第115話 大成、ロリ顔ロリっ子の3年生から話し掛けられる

 青葉あおばは休み時間で教室の外へ出ているし、当麻とうま双葉ふたばさんも教室にはいないから一人でボーッとしてたところへ、不意打ちの形で矢不来やふらいに声を掛けられ慌てて矢不来が指を差す方向を見たら、眼鏡を掛けた水色リボンの女子が廊下から2年1組の教室を覗き込んでいる事に気付いた。

 俺は一瞬「あれ?どこかで見た事があるけど誰だったかなあ?」と思ったけど、相手を待たせるのは失礼だと思って立ち上がり、その子のところへ行った。

 その子は赤いフレームの大きな丸眼鏡を掛けていて、どう見ても腰まであるような長い髪を赤いリボンでポニーテールの形で束ねていたけど、パッと見た時の雰囲気は『みなみ先生がかつらをして眼鏡を掛けている』というような子だった。要するに、ロリ顔ロリっ子という表現がピッタリである。当たり前だが、ロリっ子というからには胸の大きさは南先生といい勝負だ。

「・・・俺に用があるっていうのはあなたですかあ?」

 俺がその子のとことへ行ったら、その子はニコッと微笑んだ後に軽く会釈をしながら

「忙しい所を呼び出してゴメンねー。ちょっーと君にお願いしたい事があってここまで来たのよー」

「あー、はい、それは分かりましたけど、俺にお願いしたい事って何ですかあ?」

「実はねえ、、いいかなあ」

「俺に会って欲しい人?」

「そう、どうしても君と話をしたいっていう人がいるんだけど、いいかなあ」

「うーん・・・」

「駄目ですかあ?」

「・・・・・」

 俺は女の子を前にして返事に窮した。

 どう考えても、この子は誰かから伝言を頼まれただけで、別の子が俺と会いたがっている。だけど。つまり、誰かが俺に「君が好きです!わたしと付き合って下さい!」と言う為にこの子を使って俺を呼び出しているとしか思えない。

 まあ、俺だって去年は1学期に同学年の女子から2回、体育館裏と講堂裏に呼び出された事があるけど。で、結論はというと、別にその子が可愛くなかったとか好みのタイプではなかったとか、そういう理由ではないけど俺は『青葉との関係を今より進めたい』と当時から思っていたのは疑いようのない事実なので、丁寧に断った。まあ、去年の2学期以降、俺が「串内くしない青葉のボディーガード」と呼ばれるようになってからは誰も言ってこなくなったのは事実だ。

 そう考えると、1年ぶりとまではいかなくても、随分久しぶりに・・・い、いや、まだ誰かが俺に告白すると決まった訳ではないし、イタズラ目的の呼び出しの可能性もある。

 だがなあ、こういうと本人に失礼だけど、俺と青葉は校内では殆ど行動を共にしているから、昼休みに抜け出す事は無理だし、放課後だって生徒会があるし・・・まあ、放課後の少しの間だけなら抜け出せない事はないかあ。

「・・・今日の放課後とかでは駄目かなあ」

「とんでもないです、ぜーんぜんOKですよ」

「じゃあ、決まりだ。時間と場所はどうするんだ?」

「あのー、こちら側の都合を言わせて頂ければ、今日の夕方、電車通り沿いにあるWcDの仁仁宇ににう店でお話をしたいんですけどお、それでもいいですかあ?」

「うーん・・・学校帰りに直接行くと青葉が同行する事になっちゃうから、それだと不都合だろ?」

「たしかにそうですね」

「生徒会が終わってから一度帰宅して出直しという形で良ければWcDに行くけど、午後の6時とか7時くらいになっても大丈夫なのかなあ」

「あー、それは向こうも承知してますから全然OKです」

「じゃあ、決まりだ。でも、待ちぼうけになる可能性もあるけど、どうする?」

「わたしのスマホの番号をお伝えしますので、君が自宅を出る時に電話して下さい。そうしたらこちらも家を出ます」

「あれ?WcDの近くなの?」

「そうですよー。だから全然OKです」

「分かった。じゃあ、番号を教えてくれ」

 そう言ってから俺は自分のブレザーのポケットからスマホを取り出した。

「じゃあ、いうわよー。090・・・」

 俺はその子から教えられた11桁の番号を押し終えると確認の為に『通話』マークをクリックした。その子のブレザーのポケットからも着信のメロディが聞こえたから番号間違いなさそうだ。俺はワンコールだけで切って、その子のブレザーから聞こえていた着信は直ぐに途切れ、それを合図に俺は再び自分のスマホをブレザーに入れた。

「・・・よし、これで大丈夫だけど・・・ゴメン、名前を教えてくれないかなあ」

「あれ?わたしの名前を御存知の筈ですけど・・・」

「スマン、どこかで見た事があるのは間違いないけど、名前が出てこないんだ」

「まあ、この場で名乗ってもいいですけど、その番号を悪用しないって約束してくれますか?」

「約束する」

「約束よー。それでー、わたしの名前は鶴沼つるぬま、3年4組の鶴沼羽帯はおびよー」

「鶴沼、ですか・・・」

 俺はその子、鶴沼先輩の『鶴沼』という苗字を必死になって思い出そうとしたが、なかなか出てこない。だいたい、この学校の生徒は全部で900人近くいる。三年生の女子の数だって大雑把に数えて150人近くいるのだから、全部覚えているという方が無理だ。

 でも・・・この子の眼鏡とポニーテール姿をどこで見たのかを思い出した!そう、あれは『部・同好会合同説明会』の時だ!!

「もしかして・・・アニ研の・・・」

「そうですよー。わたしがアニ研の部長の鶴沼でーす」

「だよなあ。どこかで見た事があると思ってたけど、紅葉山もみじやまさんの後を継いでアニ研の部長をやってる鶴沼先輩だったんだあ」

「ようやく気付いてくれましたね」

「いやー、たしか以前は眼鏡を掛けてなかった筈だったから、なかなか思い出せなくて」

「たしかに以前はコンタクトだったけど、ドライアイが酷くなってきたから最近はずっと眼鏡なのよねー」

「そうだったんですかあ。結構大変なんですね」

「まあね。でもー、わたしも校内では結構有名人ですけど、さすがに君と比較されちゃうと月とスッポンですからねえ」

「月とスッポンは酷いですー」

「まあ、それは冗談ですけど、とにかく今日の夕方、WcDの仁仁宇店でお待ちしております」

「おーい、たいせー、お客さんなのー?」

 いきなり遠くから声が聞こえたから、俺と鶴沼先輩は声がした方を振り向いた。そうしたら青葉が廊下を呑気にこちらへ向かってくるところだった。

 これを合図に鶴沼先輩は「じゃあねー」と言って右手を軽く上げて青葉が来る方向とは逆方向へ歩き始めたので、俺も右手を軽く上げて先輩を見送った。

「・・・たいせー、あの三年生は誰なのー?」

 青葉は俺のところへ来ると開口一番聞いてきたけど、たしかに俺が三年生の女子と親しく話をしているところを見たのなら、青葉が「あれあれ?」と思うのも無理ない。

「鶴沼先輩だよ。アニ研の部長の」

「あー、あの鶴沼先輩ね。たしか紅葉山先輩に負けず劣らずのアニメオタクとして有名人よねー」

「俺も最初は誰なのか思い出せなかったけど、自分から名乗ったから思い出したよ。まあ、さすがに紅葉山さんみたいな度を過ぎたオタクではないけど、紅葉山さんが卒業した以上、鶴沼先輩の右に出る人は今年の1年生でもいないんじゃあないかなあ」

「それもそうね。ところで、どうして鶴沼先輩と大成たいせいが話してたのー?」

「あー、それは・・・この前の試合、負けちゃったけど気を落とさないでねって声を掛けられたんだ」

「あらー、大成、これで何人目?片手では済まないわよねえ。でもさあ、あの後、大成を励ますのはいっつも女子ばかりで、ある意味モテモテねえ」

「勘弁してくれよお。誰のせいで負けたと思ってるんだあ!?」

「あれー、誰だったかなあ ♪~(´ε` ) 」

「ったくー。相変わらず呑気だなあ」

「まあまあ」

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