第102話 青葉、会長になる②~何度もため息~
「はあ?
「うん・・・
ここで信号が青に変わったので俺も青葉も道路を渡り始めた。12月のこの時期は午後4時を過ぎれば暗い。今はもう完全な夜であり外灯や車のライトが辺りを照らしている状況だ
俺と青葉は横断歩道を渡り終わったところで再び話し始めた。
「・・・でも、青葉は児童会役員も生徒会役員をやってないんだろ?」
「うん・・・まあ、小学校も中学校も
「たしかにあいつは目立ちたがり屋で同時に人を使うのが上手い奴だった。それに青葉はずうっと剣道と柔道をやってたから副会長とか書記の話が来ても毎回辞退してたから、今までやってなかった。大中山は公立の
「それなんだけど・・・生徒会長選挙に自分から立候補した人がいなかったから職員会議で推薦者を出して信任投票するのはよくあるパターンなので全然問題じゃあないけど、蘭先生の話だと、元々は職員会議では2年3組の
「へ?・・・たしか恵比島先輩は普通科所属だけど、成績はトップ10の常連で弁論をさせたら校内で右に出る人はいないとも言われてる人だろ?」
「うん、その話は私も耳にした事があるわよ。普通に考えれば生徒会長にうってつけの人物だよね」
「じゃあ、何で辞退したんだ?」
「うーん、それは私も
「どうして?」
「恵比島先輩って、校長先生の孫なんだってね」
「マジかよ!?」
「うん。この学校の生徒会は伝統的に自治意識が強くて、職員会議に対してもズケズケと意見を述べるほどでしょ?その生徒会のトップに校長の孫が就任したら、さすがに先生方が委縮しちゃうのが見え見えなのは私でも分かるわよ」
「たしかに・・・理事長の方針で親の肩書や地位で生徒を差別してはならないというのはあるけど、やっぱり影響力は無視できないのがあるからなあ。校長の孫が生徒会長では、先生方は校長の顔色を伺う事になりかねないから辞退したという恵比島先輩の気持ちが分からない訳じゃあない」
「あの校長先生が孫の事で他の先生方を威嚇するとは思えないけど、他の先生方から見たら相当やりにくいでしょうね」
「だろうな」
「だから恵比島先輩本人は『自分の上に誰か別の人物を置いてくれるなら副会長を引き受けるのは構わないけど、会長だけは勘弁してくれ』って言ってたらしいよ。だから、誰が会長になっても副会長は引き受けてくれるみたい。でも、後輩が会長になっても引き受けてくれるのかなあ」
「・・・3年生は年明けからは受験が本格的に始まるから校内行事にとやかく言わないけど、1月からは2年生主体になるから、普通は2年生の中から生徒会長を選ぶというのは俺にも分かる・・・」
「蘭先生の話だと、
「たった3回かよ!?」
「まあ、初年度は1年生しかいないから1年生が生徒会長なのは当たり前だけど、68年の間で3人だったら20年以上の間隔で一人って計算になるからレアケースもいいところね。しかも過去の1年生の生徒会長は全員男子だって・・・」
「それじゃあ、青葉は史上4人目の1年生の生徒会長で、初の1年生女子の生徒会長になるのか?」
「たいせー、私はまだ会長選への立候補を決めた訳でもないし、だいたい信任された訳でもないよ」
「それもそうだけど・・・」
「それに、仮に私が生徒会長になったら逆に先輩に軽んじられて睨みが効かなくなるのは大成にも分かるでしょ?」
「たしかにそれは言える。そうなると大物を風紀委員長に指名する必要があるけど、どうするんだ?」
「だーかーら、それを考えると頭が痛いからー、私としては『出来れば辞退させて欲しい』と何度も言ったけど、紅葉山先輩が『青葉ちゃんしかいなから引き受けて』って、しつこいくらいに説得するから、私も根負けした形になって『明日まで待って欲しい』って言って話を終わらせてきたの・・・」
「そうだったのか・・・」
それっきり青葉は何も話さなくなった。雪が降り続いているから青葉はコートのフードを被ったままなので俺は青葉の顔色を伺い知る事は出来ない。ただ、青葉が何度もため息をついている事だけは分かる。
そのまま俺と青葉はいつも通り『めでたい焼き』の前で別れ、それぞれの玄関に入った。その時も青葉は無言のままだったが、雪が強くなってきたので青葉の表情を伺う事は出来なかった。
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