第110話 青葉、会長になる⑩~信任99.88%~

『会長候補者 1年2組 串内くしない青葉あおば

『副会長候補者 2年3組 恵比島えびしま八雲やくも

『副会長兼風紀委員長候補者 2年3組 広内金ひろうちがね華苗穂かなほ


 これが貼り出されると、青葉の期待(?)とは裏腹に青葉のところへ早々と個人的支持を表明する人が男女問わず続出し、青葉自身が困惑したくらいだ。

 青葉の会長候補として演説会は水曜日の7時間目に体育館で行われたが、演説の大半は副会長候補の恵比島先輩が行い、広内金先輩は「風紀委員長として会長の串内青葉さんを補佐していきます」としか言わなかったし、青葉に至っては「頑張りますのでよろしくお願いします」としか言わなかったくらいだ。

 その演説に続いて全校生徒による投票が行われたのだが、全校生徒861人のうち風邪などで欠席した人を除く850人の投票の結果、『無効票・白票は1票もなく、信任99.88%』と選挙管理委員会が発表して青葉は生徒会長に信任され、冬休み明けからは新生徒会長になる事が決まった。

 この結果に一番驚いていたのは青葉だ。クラスメイトだけでなく2年生や3年生からも握手攻めされて本人は最初から最後まで笑顔で握手に応じていたのだが、放課後「さすがに疲れた。もうやりたくない」と俺に愚痴っていた。

 ただ、当然だが青葉の周辺では「誰が不信任票を入れたんだ?」「どう考えても1人だけ青葉ちゃんに期待しない奴がいる!」「そんな奴は許しておけない!」などと物騒な話をする連中が息巻いてたけど、竹浦たけうら先輩を中心とする風紀委員会が指導して騒ぎは数日で落ち着いたけど、青葉自身はその話を聞かされる度に

「さ、さあ、誰なんでしょうね」

「うーん、それだけ私は完璧じゃあないっていう証拠よ」

「きっと私の活躍を見たら考えを変えてくれるわよ」

などと毎回のように青葉らしからぬ苦笑いをしながら話をしていた。

 だから、俺はこの時点で『唯一の不信任票を投じたのは青葉自身である』と確信した。その証拠に、青葉はこの話をする時には必ずけど、これは青葉が嘘をついている時に無意識にやる癖だというのを俺は知ってたからだ。


 もう一人の書記である赤井川あかいがわ美利河ぴりかさんを青葉が選んだのは会長選挙が終わった翌日の事だ。ただ、美利河さんを選んだ経緯というのが凄まじい、というか殆ど強引だ。


 会長選挙翌日の放課後、スイーツ研究同好会のメンバーが調理実習室で出来立てのアップルパイを食べている時に廊下を俺と青葉が通ったから、それに気付いた次期部長に内定している錦岡にしきおか先輩がいきなり実習室のドアを開けて

「串内さーん、アップルパイを食べていかなーい?」

いきなり声を掛けられたから青葉が「えっ?いいんですか」と一瞬戸惑ったけど広内金先輩を含む他の部員も「食べて行こうよ」と言ったから青葉はそのまま調理実習室に入って行った。俺も青葉に連れられる形で調理実習室に入っていき、青葉や錦岡先輩、広内金先輩たちと紅茶を飲みながら雑談していたところへ、いきなりドアが乱暴に開けられた。


「すみませーん、アップルパイってまだ残ってますかあ!?」


 そう言ってドアを開けて入ってきたのは1年生の女子だった。それも広内金先輩とは真逆の女の子で、背は低くて小学生と言っても誤魔化せるのではないかと思えるほどの外見でありながら、殆ど真っ平の広内金先輩とは逆に制服がはち切れんばかりの巨乳だ。

 そのままズカズカと女子トークの輪の中に入ろうとしたけど、残っていたアップルパイは1切れだけだった。

 その女の子はお皿に手を伸ばしていきなりアップルパイを掴むと

「あー、1個だけ残ってるー。当然、これはわたしの分ですよねえ」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ」

「あー、それは違ーう!」

「だめー!」

 そう言って周囲が制止したけど、そんなの声が聞こえないかのように口の中に入れてしまった。

 当然だけど青葉も口をあんぐりと開けて唖然としていたし、それは広内金先輩も同じだった。

「あれ?これってわたしの分じゃあなかったの?」

と言って本人はケロッとしていたから、他のメンバーが珍しく顔を真っ赤にしながら

「おい、赤井川!串内さんが食べるはずだったアップルパイを勝手に食べただろ!」

「そうよそうよ、あなたの分は今日はいなかったから用意してなかったのよ」

「しかもみんなが『ダメー!』って言ってたのに食べちゃうなんて酷いわよ」

「そうよそうよ」

「串内さんに謝りなさいよ」

などと怒り出す始末だった。本人は「えー!ごめんなさーい」と言って青葉に頭を下げ、青葉も「別に怒ってないわよ。それに私が勝手に試食させてもらっただけだから」と言ってニコッと微笑んだから無罪放免・・・かと思っていたけど、ここで広内金先輩が

「こらー!あかいがわー!!だいたい試食専門の幽霊部員が次期会長が食べるはずのアップルパイを食べるなど言語道断!次期風紀委員長として君の行為を見逃す訳にはいかなーい!」

などと言って女の子に詰め寄ったから、その女の子は広内金先輩に

「すみません、すみません」

と言って何度も頭を下げていた。

 その子は何度も広内金先輩に頭を下げながら

「だってー、わたしだって好きで幽霊部員やってる訳じゃあないですし、だいたいわたしは同好会を存続させる為に加入した試食専門の幽霊部員だっていうのは先輩たちが一番御存知のはずですよお」

「だからと言って、お客様に振る舞うパイを食べた罪を見逃す訳にはいかない!」

「えー、それは勘弁してくださいよお。今回ばかりは見逃してくださーい」

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