第88話 大成、昼休みに女子生徒から『勝負』を申し込まれる

 時間は進んで昼休み。


 青葉あおばはというと午前の授業はピリピリしていて、周りもそれに気付いていたのか誰も青葉の近くに寄ってこなかった。俺はというと「今になってあーだこーだ言っても始まらない」と腹をくくってたから逆に堂々としていた(つもりです)。

 そんな青葉がため息をつきながら食堂へ行き、何故か今日に限ってはA定食ではなくB定食を選んで、いつもの四人組でテーブルを囲んでいた。

「あおばー、元気だせよー」

「はあ?私が落ち込んでるとでもいいたいの?朝から元気モリモリだよ」

「そうじゃあなくて、午前の授業は何回ため息をついてたんだ?俺は逆に気になって授業に集中出来なかったぞ」

「おれのところにまで聞こえてくるんだから、周りの迷惑になってる事に気付いてくれよなあ。マジで気になって仕方なかったぞ」

「あー、当麻とうま大成たいせい君もそう思った?わたしも青葉ちゃんにしては珍しいなあと思ってたわよ。もしかして『アレ』の日?」

「こんなところでそんな話を持ち出さない頂戴!だいたい、今日は『アレ』の日ではありません!」

「あー、ゴメンゴメン。ちょっと揶揄ってみたくなっただけ」

「ったくー、双葉ふたばちゃんは呑気でいいわよね」

 青葉はそう言うと、今日何度目か分からないくらいのため息をついた。やれやれ、今日の午後はもっと憂鬱になってため息が増えるんだろうな・・・どうみてもイライラしてるのが丸わかりだ。恐らく、当麻や双葉さんも俺と同じ考えのはずだ。さっきの会話がそれを証明している。


 あれ?


 あそこにいるのは石狩いしかり先輩の妹の石狩太美ふとみさんだ・・・しかも相当血相を変えてるけど、一体、何があったんだ?キョロキョロ周囲を見渡してるし・・・何があったんだ?

 その石狩太美さんと俺は目があった。

 その瞬間、石狩さんは何を思ったのか速足で俺たちがいるテーブルのところまでやってきて、そのまま両手を高々と上げたかと思うと


『バーーーーン!』


 いきなり両手を勢いよくテーブルに叩きつけたから、俺たち4人だけでなく周囲にいた全ての連中がこのテーブルに集中した。コップが倒れたけど幸いにして全員食べ終わってから被害はなくて良かったけど、一体、何があったんだあ!?

 その石狩さんが殺気立った目をしながら


駒里こまさと大成!勝負だあ!!」


 いきなり食堂中に響き渡る大声を上げたから周囲にいた連中が一斉に黙ってしまい、食堂の中を沈黙が支配した。

 俺は唖然として言葉に窮したけど、青葉の方はイライラがピークに達していたのか明らかにキレた顔をして立ち上がった。

「ちょ、ちょっと待ちなさい!生徒会長として質問しますけど、大成と勝負するってどういう意味なの?答えなさい!」

「会長は黙ってろ!あたしは駒里大成に用事があるんだ!」

「『黙っていろ』とは何事ですか!食堂で騒ぎを起こす事は校則で禁じられていますから、これを生徒会長として見逃す訳にはいきません!」

「騒ぎを起こす気はない!あくまで駒里大成にを申し込んだだけだあ!!」

「大成に勝負を申し込むってどういう意味なのか全然分かりません!とにかく説明しなさい」

「お前には関係ない!駒里大成のの分際のくせに生意気だあ!!」

「『金魚の糞』とは何事ですか!そっちこそ生徒会長に向かって無礼この上ない暴言です!!」

「なんだと!」

 とうとうこの二人は意味不明の口論を始めた。それに、今にも殴り掛かりそうなくらいに顔を近づけている。周りもビビって逃げ腰だし、実際、当麻と双葉ちゃんは顔を真っ青にして引き攣ってる。

「と、とにかく青葉も石狩さんも落ち着いて下さい!」

 俺はそう言って無理矢理二人の間に割って入って距離を遠ざけた。青葉の方は不満だったようだが生徒会長という立場もあるから黙って引き下がって席に座った。

 石狩さんもさっきまで興奮状態だったけど少し落ち着いてくれたみたいだ。俺は改めて石狩さんの方を向いて、出来るだけ冷静に話し掛けた。


「と、とにかく『勝負』の意味を俺に教えて下さい。俺だって意味不明だから答えようがないですよ」

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