようになりますね」

「まあね。さすがの兄様もトイレには困ってたからね。学校はエレベーターと専用トイレがあるから問題なかったと兄様は言ってたけど、家へ帰ったらトイレは普通のトイレだろ?」

「たしかにねー」

「しかも体がデカイから『松葉杖をもったままだとトイレのドアを閉められない』とか言ってワーワー騒いでた」

「ある意味傑作だよねよ」

「だよねー」

「帰りも車ですか?」

「お母さんは送っていっただけだよ。兄様は『帰りは自分で歩いていくから迎えにこなくてもいい』って言ってたけど、本当はそのまま羽帯はおびさんと出掛ける気でいるみたいだよー」

「あらあらー、アツアツですねー」

「まったくだ。羽帯さんも羽帯さんで、兄様が怪我をしたのをいい事に毎日のように勝手に上がり込んできて、それこそ『押しかけ女房』気取りだよ。ラブラブなのはいいけど、見せ付けられる身にもなってみろ!って文句を言いたいぞ」

「うわっ!鶴沼つるぬま先輩って結構大胆ですね」

「だろ?兄様もあれでいてズボラな性格だから、逆に羽帯さんに甘えてるんだ」

「へえ、まるでカカア天下だね」

「まさにその言葉がピッタリだな」

 その言葉に俺たち二人が笑い合ったのは言うまでもなかった。石狩さんの口調は2日前の時のようなトゲがあるような言い方は全然なく、さっきのような無理している様子もなく、あくまで自然体だ。

 俺たちはさっきからつり革を掴んで立ったまま話をしているけど、俺は周囲の視線が俺たちに集中している事に気付いていた。いや、正しくは石狩さんに、だとは思うけど、たしかに電車内にスーパーモデルかと見違えるような美少女がドーンと乗っていたら注目したくもなるよなあ。

「・・・あのー、なーんか注目されてるような気がするんだけど」

「・・・正直、それはあたしも感じてた」

「石狩さんは普段からそう感じてますか?」

「・・・感じてないと言えば嘘になるけど、それが嫌だから兄様と一緒の時以外は顔を伏せて猫背気味に歩いてる」

「苦労してるんですね」

「兄様と一緒なら自分の身長を気にしないで済むからね」

「そっちの方を気にしていたんですかあ!?」

「あれ?その質問じゃあなかったの?」

「い、いや、俺は・・・まあ、たしかに背の高い女性は逆にコンプレックスになっているという話は聞いた事があるけど・・・」

「兄様以外の人と一緒の時にハイヒールは怖くて履けないよ」

「・・・苦労してるんですね」

「まあね」

 俺たちが乗った電車は平和へいわ白石しろいしに停車し、次の苗穂なえぼを出ると札幌になる。

 だけど・・・俺はどこへ向かうのかを知らない。


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「ちょっとー、ホントに札幌で降りるんでしょうね」

「うーん、新千歳空港に行かないなら札幌で降りる筈だけど・・・」

「まさかとは思うけど知ってる人に会わないよう、小樽まで行くって事はないでしょ?」

「それはないと思うけど・・・」


「ぜーったいに札幌で降りるんでしょ?」

「多分間違いないと思うけどー、問題はその後だよねー」

「オーソドックスならステラプレイスだろうけど、デートと捉えるならサッポロファクトリーって言いたいんだろ?」

「イチオシはファクトリーよね」

「だーかーら、自分の希望を押し付けてどうするのよー」

「そうそう。だいたいあの二人、周囲の視線が集中しているのにノホホンとして電車に乗っているとは鈍感にも程がある!」

「「シー!声が大きい!!」」

「うっ・・・スマン」


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