第109話 青葉、会長になる⑨~公示~

 紅葉山もみじやま先輩が次期風紀委員長として推薦したのは、恵比島えびしま先輩と同じ2年3組の広内金ひろうちがね華苗穂かなほ先輩だった。

 この名前が紅葉山先輩の口から出た時に、全員が驚愕の声を上げたのも無理はない。

 一部男子からは「元は男で〇〇を取って女になった奴」とまで言われるほど胸がペッタンコだから、入学早々このネタで3年生の男子に揶揄われてマジ切れして、男子も女子も大勢いる目の前で本気のヘッドロックをかまして「どうだ、無いから出来るんだぞ!」と言って相手を黙らせたという逸話(というより実話)が残っているほどの危険人物(?)として知られている(当然ながら、女子にヘッドロックされながら「全然感触が無かった」とボヤいていた話も残っている)。相手が女子であろうと貧乳ネタに対しては容赦しないのだから、男女・学年を問わず「貧乳」とか「ぺったんこ」「真っ平」などという言葉は広内金先輩の前では禁止用語というのは共通認識になっているほどだ。当然、その逆の言葉である「巨乳ネタ」も広内金先輩の前では禁止用語というのは校内では常識だ。

 その割に華道部とスイーツ研究同好会に所属していて、特に華道部では生徒でありながら池坊流の免許皆伝の実力で、部員ではないけど茶道部にも顔を出していて、こちらも茶道部顧問で表千家の免状を持っているらん先生を唸らせる程に茶道を熟知しているし、裏千家もお手の物だから、女子の間でも知らない人はいないと言われているほどだ。学力も普通科所属でありながら英語は学年トップで総合でも20位前後をキープしている。しかも英語とイタリア語に堪能、フランス語もそれなりに使えるのだから、一目置かれる存在である。

 ただし、華道と茶道から離れるとガサツな性格丸出しとなるから、男子からは「ちょっとでも胸があって、あの性格がなければモテモテの筈なのに勿体ないなあ」

と言われていて、女子の間でも

「あの性格さえなければ男子にモテモテの筈なのに勿体ないわねえ」

として、校内で知らない人はいないと言われているほどだ。

 だから、校内での広内金先輩の

「裏美少女ナンバー1」

「彼女にしたくない女ナンバー1」

と、男子生徒からも女子生徒からも不名誉な称号で呼ばれるのも仕方ない。

 だが、たしかに紅葉山先輩が言った通り『毒を以て毒を制す』の風紀委員長には違いない。でも、根は真面目な優等生タイプだというのは大半の生徒が知ってるから、色々な意味でが風紀委員長になれば校内に睨みが効き、1年生女子の生徒会長を軽んじる人はいなくなる。

 その広内金先輩は雄信内おのっぷない先生と一緒に職員室へ来たが、自身が呼び出された理由が「次期風紀委員長をやってくれ」だったから、当然の如く顎が外れるんじゃあないかという顔をしていたけど、紅葉山先輩の言ったとおり二つ返事で引き受けてくれたから、青葉あおばが膝におでこがくっつくんじゃあないかってくらいに頭を下げて礼を言っていた。

 これで青葉を会長、恵比島えびしま先輩を副会長、広内金先輩を副会長兼風紀委員長とする次期生徒会執行部の候補者が出そろった訳だ。残る会計と書記の任命権は生徒会長が持ってるから、次期生徒会長が任命して職員会議が承認するだけだが、既に青葉は会計を虎杖浜こじょうはま先輩、書記を俺にする事をこの場で明言していて、残る1人は正式に会長に決まった時点で任命するという事になった。

 ただ、青葉は本音では生徒会長を引き受けたくなかったようで、学校からの帰り道で「どうせなら史上初の生徒会長の不信任者になった方が楽かも」「華苗穂先輩が風紀委員長をやるって知ったら誰も私を会長にしたいと思わないはずだよね」と冗談とも本気とも取れない発言をマジ顔で話していた。


 週明けの月曜日の昼休み、次期生徒会長選挙が公示され、同時に立候補者が掲示板に貼りだされた。

『会長候補者 1年2組 串内くしない青葉』

『副会長候補者 2年3組 恵比島八雲やくも

『副会長兼風紀委員長候補者 2年3組 広内金華苗穂』

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