第87話 大成、不機嫌になった青葉に少しだけど同情する

 『東西南北とうざいなんぼくカルテット』とは、2年2組の4人組の事で、ひがし声問こえとい西にし北見きたみさん、みなみ小樽おたるきた美瑛みえさんの四人の苗字をつなげると東西南北になるので『東西南北カルテット』と呼ばれている。昨年は四人とも1年1組で、はま天塩てしおさんは俺や青葉あおばと同じ2組。今年は1組と2組が逆になったけど別々のクラスだというのは変わらなかった。

 浜と天塩さんは1年2組の時から『おバカ二人組コンビ』であったが、東西南北カルテットも1年1組では『おバカ四人組カルテット』として知られていて、事あるごとにこの6人は騒ぎ出して、時には実にクダラナイ事で張り合ってお互いに「あいつらは馬鹿だ」と言い張る、特進科にあるまじき(?)連中だ。

「浜君、それに東君、一体、何の勝負をしていたの?」

 青葉が浜と東に聞いたけど、浜はシュンとしたまま「はー」と短くため息をついた後に東と互いに顔を見合わせ

「じ、実はさあ・・・」

「高校生のゲームプログラミングコンテスト用に作り上げた新作を、どっちが作り上げるかの権利を賭けてたんだ」

「「はあ!?」」

 当然だが浜と東が言ってる意味が分からないから俺と青葉は思わず互いの顔を見合わせてしまった。

 そんな俺と青葉を見て浜と東が再び「はー」と短いため息をついた後に

「・・・会長や駒里こまさとも知っての通り、おれたち6人はパソコン研究会、略してパソ研のメンバーだ」

「だけど、そのコンテスト向けの新作をデモした時に口論になって・・・」

「結局、東たちは石狩いしかり先輩が、おれと天塩さんは駒里が勝った時に新作を作り上げる事にして、負けた方は一から作り直す事にしたんだ」

「ちょ、ちょっと待ってよ、そんな事で争うなんて馬鹿だとは思わないの?私にはどう見ても目くじらを立てるような事に思えないわよ」

 青葉そう言うと、頭の上に『?』を2、3個つけたような表情で浜たちを交互に見たけど、浜と東はお互いに顔を見合わせて「はー」と短いため息をついた後、おもむろに

「・・・普通はそう思うかもしれないけど、この敗者は別の新作を1から作る事を意味するから、今までの苦労が無駄になる」

「知ってるとは思うけど、パソ研はゲーマーの集まりで・・・」

「部長の丸瀬布まるせっぷ先輩は『RPGロールプレイングゲームこそゲームの王様』だと言い張るRPG派の代表だけど、副部長の松前まつまえ先輩は『ACTアクションゲームこそがゲームの神髄』と言い張るACT派の代表だから、おれたちとしては校内代表選考作品をそれ以外の分野で勝負する事にして、新作を作り上げたんだけど・・・」

「途中の分岐点で大モメになって・・・」

 それだけ言うと浜も東もシュンとなった。他の4人も一緒だ。

 青葉は「はー」と短くため息をつくと

「あのさあ、せっかく一緒に作り上げたのに、どうして最後まで一緒にやらないの?今までの努力を無駄にしてまで自分たちの意見を通したいの?一体、何のゲームのどこで大モメになったの?言ってみなさい!」

 そう言うと青葉は厳しい目で6人を睨んだから全員がビビったけど、やむを得ずと言った感じで浜と東が互いの顔を見合わせた後

「・・・おれたちが作ってたのは恋愛シミュレーションゲームだ」

「「はあ!?」」

「それで、仮とはいえ作り上げた後のデモプレイの最中、一番肝心な分岐点のところで、おれと天塩さんはを選ぶべきだと主張したんだけど、東たちはを選ぶべきだと主張して口論になって、それで結局、このゲームを完成させる権利の争いに発展して、最終的に石狩先輩と駒里の勝負の賭けに負けた方はゲームの作成から降りて、1から別のゲームを作り直す事になったんだ」

「そういう事です・・・」

 おいおい、勘弁してくれよなあ。どう見たって「妹キャラで同級生の幼馴染」は青葉、「ツンデレでボクっ子の先輩の風紀委員長」は広内金ひろうちがね先輩を意識して作ったとしか思えないぞ。明らかにこの6人の態度がそれを証明してる!ゲームの中とはいえ、我が校の生徒会をモデルにして作り上げたとしか思えない内容じゃあないかあ!

 青葉もそれに気付いたらしく、顔を真っ赤にしながら

「と、とにかくそんなクダラナイ内容で争うのは止めなさい!これからも一緒に最後まで作りなさい!」

「えー、とは言っても既に6人で決めちゃったし・・・」

「私がルールブックです!」

「わ、分かりましたから、とにかくこの賭けは無かったという事にするよ。東もそれでいいよな」

「わ、分かった。分岐後のシナリオをお互いが完成させるという事でいいよな」

「お、おれはそれでいい」

 浜たちはそう言って頷き合ったから青葉も不承不承ではあるが引き下がり、この件はお終いとなって東西南北カルテットは1組を出て行った。

 浜と天塩さんも自分の席へ戻ろうとしたのだが・・・

「・・・浜君、天塩さん、ちょっといいかなあ」

 だが、青葉は納得がいかない事があるらしく、再び浜と天塩さんを呼び止めた格好になった。

 青葉はニコニコしているけど、あきらかに浜と天塩さんはビビっている。それもそのはずで青葉のコメカミがピクピクしてるからなあ。どう考えたって内心は怒ってるぞ。

「い、いいけど、まだ何かあるんですか?」

「わ、わたしの方は何も悪い事してないですよ、会長も分かりますよね」

「うーん、それは今後の返答次第だけど、さっき浜君が『全敗のくせに何を言いやがる』って言ったところが妙に引っかかるのよねえ」

「「!!!!! (・・; 」」

「という事はさあ、以前にもあの四人と賭けをして、いや、正確には大成たいせいと他の運動部との勝負を賭け事にしていて、それも今まで大成の勝ちに賭けていた浜君と天塩さんに対して東君たちは大成の負けに賭けていたって事だよねえ」

「「・・・・・ (^_^; 」」

「何を賭けていたかは知らないけど、浜君も天塩さんも相当甘い汁を吸っていたという事よねえ」

「「・・・・・ (^_^; 」」

「それが今回に限っては大成が自信ないって言ってるのを耳にしたから浜君も天塩さんも相当焦っていて、逆に東君たちは今までのうっ憤を晴らせるからニコニコしていたって事よねえ」

「「・・・・・ (^_^; 」」

「いい加減にしなさい!」

「「すみませんでしたあ!  m(__)m 」」

「はー・・・今までの賭けの内容を根掘り葉掘り聞き出す事はしないけど、今度こんな馬鹿馬鹿しい賭けをしたらパソ研の予算執行停止を提案するわよ」

「「かいちょー、それだけは勘弁してくださいよお」」

「じゃあ、真面目にコンテスト向けの作品を作り上げなさい。コンテストに優勝できれば来年度予算の増額を勝ち取る事も可能になるんだからさあ」

「「分かりましたから、その意味深なニコニコ顔だけは勘弁してくださーい」」

「じゃあ、この話はこれでお終い!以上!!」

「「失礼しましたー」」

 それだけ言うと浜も天塩さんもコソコソと自分の席へ戻って行ったけど、青葉は再びため息をつきながら

「ったくー、ホントに大成と石狩先輩の試合を何だと思ってるのよお!『勝手に賭けをするなあ!』って私が怒鳴りたいいくらいよー」

 そう言って自分の席にドカッと座ると、その後は不機嫌さを隠そうともしなかった。

 まあ、仕方ないな。青葉にとってはらん先生とみなみ先生の賭けも、鬼峠おにとうげ先生と鬼鹿おにしか先生、通称『鬼鬼コンビ』の賭けも、『東西南北カルテット』と浜たちの賭けも、見方を変えれば『俺と石狩先輩のどっちとデートするのか』を周りが面白半分に賭けの対象にしているって事と同じだから、青葉から見れば面白くないのも事実だし不機嫌になるのも無理ないよなあ。

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