第83話 大成、青葉と共に職員室で南先生と話をする

 今日は駒里こまさと武道館での練習が無いから、珍しく金曜日なのに遅くまで生徒会室で準備作業をしていた。

 恵比島えびしま先輩は言いたい事が山ほどあったみたいだけど、愚痴一つ言わずに黙々と清風祭せいふうさいの準備作業をしてくれた。まあ、恵比島先輩は清風祭実行委員長でもあるから、青葉あおばは基本的に清風祭の件を恵比島先輩に任せて、自分は虎杖浜こじょうはま先輩と俺と三人で生徒総会の準備作業に忙しかった。美利河ぴりかさんはずっと恵比島先輩の助手の形で清風祭の準備作業に付きっ切りだったけど、広内金ひろうちがね先輩は風紀委員としての仕事があるから最初の10分ほどでいなくなり、結局、最後まで戻ってくる事はなかったから、恒例となっている恵比島先輩との夫婦めおと漫才まんざい(?)は今日は聞けず終いだった。

 ある意味、今日はであった。

 4月なのでかなり昼間の時間が長くなってるけど、それでも暗くなるまで頑張ったので生徒総会の準備作業だけは何とか終わらせる事が出来た。あとは来週金曜日の生徒総会そのものを無難に終わらせる事が出来れば、清風祭に集中する事が出来るはずだ。

 青葉が今日の仕事の終了を宣言した直後に、広内金先輩から青葉のスマホに「風紀委員会の方は終わったけど、そっちはまだやってる?」と電話が入ったけど、青葉が「丁度終わったところだよ」と答えたから、広内金先輩はそのまま生徒会室に寄らずに帰った。恵比島先輩と虎杖浜先輩、美利河さんはそのまま帰ったけど、俺と青葉は鍵を返すために職員室へ行った。


「「失礼しまーす」」


 さすがに遅い時間だから先生方は帰っているはず・・・と思ったけど、まだ残ってる先生がいる!いや、既に帰り支度をしていたがみなみ先生が一人でコーヒーカップを片手にくつろいでいるところだった。他にも2人ほど残っている先生がいたけど既に帰り支度は済ませている。

「南せんせー」

「あら?串内くしないさんに駒里君ですよね。結構遅くまで頑張っていたみたいですね」

「あー、はい。遅れていた生徒総会のパンフレットの原稿を完成する事が出来たので、終わりにする事にしました」

「そうなんですかー、わたしは生徒会というものは小学校から高校まで一度もやった事がないから全然分からないけどー、結構大変なんでしょうねー」

「そういう南先生もこんな遅くまで大変ですね」

「まあ、1年目ですから慣れない事も多くて大変なのは認めますよ。でも、これ1杯飲んだら帰るわ」

「お疲れ様です」

 そう言うと青葉は生徒会室の鍵をらん先生の机の上にある小箱の中に入れた。

 南先生はニコッとして見ていたけど、そのまま俺の方を向いて

「そういえば駒里君、今度は柔道部と試合をするんですってねえ」

「あー、既に南先生も御存知でしたか」

「先生方の間でも話題持ちきりよー。どっちが勝つかっていう話になって結構盛り上がってたのよー」

「へえ。因みに南先生はどっちが勝つって予想してるんですか?」

「正直に言いますけど、わたしは石狩いしかり君ね。だけど東室ひがしむろ先生は担任として駒里君に勝って欲しいみたいですよー」

「はーー・・・今回の試合は正直に言いますけど、俺、自信ないですよ」

「あらあらー、剣道部のエース二人をたった一人でボコボコにした駒里君がここまで弱気だとは思わなかったわよー。東室先生の泣き顔が目に浮かびますねえ」

「あれー?南先生、私の目には嬉しそうな顔してるように見えますけど何かあったんですかあ?」

「うーん・・・実はですねえ、今度、東室先生と二人でチョコレートキングダムに行ってケーキバイキングを食べようっていう話を以前からしてたんだけど、来週の日曜日、賭けに負けた方が二人分を負担するっていう約束で食べに行く事になったのよー」

「ちょ、ちょっと南先生!俺の試合をそんな事の為に使わないでください!!」

「まあ、そこは大目に見てね。正直に言うけど目名めな君や浜中はまなかさんからコッソリ情報を集めて石狩君を選択したんだけど、東室先生は絶対に駒里君が勝つって言い張ったから、『それじゃあケーキバイキングをどっちが払うかを試合の結果で決めよう』っていう話になったのよねー」

「じゃあ、逆に言えば目名先輩も浜中先輩も、今回は大成たいせいが負けると見てるって事ですよねえ」

「そういう事よ。駒里君は柔道部に所属していないけど合同練習では清風山せいふうざん高校のメンバーとして参加してるんでしょ?それを間近で見ている二人が揃って『石狩君の勝ち』って断言したからね。しかも即答よ。東室先生には申し訳ないけどタダでケーキバイキングを食べさせてもらうつもりよ」

「はーーー・・・負けたら蘭先生に『こまさとー!罰としてお前だけ国語の課題を一週間2倍、いや3倍にするぞ!』とか言われそうで頭が痛いぞ。あれでいて結構守銭奴だからなあ・・・とほほ」

「たいせいー、元気出しなさいよお」

「そうよ、まだ決まった訳じゃあないわ」

「南先生、因みに他の先生はどう思ってるんですか?私としては大成に勝って欲しいんですけど」

「そうねえ、2:1の割合で石狩君優勢よ」

「そうなんですか・・・」

「あー、そう言えば鬼峠おにとうげ先生と鬼鹿おにしか先生も賭けをしてましたよお」

「はあ?あの鬼鬼コンビがどんな賭けをしてたんですかあ!?」

「石狩君が勝ったら柔道部、駒里君が勝ったら剣道部が駒里君をもらい受けるってね」

「勘弁してくださいよお。だいたい剣道部は今でも週6日練習なんだから俺を加入させる事は出来ないですよ」

「あー、それがね、来月から土日休みにするって校長先生に申請を上げて既に部員にも通達したんですって。しかも鬼鹿先生は昨日はハルニレ高校へ直接出向いて駒里武道館での合同練習をまとめ上げてきたみたいよー」

「「マジですかあ!?」」

「恐らく駒里余市よいち理事が根回しをしてくれたんでしょうけど、具体的なやり方とかは今月中に煮詰めるそうですよー」

「はー・・・という事は名目上は柔道部と同じ週4日練習が確定って事ですね」

「それでー、今日はこれから日本海大学付属高校の顧問の先生と飲み会だとか言って1時間以上も前に帰りましたよー」

「多分、『柔道部と同じように駒里武道館で清風山高校とハルニレ高校との合同練習をしよう』ってビールでも飲みながら話をしてくるつもりなんだろうな」

「恐らくね。合同練習は自由参加だから義務はないけど、女子柔道部の場合は全員が参加してるわよねー。参加を強制したら自主練習から外れて活動日に認定されるしー、だいたい保護者から訴えられて顧問が懲戒処分の対象になっちゃうから出来ないけど実際には全員が参加してるわねー。まあ、練習が終わった後の方が楽しみで参加してる子も結構いるみたいだからねー」

「あー、それ、私も知ってるわよ。実際、副部長の筬島おさしま先輩の彼氏はこの合同練習がきっかけで知り合ったハルニレ高校の人ですから」

「その話はわたしも聞いた事があるわよー。うちの学校の男子生徒は女子柔道部の事を『脳筋女の集団』とか平然と言ってくる子がいるから、みんな結構怒ってるって聞いたわよー。だから自主練習に参加してるって感じかしら?」

「うわー、私、そうなってるなんて全然知らなかったわ」

「この合同練習だと、『可愛いから』という理由以上に『強いから』という純粋に女子アスリートとして男の子に注目されるから、みーんな余計に頑張っちゃうみたですよー」

「言われてみれば、毎回みんな練習中も相当気合が入ってるわよねー」

「まあ、実際には串内さんが3校の女子の中で断然の一番人気みたいですけど、どの学校の男子部員も『高嶺の花』だって諦めてるみたいですよー」

「へ?・・・高嶺の花・・・ですか?意味不明・・・」

「『強力なボディーガードがいるから絶対に手が出せない』という意味ですよ」

「南せんせいー、ひょっとして俺の事ですかあ!?」

「そういう事ですよー。うちの学校の男子部員が他の学校の男子部員に『あの子だけは絶対に手を出すな、呪いが降りかかる』って、ため息混じりで言いまくってるようだから他の2校でも駒里君は超有名人みたいですよお」

「勘弁してくださいよお。そういう形で有名人になりたくないですから」

「たいせー、気を落とさないでよお」

「はーーー・・・」

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