第81話 大成、広内金先輩から謝罪されるけど・・・

青葉あおばクン、駒里こまさとクン、ホントにスマン!」

 そう言って広内金ひろうちがね先輩は頭を下げた。


 あの後、俺と青葉あおば石狩いしかり先輩が言った意味を確認したくて広内金ひろうちがね先輩と恵比島えびしま先輩に話し掛けたけど、広内金先輩は俺と青葉を無言のまま無理矢理生徒会室から連れ出し、黙って食堂へ行って自販機のジュースを自腹で2つ買って俺と青葉に渡した後に腰が直角になるくらいに頭を下げ、頭の上で手を合わせて謝った。さすがにこの時間の食堂は他に誰もいない。

 広内金先輩が何を謝っているのか全然分からないけど、とにかく俺と青葉は

「せんぱーい、このままだと何の事か分からないけど、とにかく頭を上げて下さいよお」

「そうですよ、華苗穂かなほ先輩らしくないですよ」

「・・・スマン」


 それだけ言うと広内金先輩は頭を上げたけど、いつものような、どちらかといえばヘラヘラした顔ではなく神妙な顔つきだった。

 俺たち3人は適当な椅子に座ったが、広内金先輩は「はーー・・・」と長いため息をついた後に話し始めた。

「じ、実は・・・今日の昼休みが始まった直後、月形つきがたの奴がボクのところへ突然やってきて『駒里大成たいせい君と試合をしたいから恵比島君に日程と会場の段取りを頼めないか?』って言い出したんだ」

「「へ?」」

「当然、ボクは門前払いしようとしたんだけど、月形がボソッと『あー、そういえばさあ、先週の土曜日に駒里君が赤いフレームの眼鏡を掛けた素敵な女性と歩いてたところを見たんだけどなあ』って言い出したから、ボクも月形の要求を呑むしかなくなったんだ」

 そう言うと広内金先輩は再び「はーーーーーーーーー・・・・・・・」と今度は先ほどよりも長ーいため息をついた。まあ、俺も青葉も苦笑いするしかなかったけどね。

「あのー、それって先週の土曜日の華苗穂先輩と大成の罰ゲームを石狩先輩が目撃したって事ですよね」

「恐らくな。多分、その時に俺と一緒にいた女性が広内金先輩だと石狩先輩は気付いたんだ」

「それが正解だと思うよ。どこで目撃されたかは知らないけど、スカートを履いてメイクもしてたし、眼鏡を掛けていたから『ボクだと気付く人はいないだろう』って高を括ってたから、虚を突かれた格好になったのは認める。ホントに済まなかった」

 そう言うと広内金先輩は再び頭の上で手を合わせて謝った。

 青葉は「別にその事で怒るような事はしませんから」と言ったけど、それでも広内金先輩は「スマン」ともう1回頭を下げた。

 青葉は「ふー」と軽く息を吐いた後

「・・・でも、それが校内で噂になってないって事は、石狩先輩はわざと口外しないでこの時のために取っておいたという事になりますから、ある意味、華苗穂先輩も『寝耳に水』ですね」

「そうだな・・・結果的に駒里クンには重ね重ね申し訳ない事をした。ホントにスマン」

 そう言うと広内金先輩は今度は俺に頭を下げた。

 俺も苦笑いするしかなかったけど、過ぎた事をとやかく言っても始まらない。これから起こる事をどうするかを優先して考えるべきだ。

「広内金先輩、その事はもういいですよ。それより、いつ、どこで試合をするんですか?」

「あー、それがだなあ・・・次の月曜日だ」

「「月曜日!?」」

「さすがにボクも月形に『その女性はボクだ』とは言えなかったから、仕方なくボクが月形を連れて恵比島クンのところへ行って、『恵比島クン、頼むよ」って頭を下げたんだ。当然だけど恵比島クンは『勘弁してくれよなあ」などと不機嫌を隠す事なくボクに相当文句を言ったけど、何だかんだ言いつつも男子柔道部顧問の鬼峠おにとうげ先生や生徒指導担当の蕗ノ台ふきのだい先生、校長先生に話をして、月曜日の放課後、武道館2階の柔道場で試合を行う事になったんだ」

「まあ、柔道部としても自分たちをPRする絶好の機会でしょうね。しかも剣道部のエース二人をたった一人でボコボコにした大成といえども、柔道では石狩先輩と目名めな先輩にはですからね。目名先輩は柔道以外では温厚な人ですから大成と個人的勝負を挑むような事はしないでしょうけど、石狩先輩は校内でも1、2を争うイケメンとして知られてるから知名度は抜群ですよ。鬼峠先生にしてみれば柔道部をアピールする絶好の機会でもあるから、まさに『渡りに船』って感じよね」

「そういう事だ。何しろ恵比島クンが言うには鬼峠先生自身が審判をやるって超ハイテンションでいるみたいだからなあ」

「勘弁してくれよなあ。どう見たって俺が試合に負けたら『こまさとー!柔道部へ入って鍛え直せ!!』とか言って無理矢理柔道部へ加入させる気だぞ」

「大成も石狩先輩とは分が悪い、というより勝率3割に届かないんでしょ?目名先輩とならほぼ互角か大成がちょっとだけ負け越してる程度だから、まさに清風山せいふううざん高校最強の刺客よね」

「ボクもそう思うぞ。しかも月形の奴が既に野球部とかサッカー部といった、駒里クンのにベラベラ喋りまくってるから、この連中がこぞって試合を見に来るようだから、一昨日の剣道の時とは逆で今度は完全な悪役ヒールだからなあ」

「はーー・・・とにかく、その最強の刺客が青葉とのデートを賭けて『串内くしない青葉のボディーガード』とまで言われてる俺に『勝負』ではなく『試合』を申し込んできたのは事実なんだから、青葉、今回ばかりはデートが現実味を帯びてるって事だけは分かってるよな」

「たいせー、それは分かってるけど、ぜーったいに試合に勝ってよ、お願いだからさあ」

「そんな事を言われたって、この試合、さっきも俺の方が分が悪いってお前自身が言ったばかりじゃあないか!?」

「だからさあ、私はその勝率3割未満の方に賭けてるから、ぜっーたいに勝ってよ」

「まあ、試合には全力で挑むよ。でも、勝負は時の運とはいえ、今回ばかりは覚悟しておけよ」

「・・・分かった。でも大成、ぜーったいに勝ってよ」

「まあ、ボクも別の意味で駒里クンに勝ってもらわないと困る。月形の奴にあごで使われた形になったのは少々しゃくに障る、いや、大いに障るとでも言い直すべきか、、あいつが負ける瞬間をこの目で見て留飲を下げたいからなあ。頼んだぞ、駒里クン」

「はーーー・・・ま、やれるだけやってみますよ」

「「・・・・・」」

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