第121話 大成、本当はため息をつきたいけど・・・

 それだけ言うと石狩いしかりさんは「はーーーーー・・・」と大きなため息をついた。たしかに石狩さんがため息をつきたくなる気持ちも分かりますよ。俺だって本当はため息をつきたいですよ、ハイ。

 まあ、ルックスだけを見れば青葉あおばをも上回る石狩さんがため息をしている仕草は、それはそれでグサッと来るものがありますけど、今はそんな事を悠長に言ってる場合ではない。石狩さん、同情しますよ・・・

「・・・あくまで二人が言うには、ですよ。俺だって『正直参ってますよ』というのが本音ですから」

「あたしも同感。たしかこういうのをことわざで『晴天せいてん絶壁ぜっぺき』とか言ったよなあ」

「石狩さーん、それを言うなら『晴天せいてん霹靂へきれき』ですよー」

「うっ・・・」

「霹靂とはかみなりの事ですから、晴れてる日にいきなり雷がなったらビックリする、つまり、想定外の事が起こって驚いたという意味ですよー」

「はいはい、すみませんでしたあ」

「ところで、マジでこの件をどうしますか?あの試合は、改めて石狩先輩の怪我が治った後に試合をして、あるいは明日ジイに審判を依頼して俺と石狩さんで再試合をしますか?そこで俺が負けたら本当にデートするけど、俺が勝ったらこの話は無かったという事で俺はいいですよ」

 俺はそれだけ言うと石狩さんの返事を待った。けど、石狩さんは俺の話を聞いてブルブルブルっと顔を震わせたかと思うと

「ちょ、ちょっと待ったあ!」

「はあ?」

「あの試合は、あたしと駒里こまさとが火曜日に話した通り『勝負は駒里こまさとの勝ちだが、試合はあたしの勝ち』だ。あの試合は有効であり、兄様や羽帯はおびさんの言う通り、あたしは駒里とデートする義務がある!」

「・・・・・ (・_・;)」

 石狩さんは顔を真っ赤にしたまま『ぷいっ』と横を向いてしまったけど、何だかんだ言ってデートを拒否するどころか、兄妹揃って屁理屈を言って俺とデートするのかよ!?という事は、石狩先輩や鶴沼つるぬま先輩が言ってた通り・・・

 石狩さんは顔を横に向けたままポケットからスマホを取り出してテーブルの上へ置くと、俺の方を向く事なくスマホを差し出した。

「はい・・・」

 それだけ言って俺にスマホを突き出したけど、俺には石狩さんが何をしたいのか全然分からない。

「・・・あのー」

「ん?」

「このスマホをどうしたいんですか?」

「そ、それは・・・あたしは駒里の連絡先を知らない。だから、あたしに番号とアドレスを教えてくれないか?」

「はあ?」

「だーかーら、連絡先を教えてくれ」

「はいはい、分かりましたよ」

 それだけ言うと俺は石狩さんのスマホと自分のスマホを一人で操作してデータのやり取りをしたけど、石狩さんは自分のスマホを見て俺のデータが入ってるのを確認したら、急にニコニコ顔になってるじゃあないか!?だけど、俺が石狩さんを見てる事に気付いたら、急に「フンッ」とばかりに横を向いてしまった。

「こ、駒里・・・くん」

「はあ?」

「駒里・・・くん、断っておくが、あたしは兄様と羽帯さんが勝手に決めた事で君に迷惑を掛けたから、だ、だからから感謝しろよな」

「う、うん・・・」

「と、ところで、明後日の土曜日は何か予定がある?」

「い、今のところは何も入ってないけど・・・」

「あ、あのー・・・もし良かったら、一緒に行って欲しいところがあるんだけど、構わないかなあ」

「場所によりけり、ですけど」

「だ、大丈夫だ、別に難しいお願いじゃあない。一緒に行って欲しいところがあるだけだからさあ、それをデートという事にして欲しいんだけど、駄目かなあ」

「・・・・・」

 おいおい、表情はツンとしてるし、喋り方もツンとした喋り方、言い換えればみどりが俺が喋ってる時の言い方を少し丸くしただけだが、何だかんだ言って俺を強引に連れ出そうとしてるじゃあないかあ!?こいつも正直じゃあないなあ。しかも「駒里君」かよ!?さっきまでの「駒里」から、いつの間に呼び方を変えたんだあ!?

 ちょ、ちょっと待てよ・・・正直じゃあない喋り方!?・・・もしかして・・・


 でも、俺は石狩さんからの申し出を断る事は出来なかった。石狩さんが「一緒に行って欲しい」と言った場所、それは・・・

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