第86話 大成、教室へ行ったら血相を変えた二人の生徒に詰め寄られる

「「行ってきまーす」」


 今日も俺と青葉あおばは二人で登校だ。先週の金曜日はかえでが日直だったが今日はみどりが日直だ。

 それが理由なのか知らないが、今日は二人とも先に行くと言ってたから俺と青葉しかいないけど、緑は俺が青葉の家へ行く時に

「今日は青葉ちゃんとデートしながら登校してくる事を許可してやるから有難く思え」

と皮肉たっぷりに言ってたなあ。もちろん、顔は笑ってたけど。楓はいつも通りのノホホンとした表情だったから何を考えているのか全然分からなかった。

 今朝の青葉は心なしか緊張しているように見えるのは気のせいか?いつものような元気が感じられない。それは他の人も同じように感じるらしく、青葉に会う人のほぼ全員が青葉の顔を覗き込んで『?』という表情をしている。青葉自身はそれに気付いてないらしく、本人は普通に歩いてるつもりみたいだ。

 なんとなくなだが生気のない挨拶をしていた青葉は俺と一緒に信号待ちで止まっていたけど、その道路の向こう側をいつものように(?)美利河ぴりかさんと美流渡みると君の『キラキラ姉弟』が競争しているかのように学校へ向かって速足で、時にはゆっくり歩いていた。だから信号が変わった時にはキラキラ姉弟は既にかなり前にいる状態だったから青葉が呼び止めるような事は当然しなかった。

 石狩いしかり兄妹もこの道を通るから見掛けた。でも、俺と青葉の方を振り向くような事もせずに歩いて行った。形の上では俺と青葉は二人に無視されたような恰好になったけど、もしかしたら向こうが気付かなかっただけかもしれないから特に何もしなかった。それにキラキラ姉弟よりも先を歩いていたから、信号が変わった時点ではかなり先に行ってたから呼び止めるような事もしなかった。周りも俺と石狩先輩のどっちにも声を掛けにくかったのか、かえって静まり返ったほどだ。

 そんな俺と青葉がいつも通り並んで2年1組のドアを開けて教室へ入った・・・のだが、教室へ入った瞬間

「こまさとー!お前、本当なのかあ!?」

「そうよそうよ、勘弁してよお」

 いきなり一組の男女が血相を変えて俺と青葉に詰め寄ってきた。そう、こんな事をするのははま天塩てしおさんしかいない。

「ちょ、ちょっと浜も天塩さんも落ち着け!」

「何を騒いでるの?」

「これが落ち着いていられるかあ!」

「落ち着いていられなーい!」

「「とにかく落ち着いてください!」」

 俺は仕方なく浜の両肩を押さえるような形で浜を落ち着かせ、青葉は天塩さんを宥めて、ようやく二人が落ち着いてくれた。

「浜、一体、何を騒いでたんだ?」

「あー、実は・・・放課後、駒里こまさとが石狩先輩と試合をする件なんだけど・・・」

「当然だけど、どっちが勝つのかっていう話題で持ち切りなのは駒里君も青葉ちゃんも知ってるわよね」

「おれも天塩さんも、当然だが駒里が今回も勝つと予想して・・・」

「それで、ついつい調子に乗っちゃって・・・」

「ところが、駒里が今回に限っては「自信ない」とか言ってるってみんな噂してたからさあ」

「わたしも正直、大失敗したなあって思ってね」

「「はーーーーー・・・・・」」

 おいおい、お前ら二人して何をため息をついてるんだ?それに俺も青葉も話の内容が全然分からないから首を傾げる事しか出来ないぞ!?

「あのー・・・天塩さん、一体、何を調子に乗ってたの?」

 俺は天塩さんに話し掛けたけど、天塩さんは浜と顔を見合わせた後にもう1回「はーーー・・・」と長~いため息をついて

「実はさあ・・・」

「やあやあ、これは浜厚真あつま君に天塩さかえさん、おはよう。今日は実にいい天気だねえ」

 いきなり後ろから声を掛けらたから、浜と天塩さんだけでなく俺と青葉もその声がした方を振り向いた。

 そこには赤いネクタイをした男子生徒と赤いリボンをした女子生徒が二人ずつ、合計4人が立っていて、しかも4人ともニコニコ顔だ。

「来たなー、しかも『東西南北とうざいなんぼくカルテット』揃い踏みで1組に何の用だ!」

「おー、これはこれは浜君、早くも降参ですかあ?」

「うるさいひがし!お前の場合は『負け犬の遠吠え』だろ?全敗のくせに何を言いやがる!」

「フン、今回に限っては君たちの負けだ。おとなしくオレたちに譲ってもらおう」

「まだ勝負がついた訳じゃあないぞ、勝手に決めるなあ!」

「まあまあ、どうせ今日は・・・あー、いや、本人の前で言うのは失礼だからやめておくよ」

「フン!強がっていられるのも今のうちだあ」

「強がってるのはお前たちの方だ」

「言わせておけばいい気になりやがって」

 とうとう浜と天塩さんは4人組と睨み合いになったから、キレた青葉が「双方ともやめなさい!」と雷を落としたのでようやく大人しくなり、浜や天塩さんだけでなく、その『東西南北カルテット』と呼ばれた4人組もシュンとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る