第96話 大成、南先生に伝説の大技を掛けられる
俺と
これで俺は4つ目の「指導」を受けたから反則負けだ。つまり「1本負け」である。
このあっけない勝負の終わり方に拍手は全然起きなかった。いや、全員が「何があったんだ?」という顔をしている。ルールをよく知らないから余計に釈然としないのだろうが、とにかく俺が負けたという事だけは分かったようだから、全員が納得はしてないけど勝負が決したという事だけは分かって帰り始めた。
俺は石狩さんに右手を出して握手を求めようとしたが、石狩さんは茫然とした顔をしていて、右手をヨロヨロとした動作で差し出したので逆に困惑してしまった。しかも明らかに焦点があってないから動揺しているのが丸わかりだ。
主審の南先生の周りには副審担当の
まあ、南先生が青葉に言った言葉は容易に想像出来るけどね。恐らく「
南先生は俺のところへ来ると
「あーあ、何か釈然としない結末だったけど仕方ないわよねー」
と言ってニコッと微笑んだ。俺も苦笑いしながら
「まあ、仕方ないです。結果は素直に受け入れます」
「そうして頂戴ねー。でもねえ、最後は『どうやって攻めればいい』のか分からなくて困ってたんじゃあないの?それともヤジがうるさくて冷静に試合することが出来なかったの?」
「・・・まあ、両方ですね。それは認めますよ」
「そんなにセクハラ認定されて困ってた?」
「そりゃあそうでしょ?襟をどーのこーのだけじゃあなく、相手を押し倒すような『
「はー・・・駒里君!」
「はいい!?」
「ちゃあんと受け身を取りなさいよ」
「はあ?」
「だーかーら、ちゃんと受け身を取りなさいよ」
「意味が良く分からないけど、受け身を取ればいいんですよね」
「そういう事です!」
その言葉を言った瞬間、いきなり南先生は俺に素早く近づいてきて体を寄せたかと思うと右手で右襟を内側から取り、左手で俺の右袖を取った。そのまま釣り手と引き手を効かせて俺を釣り上げ、前隅へ崩したかと思うとその瞬間に両手を効かせて俺の体制を崩しつつ、体を左に開いて足を踏み込んだ。後ろ足で自分のふくらはぎを俺の足首にあて、一気に払い上げた!
俺は一瞬、何が起きたのか分からず、あっという間に宙に舞ったけど、事前に南先生から忠告されていたから何とか受け身だけは取る事が出来た。
もう半分くらいしか残ってなかった柔道場では、この瞬間を見ていた人はその中のまた半分くらいにしか満たなかったはずだ。だけど、この投げ技を見ていた人は一斉に「おお!」と感嘆の声を上げた。
浜中先輩も筬島先輩も、それに青葉も目を丸くしているし、それは石狩さんも同じだ。
「い、今・・・俺にかけたこの技は・・・たしか伝説の大技の・・・や・・・」
「そう、あの
「「「「マジですかあ!?」」」」
「そうよー。姿三四郎は小説上の架空の人物だけど、三四郎のモデルになった人物は実在した柔道家だし、彼が編み出した技の『
「南先生の言う通りだぞー。俺も投げられた時に気付いたけど、ジイでもここまで完璧な『
「へえー、大成でも面食らう事があるんだねー」
「あったり前だあ!それより青葉、お前は知らなかったのか?」
「正直に言うけど、私、初めて見たよお」
「あたしも初めて見た」
「わたしもよ」
「ま、柔道三段ですから使いこなせて当然ですかねえ」
「勘弁してくださいよお。事前に忠告されてたから受け身が取れましたけど、いきなり仕掛けないでください。マジで俺も最初は何が起きたのか全然分からなかったですよ」
「あー、それはちょっと謝るわー。でもねえー、駒里君は
それだけ言うと南先生は澄ましたような顔で青葉の方を向いたけど、明らかに最後の言葉は俺と青葉に向かって言った言葉だというのが丸わかりだ。青葉は照れ笑いしてたけど、浜中先輩と筬島先輩は「やれやれ」と言った表情で両手を開いて肩を少しだけ上げた。
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