第116話 大成、鶴沼先輩の向かい側に座っている人物が誰なのかに気付き冷や汗をかく

 時間は進み放課後。


 今日の生徒会の仕事は特に忙しくなかった。既に明日の生徒総会の冊子は配布済みで、俺たちは清風祭の第一回実行委員会に使う資料とか、昨年の実行表をベースにして今年度の実行表案を作るなど、殆ど清風せいふう祭に関する作業しかしなかった。

 因みに・・・さすがの広内金ひろうちがね先輩も、女子の制服に関する校則改定案については大人しく引き下がった。当たり前の事だが、この事に関する一般生徒の関心が低い以上、執行部が提案しても承認される可能性がゼロではないけど低い事は広内金先輩自身が一番良く分かっているからだ。冊子を印刷する直前の、恵比島えびしま先輩の「これは載せないぞ」の言葉に対し無言で首を縦に振ったのがその証拠だ。

 そんな平和な1日も青葉あおばの「今日はこの辺りで終わりにしましょう」の一声で解散となり、俺はいつも通り青葉と帰ったのだが・・・今日はここからが違った。

「ただいまー」

 俺が帰った時、母さんはリビングにいたけどかえでみどりはいなかった。母さんに言わせると「一度帰ってきたけど、その後すぐに二人で出掛けたわよ」だったが、その事であーだこーだ言うつもりは無い。

 俺は自分の部屋で制服から私服に着替えたけど、持ち物は財布とスマホだけだ。それ以外は何も持たず、夕飯も食べずに出掛けた。

「行ってきまーす」

「ちょ、ちょっと大成たいせい、夕飯はどうするのー?」

「帰ったら食べるよー」

「はいはい、気を付けてねー」

 電車通りのWcDなら歩いて15分かからない。自転車で行っても良かったのだが、なんとなく乗る気にならず歩いて行く事にした。

 でも・・・その前にやらなければならない事が一つある。それは鶴沼つるぬま先輩に電話をする事だ。

 俺はポケットからスマホを取り出すと歩きながら電話した。

『・・・もしもし』

駒里こまさとです、これからWcDへ向かいます」

『りょーかいであります』

「15分くらいで着きますよ」

『はーい。もう待ってるけど、慌てなくていいわよー』

「はいはい」

 それだけ言うと俺は電話を切ったが、俺はに全然気付いてなかった。いや、とでもいうべきか、とにかく、俺はその勘違いを修正できないままWcDへ行った。


“いらっしゃいませー、WcDへようこそー”


 夕方のこの時間は一般の客や学生たちでそれなりに賑わっていたけど、俺は店内に入るとキョロキョロと辺りを見回した。そうしたら店のかなり奥の4人掛けのテーブル席に特徴ある赤いフレームの眼鏡と赤いリボンでポニーテールにしている女の子が座っているのに気付いた。そう、鶴沼先輩だ。

 さすがに既に私服であるが、ロリ顔ロリっ子なのは私服でも制服でも全然変わらず、小学生がWcDの店内にいるような感じで思わず笑いだしそうになったけど、さすがに高校3年生に対して失礼だと思って自重したけどね。

 その鶴沼先輩だけど、どうやらあちらも俺に気付いたようで左手を高く上げて手を振ったから、俺はそのテーブルに向かった・・・けど、鶴沼先輩の向かいの席、俺から見たら俺に背を向ける形で、こちらもラフな服を着たが座っている事に気付いた。そして、それが誰なのかに気付いて、一瞬、心臓が止まるかと思った。

 そのがこちらを振り向いた時、俺はマジで冷や汗をかいた。4日前、俺と対戦する筈だったけど怪我をした事で対戦は幻に終わった相手・・・石狩いしかり月形つきがた先輩だったのだ

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