第84話 大成、青葉とのデートの約束を取り付けたけど妹2人から軽蔑される
結局、俺と
既にかなり暗くなっているから俺の右側を歩いてる青葉の表情を伺い知るのは難しい。それに少々うつむき加減だから、明らかにいつもよりテンションが低いというのだけは分かる。
俺は何か青葉に話し掛け辛くて無言で歩いていたけど、ふと青葉が顔を上げて
「・・・たいせー、ホントに来週の月曜日は大丈夫なの?」
「・・・正直に言うけど、
「そんなあ。私、デートなんてやった事ないから不安だよお」
「そんな事を言われたってさあ」
「でもさあ、何で今頃になって石狩先輩はあんな事を言い出したのかしら?」
「言われてみればそうだよなあ・・・たしか、石狩先輩には彼女がいた筈だけど・・・」
「うん、たしかにそんな噂を聞いた事があるわ。誰なのかは私も定かではないけどね」
「もしかして、何かの理由で別れたから青葉狙いに切り替えたのかも」
「それはあり得るわ。でもさあ、いくら彼女と別れたからと言って正直勘弁して欲しいわ」
「まあ、その気持ちが分からない訳でもない・・・」
そう言って俺は再び前を向いて歩き続けた。
たしかに青葉がボヤく気持ちが分からない訳でもない。俺だって青葉が石狩先輩とデートしているところを想像すると無性に腹が立つのは事実だ。青葉が幼馴染であったとしても妹であったとしてもだ。でも、そんな事を口に出して言うのは失礼だと思って、ずうっと黙っているのも事実だ。
俺たち二人はめでたい焼きの前まで来たけど、普段通りならそのまま青葉の家の玄関前まで一緒に行って、お互いに無言で軽く手を上げた後は青葉は玄関を開けて家に入り、俺も塀をヒョイと跨いで自分の家の敷地へ無言で入るのだが・・・いつもと違って青葉は右手を上げることをしないで俺の方を向いたかと思ったら
「・・・たいせー、ちょっといいかなあ」
「ん?何だ?」
「・・・仮定の話だけど、もし
「その『完膚なきまで』というのは厳しいけど、励みになるのは事実だぞ」
「そ、それじゃあ・・・もし大成が勝ったら・・・」
「勝ったら?」
「そ、その・・・」
「おい、ハッキリ言えよ。何なのか分からないぞ。それに御褒美の内容によっては俺は勇気百倍どころか千倍になるかもしれないぞ」
「・・・・・」
青葉は黙って俺の方を見てるけど、何か言いたそうだけど中々言えずに口ごもってる感じだ。
やがて一度だけ俯いたかと思ったら急に顔を上げて、しかも超がつくほど真面目な顔になって
「もし勝ったらデートしてあげる」
「はあ!?」
「ちょ、ちょっと何よー、その間抜けな反応はさあ」
「い、いやスマン・・・想定外の反応だったから・・・」
「ま、まあいいわ。と、とにかく、石狩先輩とデートするくらいなら大成とデートした方がマシよ!だからデートしてあげるわ」
「おいおい、消極的な理由かよ」
「と、とにかく大成は単なる幼馴染なんだから、それでありながら
「分かったよ。とにかく青葉は紛れもなく清風山高校自慢の美少女ナンバー1なのは事実なんだから、その子がデートしてもいいって言ってくれたのは俺にとって勇気百倍どころか勇気百万倍に等しいからな」
「じゃあ、ぜーったいに負けないでよ」
「ああ。とにかく全力を尽くす。使える技、使える物は全て使って石狩先輩を倒す。たとえ石狩先輩を壊す事になっても青葉を石狩先輩とデートさせない」
「たいせー、期待してるわよ」
そう言うと青葉は今まで俺に見せた事もないような飛びっきりの笑顔を俺に見せて、そのまま右手を軽く上げてから家の玄関を開け、いつも以上の大きな声で「たっだいまー!」と言って入って行った。
俺はというと、そんな青葉を見送った後はいつも通りヒョイと塀を跨いで・・・とはいかず、いきなり塀に足を引っ掛けて危うく転びそうになった。
玄関を静かに開けて「ただいまー」と言ってから、いつも通りリビングに行ったけど、リビングに行ったらテレビを見ていた
楓の方はいつも通りのノホホンとした表情だけど緑の方はツンとした表情で
「兄貴、遅いぞ!」
「あー、スマン。今日は道場へ行かなくてもいい日だったから頑張って生徒会の仕事を区切りのいいところまで片づけてきた」
「そ、そうか、それなら仕方ないなあ、ウンウン」
そう言って緑はツンとした表情からニコニコ顔になった。やれやれ、相変わらず気難しい年頃だな。
だけど、楓のノホホンとした表情が急にニヤケた表情になって
「お兄ちゃんさあ、なーんかおかしくないかなあ」
「はあ?何がおかしいんだ?」
「だってさあ、いつもなら相当ぶっきらぼうなのに、今日は顔がにやけてるよー」
「そ、そんな事はないぞ!普段通りだ」
「もしかしてさあ、学校で『大成さーん、月曜日の試合、頑張ってくださいねー』とか沢山の女の子から言われて浮かれてるんじゃあないのー?」
「なにい!兄貴!剣道に続いて柔道の試合をする事になったのは、そういう
「緑、落ち着け!そんな邪な理由で試合をする訳ないだろ?」
「じゃあ何か、兄貴は青葉ちゃんとのデートの約束でも取り付けたのか?」
「!!!!! (・・;) 」
「「あー!顔色が変わったあ!!」」
「そ、そんな事はない!急に想定外の事を言われて逆に気が動転しただけだ!」
「うそだー!あんなデレデレ顔で焦りまくりの兄貴を見た事は一度もなーい!」
「俺はデレデレなんかしてなーい!」
「あたしらに本当の事を言われたからムキになって反論してるとしか思えない慌てぶりだぞ!」
「そうだよー、素直に『青葉ちゃんとデートする』って約束したと認めなさいよねー」
「だーかーら、マジで勝手な妄想で盛り上がるな!」
「勝手に盛り上がってるのは兄貴の方だあ!」
「勘弁してくれよお」
結局、俺は楓と緑の前であーだこーだと言葉を並べて、何とか二人を宥め、遅い夕飯を食べる事になった。
だが、緑が「相手が青葉ちゃんであろうとなかろうと、兄貴の分際でデートするなど論外だあ」などと言い張り、最後には「兄貴が変な行動を起こさないよう、明日と明後日は兄貴を監視してやる」とか言って、楓も楓でノホホンとしながら「みどりーん、おにいちゃんの事はまかせたわよー」と言いながらも俺に軽蔑の眼を見せるのだけは忘れなかった。
結局、土曜日は朝から緑が宣言通り
翌日曜日。
緑は朝ご飯を食べた直後、いきなり
「兄貴、数学の参考書が欲しいから伊勢国書店まで付き合え」
「はあ?」
「問答無用!」
とかキレ気味に言い出し、有無を言わさず俺を伊勢国書店まで同行させた。
しかも楓が
「みどりーん、お兄ちゃんは任せたわよー」
とか言って昨日に引き続き軽蔑の眼で俺を見送ったのは言うまでもなかった。
しかも・・・緑の奴、たった1冊の参考書を選ぶのに昼食のWcDを挟んで8時間(!)も俺に付き合わせやがって、迷惑この上なかった。
そのWcDの支払いも
「当然、兄貴が払うのは当たり前だ」
とか言って自分は1円も出さなかったし、俺の向かいに座ってニコニコしながら食べていた。しかもWcDを出る時に
因みに青葉はというと、俺と緑が出掛ける時にたまたま見掛けたけど「あらー、お出かけなのー?兄妹仲良くいってらっしゃーい」とか言ったかと思うと一人で出掛けていった。おいおい、お前、明日の事が全然気にならないのかよ!?
それに、緑が8時間(!)掛けて選んだ参考書を買った直後に楓が俺のスマホにメールを入れてきた。その内容というのが・・・
『帰りにマイスドでドーナツを4つ買ってきてね。勿論、お兄ちゃんの奢りで。追伸:買ってこなかったら、お母さんにデートの件を話します』
おいおい、このメールを見た途端、俺は寒気に襲われたぞ。しかも緑がこのメールを見て
「あたしの分も4つ買え。当然、兄貴が払え」
「はあ?」
「あ・に・き・が・は・ら・え」
「・・・・・」
結局、緑に凄まれた俺は合計で8個もドーナツを自腹で買わされるハメになった。とほほ・・・
帰ったら帰ったで楓が開口一番にノホホンとした表情で
「お兄ちゃーん、ドーナツは?」
「ああ、買ってきたぞ」
「じゃあー、見せてー」
「あいよー」
そう言って俺は自分が持っていたマイスドのドーナツが入った袋の口を開けて楓に見せたのだが・・・その瞬間、表情が変わった!
「お兄ちゃん・・・ウチの好きなオールファッション、1個しか入ってないんだけど・・・」
楓が普段のノホホンとした表情からは想像できないくらい不機嫌な表情を隠す事なく「フン!」と言わんばかりの勢いで俺の手から奪うようにして持って行ったから、マジで背中に冷たい物が走った。まあ、緑が自分からオールファッションと楓のフレンチルーラーの交換を申し出てくれたから楓も機嫌を直してくれたけどね。
でも、逆に緑には「これは貸しにしておくからな」と凄まれた・・・
とまあ、なんだかんだで楓と緑に振り回された週末も終わり、とうとう日曜日の夜になった。
いわば、青葉とのデートを賭けた俺と石狩先輩の試合まで24時間を既に切った。今さらあーだこーだ言ってもどうしようもない、後は柔道のルールの中で全力を出して青葉とのデートを勝ち取るだけだ。
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