第118話 大成、全然緊張感のない話しっぷりに呆れる

「・・・あのー、ちょっといいですかあ?」

 俺は右手を軽く上げながら石狩いしかい先輩と鶴沼つるぬま先輩の会話に割り込むような形で逆質問を始めた。

「ん?何かあったの?」

「まさかとは思いますけど、俺にノロケ話をしたくて呼び出したんじゃあないですよねえ」

 俺は結構真剣に聞いたつもりだったけど、石狩先輩も鶴沼先輩も結構軽い口調で

「違うよー」

「ちゃあんと理由があって駒里こまさと君を呼び出してるぞー」

 おいおい、結局はノロケ話をしているのと変わらんぞ。そう言いながら二人ともニコニコ顔なんだからさあ。

「うーん、どこから話せばいいのかなあ・・・」

「あのー、大成たいせい君、月形つきがたは超がつくくらいに要領よく説明する事が出来ないからあ、わたしの方から説明してもいいかなあ」

「俺はどっちが説明してもいいです」

「それじゃあ、話すよー」

 そう言って鶴沼先輩は話し始めたけど、全然緊張感がないというか何というか、とにかくニコニコしたままだ。

「まずー、大成君に再確認だんだけど、太美ふとみちゃんが言うには大成君はって言ってたけど、それは間違いないの?」

「まあ、それは事実ですよ。あの試合の次の朝、青葉あおばと二人で石狩さんに会った時にもう1回確認しましたけど『勝負は俺の勝ち、試合は石狩さんの勝ち』という、玉虫色の決着だけど、そういう事で話がついている。みなみ先生が「試合」と明言している以上、俺は『指導』4回による一本負けなのは間違いないですし、青葉も承知してますよ」

「ふーん、じゃあ、大成君の負けという事でいいわね」

「はい、いいですよ」

「あのね、大成君。気分を害するようで申し訳ないけど、あの時、目名めな君とおにとうげ先生がビデオを撮っていたのに気付いたと思うけど、あれは鬼峠先生が月形に試合の様子を後で見せる為に撮影してたのね」

「そだったんですかあ。因みに石狩先輩、あの試合の感想を率直に聞かせてもらえませんか?」

 そう言ってから俺は石狩先輩の顔を見たけど、石狩先輩は終始にこやかな表情を崩さずに

「うーん、試合結果は会長の横槍が無ければ、たしかに君は『袈裟けさ固め』で一本勝ちしてたのは間違いなさそうだな。あれはおれが見ても完璧に決まってた。『後ろ投げ』もほぼ完ぺきだが、あれを『一本』にさせなかったのは太美の恐ろしいところだけど、仮に太美が抑え込みから逃れられたとしても『背負い投げ』で君の一本勝ちだ。これは太美も認めた通りだ」

「ですよねー」

「だが、知っての通り試合は君の負けだ」

「ま、あれは仕方ないですね。本人も相当反省してますよ」

「おれのところにも『太美のお陰で我が部の呪いが解けた』って言ってくる奴が両手では済まないくらいだから、ある意味、会長は多くの運動部のために頑張ってくれたという事だ」

「そうとも言えますね」

「そのお陰で、ますます会長の人気は不動の物になったと断言してもいいな」

「わたしもそう思うわよー」

「ですよねー、はーーーーーーー・・・・」

 おいおい、青葉の奴、あんな暴走をした事で泣きっ面をしてたのに、結果論だけを言えば自分の人気取りのために「判定を捻じ曲げた」と言われてもおかしくないぞ。

 まあ、どのような経緯であれ、俺が試合に負けたのは事実だ。そこは素直に認めよう。それに、青葉もあの後、何となくなだが一皮剥けたように思えるのは俺だけだろうか・・・

「ところで大成くーん、ちょーっといいかなあ」

「あー、はい。鶴沼先輩、俺に何か用ですか?」

「あのね、先週の金曜日、月形が相当挑発的に大成君に『試合』を申し込んだと思うんだけど、あれは全部なのよねー」

「はあ?」

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