第80話 大成、『試合』を申し込まれる

 時間は進み放課後・・・


 俺と青葉あおばは並んで生徒会室へ入ったけど、虎杖浜こじょうはま先輩と美利河ぴりかさんは来ていたけど恵比島えびしま先輩と広内金ひろうちがね先輩は来てなかった。

「あれ?恵比島先輩と広内金先輩は?」

「うーん、それが二人共まだ来ないんだ」

「珍しいですね、お二人が揃って顔を見せないなんて」

「虎杖浜先輩、もしかして今日は風邪で学校を休んだとか・・・」

「そんな事ないですよ、どちらも間違いなく昼休みに校内で見てますから」

「まあ、取り敢えず、やれる物はどんどん進めましょう」

 そう、俺たちには生徒総会の準備作業以外にもやらなければならない事は色々ある。生徒総会の次は清風祭せいふうさい、つまり学園祭の第一回実行委員会もある。そちらの作業も並行して進めていて、虎杖浜先輩は結構忙しい。

 清風祭は7月の第一週目の週末に行われるけど、その第一回実行委員会は5月の連休明けに行われる。事前に職員会議との擦り合わせせもやらないといけないし、毎年恒例ではあるが関係業者や関係団体への連絡、それに兄弟校との相互訪問の確認もしないといけない。特に会長である青葉は6月は全ての週末は生徒会行事で潰れると言っても過言ではないのだ。


“バターン”


 ここで少々乱暴気味に生徒会室の扉が開けられた。扉を開けたのは・・・あれ?石狩いしかり先輩だ。それにその後ろには広内金先輩と恵比島先輩もいる。

 石狩先輩はにこやかな表情のままだけど、広内金先輩は少し引き攣ったような顔、どちらかと言えば苦笑いしているように感じるし、恵比島先輩は不機嫌そうな顔を隠そうともしない。

 一体、何があったんだ?だからそれまで和気あいあいと仕事をしていた俺と青葉、虎杖浜先輩、美利河さんの手が止まった。

 石狩先輩は俺の前まで来ると、そのにこやかな表情が変わった。そう、だ。俺も緊張感が一気に高まった。

駒里こまさと君、ちょっといいかなあ」

「あー、はい、何でしょうか?」

「君に試合を申し込む」

「はあ?」

 俺は思わず間抜けな声を上げてしまったし、青葉や虎杖浜先輩、美利河さんも何の事なのか分からず、俺と同じような顔をしている。でも、こんな時でも広内金先輩と恵比島先輩の表情はこの部屋に入ってきた時と全然変わってない・・・ますます意味不明だ。

「うーん、何か意味を理解してくれてないようだけど、駒里君との試合を申し込む」

「い、石狩先輩!ちょっと待ってくださいよお、いきなり試合と言われても意味不明です!」

「君や会長の脳内では『。その後に駒里君に話をする』だろうけど、それをやると我が男子柔道部に災いが降りかかる。だから君に先に声を掛けた」

「「「「!!!!!  (・・!)」」」」」

「過去の例を持ち出すなら、会長が『あなたが大成たいせいに勝ったらその条件を飲んでもいいわよ』とか『あなたが大成に勝てたら考えてもいいわよー』などと言いだすというのは。あー、勿論それはここにいる生徒会メンバー全員も同じ考えのはずだ。だが、ここにいる全員が知っているとおり、君に挑んで勝った人は誰一人としていない!その後に待っているのは君も知っての通り、まさにだ」

「・・・・・」

「このを受けずに済む方法をおれは考えた。その条件は2つ。1つは会長を無視して駒里君に直接話す事だ。もう1つは決して『し・・・』あー、いや、この言葉を使うとが降りかかるのが分かっているから、これは究極のNGワードだ。だから君に『試合』を申し込む。これでおれがやった事の意味が分かったかな?」

「意味は分かりました。けど、まさかとは思いますが、石狩先輩が俺に勝った時には・・・」

「そりゃあ決まってるだろ?

 やっぱりそう来たか・・・でも、青葉はこの話を聞いた瞬間、顔を真っ赤にして叫んだ。

「ちょ、ちょっと待ってください!私は何も聞いてないし、たいだい承知していませんよ!!」

「何度も言うけど、今までの人たちは会長のところへ話を持って行って、大半は1回で諦めたけど、中には諦めきれずシツコイくらいに会長に迫って会長が断りきれなくなった時に出した条件が『駒里君に勝ったらOK』だったから、全員駒里君に『し・・』あー、いや、あのNGワードを使って君との対戦を申し込み、そして全員返り討ちにあった」

「あー、いやー、私はそんなつもりで言ったんじゃあなくて・・・」

「その後の事はおれが説明しなくても分かっている筈だから省略するけど、まさかとは思うけど、剣道部をたった一人であそこまでボコボコにした駒里大成ともあろう人物が不戦敗を望むとは思えないけどね」

「はー・・・」

 おいおい、勘弁してくれよなあ。石狩先輩は男子柔道部の副部長にして目名めな先輩と並ぶ清風山せいふうざん高校のエース格。という事は『柔道の試合』をやれって事だよな。ただでさえ俺は石狩先輩には分が悪いのに・・・

「・・・石狩先輩、本気で俺に言ってますか?」

「もちろん本気だ」

「・・・それで、いつ試合をするんですか?今日は駒里武道館での合同練習はジイの都合や道場の電気工事の関係でありませんから、来週の金曜日にでもやる気なんですか?」

「あー、その事なんだが、詳しくは副会長と風紀委員長に聞いてくれ」

「「「「はあ!?」」」」

「じゃあ、おれはここで失礼するよ。駒里君、お互い正々堂々と試合をしよう」

 それだけ言うと石狩先輩は最初の時のようなにこやかな顔に戻り、生徒会室を出て行った・・・


 生徒会室には生徒会メンバーの6人が残された形になった・・・


 でも、誰一人として言葉を発することをしなかった・・・


 俺には石狩先輩の言ってる事の全てを理解した訳ではなかったが、今までで最大の難題を突き付けられたというのだけは理解できた・・・

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