第101話 青葉、会長になる①~実はさっき・・・~

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「・・・串内くしないさん、ちょっといいかしら?」

 昨年の12月になって間もなく、俺と青葉あおばは帰ろうとしていたところを1年2組担任、つまり俺と青葉の担任である中富なかとみ良野よしの先生に呼び止められた。

「はーい、何でしょうか?」

「ちょっと串内さんに相談したい事があるんだけど、一緒に職員室へ来てもらえる?」

 そう言われたから青葉は俺に「ちょっと行ってくるから少し待っててもらってもいい?」と言ってから中富先生と一緒に教室を出て行った。当然、俺は待ちぼうけを喰らう形になったから、暇潰しに当麻とうま将棋部の活動場所である3年3組の教室へ向かった。

 ジイの将棋の腕はたいした事ないけど、常紋じょうもん爺ちゃんはアマ名人戦の道代表にもなった事もある実力者で、アマ四段の免状を持っている。今でも毎年アマ名人戦やアマ竜王戦などの予選会に出場して上位に食い込むほどだ。俺は爺ちゃんに将棋を教わったけど、爺ちゃんとは本気で勝負しても5回に1回勝てればいい方だ。それは将棋部の部員と勝負しても同じで俺は部員のいいカモである。だから毎年のように高校生将棋選手権や高校生将棋竜王戦、高校生将棋王将戦などに出場している将棋部の連中や当麻から言わせれば「駒里こまさと大成たいせい最強伝説も将棋の世界では通じない」として逆に憎めないキャラとして俺は好意的に見られている。

 ただし、俺は当麻とは違って囲碁は『五目並べ』程度しか知らず、ルールすら分かってないのだから、囲碁部の連中は「囲碁のド素人相手に勝負して勝っても自慢にもならないからなあ」と言っていて、『』『』という扱いらしい。


 ついでに言えば俺は将棋部では『幸運を運ぶ神様』だ。


 俺と対戦してした状態で大会に出た連中は、全員が過去の記録を更新している。しかも今年は高校生将棋名人戦の道代表が初めて我が校から出たのだから、高校生将棋竜王戦や高校生将棋王将戦の予選前は、俺を強引に連れ出して勝負をする奴が続出して俺の方が迷惑していたくらいだ。でも、今日は予選前ではないから全員が気楽に指している。

 俺は青葉がすぐに戻ってくると思ってたから気楽に指していたけど、結局、青葉から「どこにいるの?」とメール入ったのは2時間近く経ってからだった。俺は「3年3組で将棋をやってる」と送信したら「すぐに行く」と返信が戻ってきた。


「・・・ゴメンゴメン、遅くなっちゃった」


 そう言って青葉が3年3組の部屋に入ってきたことで俺は将棋部の連中や当麻に手を振って一緒に部屋を出て行ったが、明らかに青葉の表情はいつもより暗かった。

 青葉は外に出るまで無言でいた。

 12月だから既に雪の季節で、俺と青葉は降り続く雪の中を並んで歩いている。今年の雪の訪れは遅い方で暖冬の予報になっているけど、冬型の気圧配置が強まって今冬一番の寒気が南下してくるから今週末にかけて纏まった雪が降って、日曜日の札幌は、この冬初めての真冬日(作者注釈:最高気温が零度を超えない=1日を通して氷点下の日)になるとの予報も出ている。

 朝は雪が降ってなかったけど午後になって降り始めた。でも、だんだん強くなっているから今夜から明日にかけて相当積もりそうだな。

 3年3組を出てから一言も喋らなかった青葉が、仁仁宇ににう駅前の交差点で信号待ちをしている時に初めて口を開いた。


「・・・たいせー、ちょっと話があるんだけどいいかなあ」

「・・・ん?どうした?」

「実はね、さっき、中富先生に呼ばれて職員室へ行ったでしょ?そこで『次の生徒会長をやって欲しい』って言われたんだよね」

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